[2007年開催(2006年映画作品対象)]第79回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
アカデミー賞(Academy Awards)とは、映画芸術科学アカデミー(AMPAS: Academy of Motion Picture Arts and Sciences)が主催する、世界で最も権威ある映画賞のひとつです。アメリカ合衆国における映画の健全な発展と芸術・科学の品質向上を目的に、キャスト・スタッフなどの映画関係者を毎年部門別に表彰し、その成果を讃えています。
受賞者には賞金ではなく、金色のオスカー像(正式名称:Academy Award of Merit)が授与されることから、「オスカー賞(The Oscars)」の通称でも世界的に知られています。
アカデミー賞の歴史は、世界三大映画祭(カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭)よりも古く、第1回の授賞式は1929年5月16日にハリウッドのルーズヴェルト・ホテルで開催されました。以来、約1世紀にわたって継続されており、世界中の映画ファンや業界関係者が注目する映画界最大のイベントとなっています。
アカデミー賞へのノミネートおよび受賞結果は世界中のメディアで大きく報道され、対象映画の興行成績やストリーミング配信の視聴数にも多大な影響を与えます。ノミネート作品・受賞作品は、映画界で著名なプロデューサー、監督、脚本家、俳優、批評家など約10,000人の会員で構成される選考委員の投票によって選ばれます。
第79回アカデミー賞(2007年開催)の概要
第79回アカデミー賞授賞式は、2007年2月25日にカリフォルニア州ロサンゼルスのコダック・シアター(現ドルビー・シアター)で開催されました。司会はコメディアンのエレン・デジェネレス(Ellen DeGeneres)が務めました。対象となったのは2006年に公開された映画作品です。
この年のアカデミー賞では、マーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)監督が『ディパーテッド(The Departed)』で悲願の監督賞を初受賞し、同作品は作品賞・脚色賞・編集賞と合わせて4部門を制覇しました。スコセッシ監督は過去に5度ノミネートされながら受賞を逃しており、この年の受賞は映画ファンの間で大きな話題となりました。
また、『パンズ・ラビリンス(Pan's Labyrinth)』がギレルモ・デル・トロ(Guillermo del Toro)監督のもと撮影賞・美術賞・メイクアップ賞の3部門を受賞し、スペイン内戦を背景にしたダーク・ファンタジーの傑作として高く評価されました。日本からは菊地凛子が『バベル(Babel)』で助演女優賞にノミネートされ、国際的に注目を集めました。クリント・イーストウッド(Clint Eastwood)監督の『硫黄島からの手紙(Letters from Iwo Jima)』も作品賞・監督賞・脚本賞・音響編集賞にノミネートされ、日本の歴史を題材にした作品として話題となりました。
以下に、第79回アカデミー賞(2007年開催・2006年映画作品対象)の全部門における受賞作品およびノミネート作品を一覧でまとめています。作品名から動画配信サービスへのリンクも掲載していますので、気になる作品をぜひご覧ください。
[2007年開催(2006年映画作品対象)]第79回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
作品賞 / Sakuhin Shou[Best Picture]
作品賞は、アカデミー賞において映画に授与される最高の栄誉であり、プロデューサーが受賞者となります。その年に公開された全ての映画を対象とした、映画界最大の評価基準として世界中で注目されます。第79回では、マーティン・スコセッシ監督の『ディパーテッド』が受賞しました。本作は香港映画『インファナル・アフェア(無間道)』をハリウッドでリメイクしたクライム・スリラーで、レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン、ジャック・ニコルソンという豪華キャストが集結。潜入捜査官と警察内のスパイが互いを追うという二重スパイの構造が絶妙なサスペンスを生み出し、批評家と一般観客の双方から絶大な支持を受けた作品です。
