[1971年開催(1970年映画作品対象)]第43回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
アカデミー賞(Academy Awards)とは、映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences、略称:AMPAS)が主催する、世界で最も権威のある映画賞のひとつです。アメリカ合衆国における映画の健全な発展を促進し、映画芸術・科学の品質向上を目的として、キャスト・スタッフなどの映画関係者を毎年部門別に表彰しています。
受賞者には賞金ではなく、金色のオスカー像(Oscar statuette)が授与されることから「オスカー賞(The Oscars)」の通称で世界中に知られています。オスカー像は高さ約34cm、重さ約3.9kgの24金メッキのブリタニア合金製で、映画界において最高の栄誉の象徴とされています。
アカデミー賞の歴史は、世界三大映画祭(カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭)よりも古く、1929年5月16日にハリウッドのルーズヴェルト・ホテルで第1回授賞式が開催されました。以来、毎年世界中の映画ファンや業界関係者が注目する映画界最大のイベントとして定着しています。
アカデミー賞のノミネートおよび受賞結果は世界中で大きく報道され、各国における対象映画の興行成績や動画配信サービスでの視聴数に多大な影響を与えます。受賞作品やノミネート作品は映画史に名を刻み、後世にわたって高く評価され続けるため、映画ファンにとって必見の作品リストとなっています。
ノミネート作品および受賞作品は、映画界で著名なプロデューサー、監督、脚本家、俳優、批評家などで構成されるアカデミー会員の投票によって選出されます。その選考過程の厳格さと権威から、アカデミー賞受賞は映画作品・映画人にとって最高の名誉のひとつとされています。
本記事では、1971年4月15日にロサンゼルスのドロシー・チャンドラー・パビリオンで開催された第43回アカデミー賞授賞式(1970年公開映画作品が対象)の全部門における受賞作品とノミネート作品を一覧でまとめています。
第43回アカデミー賞(1971年)の概要と見どころ
第43回アカデミー賞は、1970年に公開された映画作品を対象として1971年4月15日に授賞式が行われました。この年の最大の話題は、作品賞・監督賞・主演男優賞・脚本賞など主要7部門を受賞した戦争映画の大作『パットン大戦車軍団(Patton)』の圧倒的な強さでした。
主演男優賞を受賞したジョージ・C・スコット(George C. Scott)は、アカデミー賞の授賞式を「肉のパレード」と批判し、史上初めて主演男優賞の受賞を辞退したことでも大きな話題を呼びました。この出来事はアカデミー賞の歴史における重要なエピソードとして広く知られています。
また、ロバート・アルトマン監督の反戦コメディ『M★A★S★H マッシュ(MASH)』が脚色賞を受賞し、カンヌ国際映画祭パルム・ドールとの二冠を達成。グレンダ・ジャクソン(Glenda Jackson)は『恋する女たち(Women in Love)』で主演女優賞を獲得し、英国女優の実力を世界に示しました。
音楽部門では、ビートルズ(The Beatles)がドキュメンタリー映画『レット・イット・ビー(Let It Be)』で編曲・歌曲賞を受賞。フランシス・レイ(Francis Lai)は『ある愛の詩(Love Story)』の美しいスコアで作曲賞を受賞しました。ドキュメンタリー部門では、伝説的な音楽フェスティバルを記録した『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間(Woodstock)』が長編ドキュメンタリー映画賞に輝いています。
さらに、日本とアメリカの合作映画『トラ・トラ・トラ!(Tora! Tora! Tora!)』が視覚効果賞を受賞し、撮影賞・録音賞・美術賞・編集賞にもノミネートされるなど、日本の映画技術が国際的に高く評価された年でもありました。
[1971年開催(1970年映画作品対象)]第43回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
作品賞 / Sakuhin Shou[Best Picture]