| 受賞 Winner |
ディパーテッド[The Departed] |
| ノミネート Nominees |
バベル[Babel] |
監督賞 / Kantoku Shou[Best Director]
監督賞は、映画の芸術的・商業的な成功を総合的に統括した監督の卓越した功績を讃える賞です。マーティン・スコセッシ監督は、1980年の『レイジング・ブル』以降、『グッドフェローズ』『ギャング・オブ・ニューヨーク』『アビエイター』と5度のノミネートを重ねながらも受賞を逃し続けてきました。そして2007年、『ディパーテッド』でついに悲願の初受賞を達成しました。授賞式でスティーヴン・スピルバーグ、フランシス・フォード・コッポラ、ジョージ・ルーカスという3大巨匠がプレゼンターとして登場したことは映画史に残る名場面として語り継がれています。スコセッシ監督の受賞は単なる個人の栄誉にとどまらず、映画芸術への多大なる貢献が正式に認められた歴史的瞬間でした。
| 受賞 Winner |
ディパーテッド[The Departed] |
| ノミネート Nominees |
バベル[Babel] |
主演男優賞 / Shuen Danyuh Shou[Best Actor]
主演男優賞は、その年に公開された映画の主役を演じた男優の中で最も優れた演技を称える賞です。第79回では、フォレスト・ウィテカーがウガンダの独裁者イディ・アミンを演じた『ラストキング・オブ・スコットランド』で受賞しました。ウィテカーはこの役のためにスワヒリ語の習得、アコーディオン演奏の練習、イディ・アミンの映像・音声資料の徹底的な研究を重ね、独裁者の魅力と狂気を見事に体現しました。その圧倒的な存在感と没入感あふれる演技は、アカデミー会員を始め世界中の批評家から絶賛を受けました。競合にはレオナルド・ディカプリオ(『ブラッド・ダイヤモンド』)やウィル・スミス(『幸せのちから』)、ピーター・オトゥール(『ヴィーナス』)ら実力派俳優が並ぶ激戦の年でした。
| 受賞 Winner |
ラストキング・オブ・スコットランド[The Last King of Scotland] |
| ノミネート Nominees |
ブラッド・ダイヤモンド[Blood Diamond] |
主演女優賞 / Shuen Danyuh Shou[Best Actress]
主演女優賞は、その年に公開された映画の主役を演じた女優の中で最も優れた演技を称える賞です。第79回では、ヘレン・ミレンが英国のエリザベス2世女王を演じた『クィーン』で受賞しました。1997年のダイアナ妃事故死という実際の出来事を背景に、国民感情と王室の責務の間で葛藤する女王の内面を繊細かつ力強く表現したミレンの演技は、圧倒的な支持を集めました。実在の人物を演じる難しさを乗り越え、個人としての感情と君主としての義務の板挟みを体現したその演技は、今日でもアカデミー史上最高の演技のひとつとして称えられています。メリル・ストリープ(『プラダを着た悪魔』)やケイト・ウィンスレット(『リトル・チルドレン』)もノミネートされた競争の激しい部門でした。
| 受賞 Winner |
クィーン[The Queen] |
| ノミネート Nominees |
ボルベール(帰郷)[Volver] |
助演男優賞 / Joen Danyuh Shou[Best Supporting Actor]
助演男優賞は、映画において主役を支える印象的な役を演じた男優の功績を讃える賞です。第79回では、アラン・アーキンが家族ロードムービーの傑作『リトル・ミス・サンシャイン』で、薬物依存症のぶっ飛んだ祖父を演じて受賞しました。笑いと哀愁を交えながら孫娘の夢を全力で応援するその姿は、映画全体の感動の核となりました。アーキンは1960年代から映画界で活躍するベテラン俳優であり、70代にして初のアカデミー賞受賞を果たしたことも大きな話題を集めました。エディ・マーフィ(『ドリームガールズ』)やマーク・ウォールバーグ(『ディパーテッド』)など、個性豊かな俳優がノミネートされた激戦の部門でした。
| 受賞 Winner |
リトル・ミス・サンシャイン[Little Miss Sunshine] |
| ノミネート Nominees |
リトル・チルドレン[Little Children] |
助演女優賞 / Joen Joyuh Shou[Best Supporting Actress]
助演女優賞は、映画において主役を支える印象的な役を演じた女優の功績を讃える賞です。第79回では、ジェニファー・ハドソンがミュージカル映画『ドリームガールズ』で受賞しました。オーディション番組「アメリカン・アイドル」でのシーズン3敗退から一転、映画デビュー作でアカデミー賞を獲得するという奇跡の快挙を成し遂げました。その圧倒的な歌唱力と感情表現は審査員を圧倒し、「今世紀最高のデビュー」とも称されました。また、日本人俳優の菊地凛子が『バベル』でノミネートを果たしたことも、日本の映画ファンにとって特別な出来事として記憶されています。菊地凛子のノミネートは、日本人俳優の国際的な評価と活躍を示す重要な出来事となりました。
| 受賞 Winner |
ドリームガールズ[Dreamgirls] |
| ノミネート Nominees |
バベル[Babel] |
脚本賞 / Kyakuhon Shou[Best Original Screenplay]
脚本賞(オリジナル脚本賞)は、既存の作品を原作としない完全にオリジナルの脚本に贈られる賞です。第79回では、マイケル・アーントが手がけた『リトル・ミス・サンシャイン』が受賞しました。アーントはこの脚本の完成に10年以上を費やしたとも言われており、失敗続きの家族が一台のバスで旅をするというシンプルな設定の中に、人生の意味や成功の定義、家族の絆を巧みに盛り込みました。機知に富んだ対話と各キャラクターの個性が際立つ脚本は、低予算のインディーズ映画を全米興行収入1億ドル超えのヒット作に押し上げた原動力となりました。『バベル』のギジェルモ・アリアガや『パンズ・ラビリンス』のギレルモ・デル・トロなど、強力なノミネート候補がひしめく部門でした。
| 受賞 Winner |
リトル・ミス・サンシャイン[Little Miss Sunshine] |
| ノミネート Nominees |
バベル[Babel] |
脚色賞 / Kyakushoku Shou[Best Adapted Screenplay]
脚色賞(アダプテッド脚本賞)は、既存の文学作品・映画・テレビ番組・その他の素材を原作として映画用に脚色した脚本に贈られる賞です。第79回では、ウィリアム・モナハンが香港映画『インファナル・アフェア(無間道)』を基に脚色した『ディパーテッド』が受賞しました。モナハンは原作の骨格となる二重スパイ構造を維持しながら、舞台をボストンに移し、アイルランド系マフィアとアメリカ社会特有の文化的文脈を加えることで、まったく異なる魅力を持つ作品に昇華させました。原作の本質的な緊張感を損なうことなく、ハリウッド的なスペクタクルと文学的な深みを融合させた脚色力が高く評価されました。
| 受賞 Winner |
ディパーテッド[The Departed] |
| ノミネート Nominees |
ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習[Borat: Cultural Learnings of America for Make Benefit Glorious Nation of Kazakhstan] |
長編アニメ映画賞 / Chouhen Anime Eiga Shou[Best Animated Feature Film]
長編アニメ映画賞は、70分以上の長編アニメーション映画を対象とした部門で、2002年の第74回アカデミー賞から設立されました。第79回では、ジョージ・ミラー監督が手がけたペンギンのタップダンスをテーマにした感動作『ハッピー フィート』が受賞しました。踊ることで自己表現をするペンギンの物語は、個性と社会的圧力、そして環境問題をテーマとしており、子どもから大人まで楽しめる内容として世界中で大ヒットしました。CGアニメーションの技術的な完成度と物語の普遍的なメッセージが高く評価されました。ピクサー制作で興行的にも大成功を収めた『カーズ』やロバート・ゼメキス製作の『モンスター・ハウス』も強力な競合作品としてノミネートされました。