作品賞はアカデミー賞の中で最も権威ある最高賞であり、その年を代表する最優秀映画作品のプロデューサーに授与されます。第43回は、第二次世界大戦の英雄ジョージ・S・パットン将軍の生涯を壮大なスケールで描いたフランクリン・J・シャフナー監督の戦争大作『パットン大戦車軍団(Patton)』が受賞し、同年最多の7部門を制覇しました。ノミネート作品も、航空機テロを描いたディザスター映画の先駆け『大空港(Airport)』、ジャック・ニコルソンが出世作とした問題作『ファイブ・イージー・ピーセス(Five Easy Pieces)』、大ヒットラブストーリー『ある愛の詩(Love Story)』、ベトナム反戦の機運を背景に生まれたロバート・アルトマン監督の反戦コメディ『M★A★S★H マッシュ(MASH)』と、まさに時代を代表する多彩な傑作が揃いました。
| 受賞 Winner |
パットン大戦車軍団[Patton] |
| ノミネート Nominees |
大空港[Airport] |
監督賞 / Kantoku Shou[Best Director]
監督賞は、映画作品の芸術的・技術的な総合演出力を称える部門です。第43回では、フランクリン・J・シャフナー(Franklin J. Schaffner)が『パットン大戦車軍団』で卓越した演出力を評価され受賞しました。ノミネートにはイタリア映画界の巨匠フェデリコ・フェリーニ(Federico Fellini)が幻想的な叙事詩『サテリコン(Fellini Satyricon)』で、ロバート・アルトマン(Robert Altman)が反戦コメディ『M★A★S★H マッシュ』で、ケン・ラッセル(Ken Russell)が文芸映画『恋する女たち(Women in Love)』でそれぞれ名を連ね、アメリカとヨーロッパの映画作家が競い合う国際色豊かな激戦区となりました。
| 受賞 Winner |
パットン大戦車軍団[Patton] |
| ノミネート Nominees |
サテリコン[Fellini Satyricon] |
主演男優賞 / Shuen Danyuh Shou[Best Actor]
主演男優賞は、映画作品の主役を務めた俳優の演技を称える部門です。第43回では、ジョージ・C・スコット(George C. Scott)が『パットン大戦車軍団』で圧倒的な存在感を示したパットン将軍役で受賞しました。しかしスコットは授賞式前から「アカデミー賞の授賞式は肉のパレードだ」と批判しており、アカデミー賞史上初めて主演男優賞の受賞を公に辞退したことで世界中に衝撃を与えました。この出来事は映画産業と芸術家の関係について深い議論を巻き起こし、アカデミー賞史上最重要なエピソードのひとつとして今日でも語り継がれています。ノミネートには、後に映画界の頂点を極めるジャック・ニコルソン(Jack Nicholson)の『ファイブ・イージー・ピーセス』、後に『スター・ウォーズ』シリーズでダース・ベイダーの声を演じるジェームズ・アール・ジョーンズ(James Earl Jones)の『ボクサー(The Great White Hope)』なども含まれています。
| 受賞 Winner |
パットン大戦車軍団[Patton] |
| ノミネート Nominees |
父の肖像[I Never Sang for My Father] |
主演女優賞 / Shuen Joyuh Shou[Best Actress]
主演女優賞は、映画作品の主役を務めた女優の演技を称える部門です。第43回では、英国の実力派女優グレンダ・ジャクソン(Glenda Jackson)が、D・H・ローレンス原作の文芸映画『恋する女たち(Women in Love)』での大胆かつ知性的な演技で受賞しました。社会的・肉体的な解放をテーマにした挑戦的な役どころを見事に演じ切ったジャクソンの受賞は、英国女優の実力を世界に示すものでした。ノミネートには、大ヒットラブストーリー『ある愛の詩(Love Story)』のアリ・マッグロー(Ali MacGraw)、デヴィッド・リーン監督の叙情的な作品『ライアンの娘(Ryan's Daughter)』のサラ・マイルズ(Sarah Miles)、現代の主婦の不満を描いた問題作『わが愛は消え去りて(Diary of a Mad Housewife)』のキャリー・スノッドグレス(Carrie Snodgress)も含まれます。
| 受賞 Winner |
恋する女たち[Women in Love] |
| ノミネート Nominees |
ボクサー[The Great White Hope] |
助演男優賞 / Joen Danyuh Shou[Best Supporting Actor]
助演男優賞は、映画の主役を支えながらも印象的な演技を披露した男優を称える部門です。第43回では、英国の名優ジョン・ミルズ(John Mills)が『ライアンの娘(Ryan's Daughter)』で、台詞を一切持たない知的障害を持つ村人「マイケル」を全身の演技で表現した圧巻のパフォーマンスが高く評価され受賞しました。ノミネートには、翌年の第44回で『フレンチ・コネクション』を引っ提げ主演男優賞を受賞するジーン・ハックマン(Gene Hackman)、ネイティブ・アメリカンの権利運動を体現したチーフ・ダン・ジョージ(Chief Dan George)、『ある愛の詩』のジョン・マーレイ(John Marley)、コメディ映画『ふたりの誓い(Lovers and Other Strangers)』のリチャード・カステラーノ(Richard S. Castellano)も顔を揃え、多彩な顔触れとなりました。
| 受賞 Winner |
ライアンの娘[Ryan’s Daughter] |
| ノミネート Nominees |
ふたりの誓い[Lovers and Other Strangers] |
助演女優賞 / Joen Joyuh Shou[Best Supporting Actress]
助演女優賞は、映画に重要な役割で出演し際立った演技を披露した女優を称える部門です。第43回では、「ブロードウェイの第一女王(First Lady of the American Theatre)」と称えられるヘレン・ヘイズ(Helen Hayes)が、ディザスター映画『大空港(Airport)』での当惑した老婦人の密航者役で受賞しました。ヘイズは1932年の第5回アカデミー賞でも『マデロン・クローデ(The Sin of Madelon Claudet)』で主演女優賞を受賞しており、約40年の歳月を経て今度は助演女優賞を獲得するという異例のキャリアを示しました。ノミネートには、『ファイブ・イージー・ピーセス』のカレン・ブラック(Karen Black)、『M★A★S★H マッシュ』のサリー・ケラーマン(Sally Kellerman)、『真夜中の青春(The Landlord)』のリー・グラント(Lee Grant)、『大空港』のモーリン・ステイプルトン(Maureen Stapleton)と若手実力派が揃いました。
| 受賞 Winner |
大空港[Airport] |
| ノミネート Nominees |
ファイブ・イージー・ピーセス[Five Easy Pieces] |
脚本賞 / Kyakuhon Shou[Best Screenplay Written Directly for the Screen]
脚本賞(オリジナル脚本賞)は、既存の原作によらず完全にオリジナルで書き上げられた脚本を称える部門です。第43回では、フランシス・フォード・コッポラ(Francis Ford Coppola)とエドマンド・H・ノース(Edmund H. North)が、パットン将軍の回顧録と伝記を基にしながらも独自の解釈で完成させた『パットン大戦車軍団』の脚本で受賞しました。コッポラはこの受賞の翌年に監督・脚色として『ゴッドファーザー(The Godfather)』を世に送り出し、映画史上最重要な作品のひとつを生み出すことになります。ノミネートには、エリック・ロメール(Éric Rohmer)監督による哲学的なフランス映画『モード家の一夜(My Night at Maud's)』も含まれており、ハリウッドとヨーロッパ映画の知性が競い合う形となりました。
| 受賞 Winner |
パットン大戦車軍団[Patton] |
| ノミネート Nominees |
ファイブ・イージー・ピーセス[Five Easy Pieces] |
脚色賞 / Kyakushoku Shou[Best Screenplay Based on Material Previously Produced or Published]
脚色賞(脚色・翻案脚本賞)は、小説・舞台劇・その他の既存作品を映画用脚本に翻案した優れた作品を称える部門です。第43回では、リング・ラードナー・Jr.(Ring Lardner Jr.)が、リチャード・フッカーの小説を原作とした反戦コメディ映画『M★A★S★H マッシュ(MASH)』で受賞しました。朝鮮戦争時代の陸軍野戦病院を舞台に、軍隊組織の矛盾と不条理をブラックユーモアで描いたこの脚本は、ベトナム戦争が激化する当時のアメリカ社会に強烈な風刺として刺さり、カンヌ国際映画祭パルム・ドールとのダブル受賞を達成しました。また、ロバート・アルトマン監督はこの作品を機に世界的な名匠として認められることになります。