| 受賞 Winner |
ハッピー フィート[Happy Feet] |
| ノミネート Nominees |
カーズ[Cars] |
外国語映画賞 / Gaikokugo Eiga Shou[Best Foreign Language Film]
外国語映画賞は、英語以外の言語で制作された映画を対象とする部門です。各国から提出された候補作の中から選考委員会が5作品をノミネートし、アカデミー会員の投票で受賞作が決定されます。第79回では、東ドイツ時代の秘密警察「シュタージ(Stasi)」による市民監視をテーマにしたドイツ映画『善き人のためのソナタ』が受賞しました。フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督の長編映画デビュー作でありながら、芸術と人間の良心が抑圧的な体制に対してどのような力を持ちうるかを描いた本作は、世界中で高い評価を得ました。スペイン語のダーク・ファンタジー映画『パンズ・ラビリンス』も外国語映画賞の強力な候補として注目を集めましたが、技術部門での3冠に輝きました。
| 受賞 Winner |
善き人のためのソナタ[The Lives of Others] |
| ノミネート Nominees |
アフター・ウェディング[After the Wedding] |
長編ドキュメンタリー映画賞 / Chouhen Documentary Eiga Shou[Best Documentary Feature]
長編ドキュメンタリー映画賞は、40分以上のドキュメンタリー映画の中で最も優れた作品に贈られる賞です。第79回では、アル・ゴア元米国副大統領が地球温暖化問題を分かりやすく解説したドキュメンタリー映画『不都合な真実』が受賞しました。デイヴィス・グッゲンハイム監督が手がけた本作は、科学的データと個人的なエピソードを織り交ぜながら、気候変動の深刻さを一般市民にも理解できる形で伝えることに成功しました。世界中で公開されてベストセラー書籍にもなり、国際的な環境意識の向上に多大な貢献をしました。ゴア元副大統領はその後、本作での活動が評価され2007年にノーベル平和賞を受賞しており、一本のドキュメンタリー映画が社会変革に果たしうる力を証明した作品と言えます。
| 受賞 Winner |
不都合な真実[An Inconvenient Truth] |
| ノミネート Nominees |
フロム・イーブル[Deliver Us from Evil] |
短編ドキュメンタリー映画賞 / Tanpen Documentary Eiga Shou[Best Documentary Short Subject]
短編ドキュメンタリー映画賞は、40分未満の短編ドキュメンタリー映画を対象とした部門です。第79回では、中国農村部でのエイズ感染によって親を失った子どもたちの実態を描いた『中国 エイズ孤児の村(The Blood of Yingzhou District)』が受賞しました。ルビー・ヤン監督とトーマス・レノン監督による本作は、中国のHIV/エイズ問題と、その被害を受けた孤児たちが直面する社会的偏見と差別を克明に記録した作品です。社会問題に真摯に向き合うドキュメンタリーの力が評価されました。短編ドキュメンタリーは上映機会が限られるため、アカデミー賞でのノミネートや受賞が作品の認知度を大きく高める重要な機会となっています。
| 受賞 Winner |
中国 エイズ孤児の村[The Blood of Yingzhou District] |
| ノミネート Nominees |
Recycled Life |
短編映画賞 / Tanpen Eiga Shou[Best Live Action Short Film]
短編映画賞(実写短編映画賞)は、40分未満の実写短編映画を対象とした部門です。第79回では、イスラエルとパレスチナの対立地区を舞台に、ファラフェル店をめぐる愛と争いをミュージカル・コメディで描いた『ウェストバンク・ストーリー』が受賞しました。アリ・サンデル監督による本作は、『ウェスト・サイド・ストーリー』を明らかにオマージュした作風で、深刻な国際政治問題をユーモラスに風刺しながらも、愛と共存の可能性を示すメッセージを込めた作品です。社会的に難しいテーマを軽快なエンターテインメントとして昇華させた演出力が高く評価されました。短編映画賞は若手映画監督にとって大きなキャリアの飛躍台となる重要な部門です。