| 受賞 Winner |
M★A★S★H マッシュ[MASH] |
| ノミネート Nominees |
大空港[Airport] |
外国語映画賞 / Gaikokugo Eiga Shou[Best Foreign Language Film]
外国語映画賞は、英語以外の言語で制作された外国映画の中で最も優れた作品を称える部門です(現在は「国際長編映画賞」に改称)。第43回では、エリオ・ペトリ(Elio Petri)監督によるイタリア映画『殺人捜査(Investigation of a Citizen Above Suspicion)』が受賞しました。自ら殺人を犯した警察高官が法の目をあざむくという衝撃的な設定で、権力と腐敗の構造を鋭く批判したこの政治サスペンスは、イタリア国内だけでなく世界的に高い評価を受けました。ノミネートには、スイスのマクシミリアン・シェル監督『初恋(First Love)』、フランスの反戦映画『Hoa-Binh』、ベルギーの農村劇『Paix sur les champs』、ルイス・ブニュエル監督のスペイン映画『哀しみのトリスターナ(Tristana)』も名を連ね、多様な国際映画が競い合いました。
| 受賞 Winner |
殺人捜査[Investigation of a Citizen Above Suspicion] |
| ノミネート Nominees |
初恋[First Love] |
長編ドキュメンタリー映画賞 / Chouhen Documentary Eiga Shou[Best Documentary Feature]
長編ドキュメンタリー映画賞は、優れた長編ドキュメンタリー作品を称える部門です。第43回では、マイケル・ワドリー(Michael Wadleigh)監督の『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間(Woodstock)』が受賞しました。1969年8月にニューヨーク州ベセルで開催され、40万人以上が集まった伝説的な野外音楽フェスティバルを記録したこの映画は、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ザ・フー、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングなど錚々たるアーティストのパフォーマンスを収録しています。1960年代のカウンターカルチャー運動の頂点を記録した歴史的映像遺産として、今日でも最重要ドキュメンタリー映画のひとつとして高く評価されています。なお、同年にはウッドストックと並ぶロック時代の闇を記録したローリング・ストーンズのドキュメンタリー『ギミー・シェルター(Gimme Shelter)』もノミネートを逃した注目作として語られています。
| 受賞 Winner |
ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間[Woodstock] |
| ノミネート Nominees |
宇宙人は地球にいた[Erinnerungen an die Zukunft] |
短編ドキュメンタリー映画賞 / Tanpen Documentary Eiga Shou[Best Documentary Short Subject]
短編ドキュメンタリー映画賞は、優れた短編ドキュメンタリー作品を称える部門です。第43回では、ジョセフ・ストリック(Joseph Strick)監督の『Interviews with My Lai Veterans』が受賞しました。1968年にベトナム戦争中に起きたソンミ村虐殺事件(ミライの虐殺)の生存者と帰還兵へのインタビューを収録したこの作品は、戦争犯罪の実態と人間性の喪失を赤裸々に記録したドキュメンタリーです。当時のアメリカ社会に広がる反戦感情と道徳的葛藤を背景に、この作品は映画界に強烈な問いかけを投げかけ、アカデミー賞での受賞はその社会的意義を公式に認めるものとなりました。
| 受賞 Winner |
Interviews with My Lai Veterans |
| ノミネート Nominees |