| 受賞 Winner |
ウェストバンク・ストーリー[West Bank Story] |
| ノミネート Nominees |
ちいさなビンタ[Binta and the Great Idea] |
短編アニメ賞 / Tanpen Anime Shou[Best Animated Short Film]
短編アニメ賞(アニメーション短編映画賞)は、40分未満のアニメーション短編映画を対象とした部門で、アニメーション芸術の創造性と革新性を評価します。第79回では、ノルウェーの詩人とデンマークの女性の出会いをナレーション形式で綴った作品『The Danish Poet』が受賞しました。カナダ出身のノルウェー人アニメーター、トリル・コーヴが監督・制作した本作は、偶然の出会いが人の人生に与える影響を、シンプルで温かみのある絵柄と詩情豊かなストーリーテリングで描いた作品です。ピクサー制作の『リフテッド』やディズニーの『マッチ売りの少女』など、メジャースタジオの作品を押しのけての受賞であり、独立系アニメーションの芸術性が高く評価された結果となりました。
| 受賞 Winner |
The Danish Poet |
| ノミネート Nominees |
リフテッド[Lifted] |
作曲賞 / Sakkyoku Shou[Best Original Score]
作曲賞は、映画のために書き下ろしたオリジナルの音楽スコア(劇伴音楽)の優秀さを評価する賞です。第79回では、アルゼンチン出身のギタリスト・作曲家、グスターボ・サンタオラヤが『バベル』の音楽で受賞し、前年の『ブロークバック・マウンテン』に続く2年連続での作曲賞受賞という快挙を達成しました。日本・モロッコ・メキシコ・アメリカの4ヶ国を舞台に展開するオムニバス形式の物語『バベル』において、サンタオラヤは各国の文化的背景を反映しながらも普遍的な感情を表現する音楽を作り上げ、複雑な物語に統一感を与えました。フィリップ・グラス(『あるスキャンダルの覚え書き』)やハビエル・ナバレテ(『パンズ・ラビリンス』)など、著名作曲家たちとの競合を制しての受賞でした。
| 受賞 Winner |
バベル[Babel] |
| ノミネート Nominees |
さらば、ベルリン[The Good German] |
歌曲賞 / Kashou Shou[Best Original Song]
歌曲賞は、映画のために書き下ろしたオリジナル楽曲(ボーカル付きの歌)に贈られる賞です。第79回では、環境問題への意識を呼びかける楽曲「I Need to Wake Up」が、映画『不都合な真実』のために作られ、シンガーソングライターのメリッサ・エスリッジが作詞・作曲・歌唱を担当して受賞しました。地球温暖化問題と向き合うことを聴衆に訴えかけるメッセージ性の高い楽曲であり、映画のテーマと完璧に呼応した内容が評価されました。一方、ミュージカル映画『ドリームガールズ』からは3曲(「Listen」「Love You I Do」「Patience」)が同一部門にノミネートされるという異例の事態も注目を集めました。1曲の映画から複数のノミネートが認められたことで、その後のアカデミー賞規定変更(1作品1曲のみのノミネートへの制限)にも影響を与えました。
| 受賞 Winner |
“I Need to Wake Up" – 不都合な真実[An Inconvenient Truth] |
| ノミネート Nominees |
“Listen" – ドリームガールズ[Dreamgirls] |
音響編集賞 / Onkyou Henshuh Shou[Best Sound Editing]