短編映画賞 / Tanpen Eiga Shou[Best Live Action Short Film]
短編映画賞(短編実写映画賞)は、優れた短編の実写映画作品を称える部門です。第43回では、ジョン・ロンゲネッカー(John Longenecker)監督の『The Resurrection of Broncho Billy』が受賞しました。無声映画時代に人気を博したサイレント映画の西部劇スター「ブロンコ・ビリー」に扮した現代の若者が、スクリーンの外でもカウボーイとして生きようとする姿をユーモラスに描いた作品で、映画の歴史へのオマージュが込められています。ロンゲネッカーは南カリフォルニア大学(USC)の映画学生として本作を制作しており、学生映画がアカデミー賞を受賞した注目の例としても知られています。
| 受賞 Winner |
The Resurrection of Broncho Billy |
| ノミネート Nominees |
Shut Up…I’m Crying |
短編アニメ賞 / Tanpen Anime Shou[Best Animated Short Film]
短編アニメ賞は、優れたアニメーション短編映画を称える部門です。第43回では、ニック・ボサスタウ(Nick Bosustow)が制作した『Is It Always Right to Be Right?』が受賞しました。「常に正しいことが常に正解なのか」という哲学的な問いを中心に、分断された社会において人々が固定観念を超えて対話することの重要性を描いたアニメーション作品です。1970年代初頭のアメリカが抱える人種問題・政治対立・世代間対立といった社会の分断を反映した時代性の高い内容が評価されました。
| 受賞 Winner |
Is It Always Right to Be Right? |
| ノミネート Nominees |
The Further Adventures of Uncle Sam: Part Two |
作曲賞 / Sakkyoku Shou[Best Original Score]
作曲賞(オリジナル作曲賞)は、映画のために新たに書き下ろされたオリジナル音楽スコアを称える部門です。第43回では、フランス人作曲家フランシス・レイ(Francis Lai)が『ある愛の詩(Love Story)』のために書いた哀愁漂う美しいテーマ曲で受賞しました。アンディ・ウィリアムズが歌った主題歌「Where Do I Begin」とともに、このスコアは映画の感動を倍増させる名曲として今日まで語り継がれています。ノミネートには、ジェリー・ゴールドスミス(Jerry Goldsmith)による勇壮で力強い『パットン大戦車軍団』のマーチ、ヘンリー・マンシーニ(Henry Mancini)による叙情的で美しい『ひまわり(I Girasoli)』のテーマ(ソフィア・ローレン主演)なども含まれており、いずれも映画史に残る名スコアが競い合う激戦区でした。
| 受賞 Winner |
ある愛の詩[Love Story] |
| ノミネート Nominees |
大空港[Airport] |
編曲・歌曲賞 / Henkyoku Kakyoku Shou[Best Original Song Score or Adaptation Score]
編曲・歌曲賞は、ミュージカル映画などにおけるオリジナル歌曲スコアまたは既存楽曲の編曲に贈られる部門です(現在は廃止)。第43回では、ビートルズ(The Beatles)の解散直前のスタジオ録音とリハーサルを追いかけたドキュメンタリー映画『レット・イット・ビー(Let It Be)』が受賞しました。ジョン・レノン(John Lennon)、ポール・マッカートニー(Paul McCartney)、ジョージ・ハリスン(George Harrison)、リンゴ・スター(Ringo Starr)の4人全員が揃ってアカデミー賞を受賞したのは、後にも先にもこの1度きりです。世界最高峰のロックバンドが解散という最大の悲劇と引き換えに手にしたオスカーは、ポップカルチャーと映画芸術の交差点に永遠に刻まれた金字塔となっています。
| 受賞 Winner |
レット・イット・ビー[Let It Be] |
| ノミネート Nominees |
受胎の契約/ベビー・メーカー[The Baby Maker] |
歌曲賞 / Kashou Shou[Best Original Song]