音響編集賞(サウンド編集賞)は、映画の音響効果・音響デザインの優秀さを評価する賞です。効果音の作成・収集・編集を担うサウンド・エディターの仕事を称えます。第79回では、クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』が受賞しました。日本の視点から描いた硫黄島の戦闘シーンにおける銃声・爆発音・兵士の声などの音響は、戦場のリアルな臨場感を高い精度で再現しました。同じイーストウッド監督の対作品である『父親たちの星条旗』もノミネートされており、同一監督の2作品が同部門でノミネートされた珍しい例となりました。『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』や『ブラッド・ダイヤモンド』もノミネートされた激戦の部門でした。
| 受賞 Winner |
硫黄島からの手紙[Letters from Iwo Jima] |
| ノミネート Nominees |
アポカリプト[Apocalypto] |
録音賞 / Rokuon Shou[Best Sound Mixing]
録音賞(サウンド・ミキシング賞)は、映画全体のセリフ・音楽・効果音を最終的にバランス良く融合させた音声ミキシング技術を評価する賞です。音響編集賞が音響素材の制作・編集を評価するのに対し、録音賞はそれらを統合して最終的な映画音響を完成させるプロセスを評価します。第79回では、ミュージカル映画『ドリームガールズ』が受賞しました。マイケル・ミンクラー、ボブ・ビーマー、ウィリー・D・バートンによるミキシングチームは、複雑な楽曲・パワフルな歌声・多彩な効果音を高い水準で融合させ、劇場での映画体験に不可欠な臨場感あふれるサウンドを作り上げました。この年は音響編集賞と録音賞の受賞作品が異なり、各部門での基準の違いが浮き彫りになりました。
| 受賞 Winner |
ドリームガールズ[Dreamgirls] |
| ノミネート Nominees |
アポカリプト[Apocalypto] |
美術賞 / Bijutsu Shou[Best Production Design]
美術賞(プロダクション・デザイン賞)は、映画の美術監督とセット装飾担当者に贈られる賞です。映画の視覚的世界観を構築するセット・デザイン、ロケ地の選定、プロップの配置などを評価します。第79回では、ギレルモ・デル・トロ監督のスペイン語ダーク・ファンタジー映画『パンズ・ラビリンス』が受賞しました。エウヘニオ・カバレロとピラール・レブエルタによるデザインチームは、スペイン内戦直後という殺伐とした現実世界と、少女オフェリアが逃避する神秘的で危険なファンタジー世界を、色彩・質感・形状において対照的に表現することに成功しました。現実世界をモノクロームに近いくすんだ色調で、ファンタジー世界を豊かな色彩と奇怪な形状で描き分けた美術は、映画の世界観を視覚的に支える重要な要素となりました。
| 受賞 Winner |
パンズ・ラビリンス[Pan’s Labyrinth] |
| ノミネート Nominees |
ドリームガールズ[Dreamgirls] |
撮影賞 / Satsuei Shou[Best Cinematography]
撮影賞は、映画の撮影監督(シネマトグラファー)が手がけたカメラワーク・照明・映像美を評価する賞です。ストーリーを視覚的に語る「映画の目」ともいうべき撮影技術の卓越さを称えます。第79回では、ギレルモ・ナヴァロが『パンズ・ラビリンス』の映像で受賞しました。現実世界とファンタジー世界という2つの異なる視覚言語を作り上げ、スペイン内戦という歴史的背景の暗鬱さと、ファンタジー世界の幻想的な美しさを対比させた映像表現が高く評価されました。ナヴァロとデル・トロ監督のコンビは長年にわたるコラボレーションによって確立された信頼関係の賜物でもあります。エマニュエル・ルベツキ(『トゥモロー・ワールド』)やウォーリー・フィスター(『プレステージ』)など、世界を代表する撮影監督が競合した部門でした。
| 受賞 Winner |
パンズ・ラビリンス[Pan’s Labyrinth] |
| ノミネート Nominees |
ブラック・ダリア[The Black Dahlia] |
メイクアップ&ヘアスタイリング賞 / Makeup、Hairstyling Shou[Best Makeup and Hairstyling]
メイクアップ&ヘアスタイリング賞は、映画において俳優をキャラクターに変身させるメイクアップとヘアスタイリングの技術を評価する賞です。第79回では、『パンズ・ラビリンス』がダビ・マルティとモンセ・リベの受賞チームとともに栄冠を獲得しました。ファンタジー世界に登場する「ペイル・マン(青白い怪物)」や「フォーン(半人半山羊の精霊)」などの怪物キャラクターは、俳優ダグ・ジョーンズの身体を素材に、高度なプロテーゼ(特殊装具)とペイントを組み合わせて作り上げられたものです。特にペイル・マンの眼球を手のひらに移植したデザインは、映画史に残る独創的な視覚表現として語り継がれています。日本人メイクアップ・アーティストの辻一弘が『もしも昨日が選べたら』でノミネートを果たしたことも、この部門における日本人の国際的な活躍として注目されました。
| 受賞 Winner |
パンズ・ラビリンス[Pan’s Labyrinth] |
| ノミネート Nominees |
アポカリプト[Apocalypto] |
衣裳デザイン賞 / Ishou Design Shou[Best Costume Design]
衣裳デザイン賞は、映画で使用する衣裳のデザインの芸術性・歴史的考証・映画の世界観への貢献度を評価する賞です。第79回では、ミレーナ・カノネロが手がけたソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』が受賞しました。18世紀フランス王室を舞台にしながらも、カノネロは歴史的な衣裳様式の骨格を維持しつつ、現代的なパステルカラーや大胆なビジュアルを取り入れることで、歴史映画とポップカルチャーを融合させた斬新な衣裳デザインを実現しました。マリー・アントワネットを時代を超えた若者の象徴として描くコッポラ監督のビジョンを、衣裳の面から見事に体現した点が高く評価されました。アカデミー衣裳デザイン賞の選考では歴史的考証だけでなく、映画の芸術的意図への貢献も重要な評価基準となっています。
| 受賞 Winner |
マリー・アントワネット[Marie Antoinette] |
| ノミネート Nominees |
王妃の紋章[Curse of the Golden Flower] |
編集賞 / Henshuh Shou[Best Film Editing]
編集賞は、映画の映像編集技術を評価する賞で、編集によって生み出されるリズム・テンポ・緊張感・感情の流れを総合的に評価します。「映画は編集室で完成する」とも言われるほど、編集は映画の最終的な質を決定する重要なプロセスです。第79回では、マーティン・スコセッシ監督の長年の協力者であるセルマ・スクーンメイカーが『ディパーテッド』で受賞しました。スクーンメイカーとスコセッシの40年以上にわたるコラボレーションは、映画史上最も実り豊かなディレクター&エディターの関係として知られており、本作でのスクーンメイカーのアカデミー賞受賞は3度目でした(前2回は『レイジング・ブル』と『ギャング・オブ・ニューヨーク』)。複雑に絡み合うサスペンスの物語を、一切の無駄なく、かつ緊張感を高め続けた編集の技術は、映画そのものの成功に大きく貢献しました。
| 受賞 Winner |
ディパーテッド[The Departed] |
| ノミネート Nominees |
バベル[Babel] |
視覚効果賞 / Shikaku Kouka Shou[Best Visual Effects]
視覚効果賞は、映画におけるデジタルVFX(視覚的特殊効果)・CGI(コンピューターグラフィックス)・実写合成技術の優秀さを評価する賞です。第79回では、『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』が受賞しました。本作で特に評価されたのは、ビル・ナイが演じるデイヴィ・ジョーンズのキャラクターで、実際の俳優の顔にモーションキャプチャー技術を組み合わせ、タコのような質感と動きを持つCGキャラクターとして完璧に映像化しました。これは当時の映画技術における最先端の到達点であり、デジタルキャラクターが実写俳優と同様の表現力を持てることを証明した画期的な成果でした。また巨大な烏賊型怪物「クラーケン」の映像化も、スケールと精密さの両面で映画技術の新たな可能性を示した作品として技術者たちから高い評価を得ました。
| 受賞 Winner |
パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト[Pirates of the Caribbean: Dead Man’s Chest] |
| ノミネート Nominees |
ポセイドン[Poseidon] |
第79回アカデミー賞(2007年)の総括
2007年2月25日に開催された第79回アカデミー賞授賞式は、映画史に残る数々の歴史的瞬間が刻まれた特別な夜でした。その中心にあったのは、マーティン・スコセッシ監督の悲願の初受賞です。1980年代から映画界を牽引してきたスコセッシ監督が、5度ものノミネートを経てついに作品賞・監督賞・脚色賞・編集賞の4冠を達成した『ディパーテッド』は、アカデミー賞史においても特筆すべき作品として語り継がれています。香港映画を原作としながらも、ボストンの犯罪社会を舞台に独自のアメリカ映画として完成させたスコセッシ監督の手腕は、映画とは何かを改めて問いかけるものでした。
技術部門では、スペイン語のダーク・ファンタジー映画『パンズ・ラビリンス』が撮影賞・美術賞・メイクアップ&ヘアスタイリング賞の3冠を達成し、ファンタジー映画の可能性を大きく広げました。ギレルモ・デル・トロ監督が作り上げたスペイン内戦時代の現実とファンタジー世界の対比は、CGIに頼らず実際のセット・メイクアップ・撮影技術によって表現されており、職人芸の粋とも言える映像美が評価されました。この年の技術部門における『パンズ・ラビリンス』の活躍は、英語圏外の映画が技術的にも世界最高水準に達しうることを証明した画期的な出来事でもありました。
音楽・歌唱部門では、ミュージカル映画『ドリームガールズ』が録音賞と助演女優賞(ジェニファー・ハドソン)を獲得し、その圧倒的な音楽的エネルギーを証明しました。特に同作からの3曲が歌曲賞に同時ノミネートされた異例の事態は、後のアカデミー賞規定変更に影響を与えたほどです。作曲賞では、グスターボ・サンタオラヤが2年連続で受賞するという快挙を達成し、世界各国を舞台にした『バベル』の音楽で改めてその才能を証明しました。
ドキュメンタリー部門では、アル・ゴア元米国副大統領が地球温暖化問題を訴えた環境ドキュメンタリー映画『不都合な真実』が長編ドキュメンタリー賞と歌曲賞の2部門を受賞し、映画が社会的・政治的な変革のツールとなりうることを世界に示しました。ゴア元副大統領は同年のノーベル平和賞を受賞しており、映画と社会変革の関係を体現した象徴的な存在となりました。
外国語映画賞では、東ドイツの秘密警察シュタージによる市民監視を描いたドイツ映画『善き人のためのソナタ』が受賞しました。冷戦時代の全体主義と人間の良心という普遍的なテーマを扱った本作は、監督デビュー作ながら世界的な評価を獲得した作品です。この年の外国語映画部門は、スペイン語のメキシコ映画『パンズ・ラビリンス』、デンマーク映画『アフター・ウェディング』など、多様な国と言語からの意欲作がノミネートされ、国際映画の豊かさを改めて示しました。
日本との関わりという観点では、第79回アカデミー賞は特に注目すべき年でした。俳優の菊地凛子が『バベル』での演技で助演女優賞にノミネートされたことは、日本人俳優の国際的な演技力が世界から認められた歴史的な出来事です。クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』は作品賞・監督賞・脚本賞・音響編集賞の4部門にノミネートされ、日本の視点から太平洋戦争を描いたアメリカ映画が世界的に高く評価されたことは、日米の映画的対話という意味でも意義深いものでした。またメイクアップ部門では辻一弘が『もしも昨日が選べたら』でノミネートを果たし、日本人の技術力の高さを国際舞台で示しました。
第79回アカデミー賞は、英語映画・非英語映画を問わず、多様な国と文化から世界最高水準の映画が集まった年として、映画ファンの記憶に深く刻まれています。スコセッシの悲願達成、フォレスト・ウィテカーとヘレン・ミレンという演技力の頂点、『パンズ・ラビリンス』の技術的革新、『不都合な真実』の社会的影響力、そして日本人の国際的活躍と、映画が持つ多面的な価値と力を余すことなく示した授賞式でした。これらの受賞作品は、20年近く経た現在においてもその輝きを失わず、映画史に永遠に名を刻む傑作として愛され続けています。