歌曲賞(オリジナル主題歌賞)は、映画のために書き下ろされたオリジナルの歌曲の中で最も優れた作品を称える部門です。第43回では、「For All We Know」が映画『ふたりの誓い(Lovers and Other Strangers)』の主題歌として受賞しました。フレッド・カーリン(Fred Karlin)が作曲し、ロブ・ロイヤー(Robb Royer)とジェイムス・グリフィン(Jimmy Griffin)が作詞したこの曲は、受賞後にカーペンターズがカバーした版が全米・全英チャートを席巻し世界的大ヒットを記録。「We've only just begun to live...」の歌詞で始まる清楚なポップバラードは今日でも名曲として親しまれています。ノミネートには、ヘンリー・マンシーニとジョニー・マーサーのコンビによる『暁の出撃(Darling Lili)』の主題歌「Whistling Away the Dark」、ミシェル・ルグランが作曲した『美しき愛のかけら(Pieces of Dreams)』なども含まれます。
| 受賞 Winner |
“For All We Know" ⇒ ふたりの誓い[Lovers and Other Strangers] |
| ノミネート Nominees |
“Whistling Away the Dark" ⇒ 暁の出撃[Darling Lili] |
音響編集賞 / Onkyou Henshuh Shou[Best Sound Effects Editing]
音響編集賞は、映画における音響効果の創造と編集技術を称える部門です。アカデミー賞の歴史において、この部門は授賞年によって実施・不実施が変わる特殊な賞であり、第43回(1971年)は対象作品の選出がなく、本部門は授与されませんでした。次回以降の授賞式で改めて復活するまでの間、音響の技術的評価は録音賞によって代表されました。
| 受賞 Winner |
|
| ノミネート Nominees |
録音賞 / Rokuon Shou[Best Sound]
録音賞は、映画における音響録音の技術的な優秀性を称える部門です。第43回では、『パットン大戦車軍団』のダグラス・ウィリアムズ(Douglas Williams)とドン・ベースマン(Don Bassman)が受賞しました。戦場の砲声・戦車の轟音から静寂のシーンまで、緻密に設計された音響がスコープ映像の臨場感をさらに高めたとして高く評価されました。ノミネートには、日米合作の戦争映画『トラ・トラ・トラ!(Tora! Tora! Tora!)』がマーレイ・スピヴァック(Murray Spivack)とハーマン・ルイス(Herman Lewis)の名で選ばれており、真珠湾攻撃の爆撃音などを精巧に再現した日米混成スタッフの録音技術が国際的に認められた形となりました。
| 受賞 Winner |
パットン大戦車軍団[Patton] |
| ノミネート Nominees |
大空港[Airport] |
美術賞 / Bijutsu Shou[Best Art Direction]
美術賞は、映画の視覚的な美術・セットデザインおよびセット装飾の芸術的卓越さを称える部門です。第43回では、『パットン大戦車軍団』がウーリー・マックリアリー(Urie McCleary)、ギル・パロンド(Gil Parrondo)ほかのスタッフによるスペイン・モロッコを中心としたロケ地での壮大なセット美術で受賞しました。北アフリカ・シチリア・イングランド・フランスなど欧州各地の第二次世界大戦の戦場を精緻に再現した美術が称えられています。ノミネートには、日米合作の戦争映画『トラ・トラ・トラ!(Tora! Tora! Tora!)』も選ばれており、真珠湾の艦隊や飛行場を再現した日米美術スタッフの共同作業による精巧なセットが国際的な注目を集めました。
| 受賞 Winner |
パットン大戦車軍団[Patton] |
| ノミネート Nominees |
大空港[Airport] |
撮影賞 / Satsuei Shou[Best Cinematography]
撮影賞は、映画における撮影技術と映像美の芸術的卓越さを称える部門です。第43回では、フレディ・ヤング(Freddie Young)がデヴィッド・リーン(David Lean)監督の叙情大作『ライアンの娘(Ryan's Daughter)』でのアイルランドの荒々しい大自然を息をのむような美しさで捉えた映像で受賞しました。ヤングはリーン監督とのコンビで『アラビアのロレンス(Lawrence of Arabia)』(1962年)、『ドクトル・ジバゴ(Doctor Zhivago)』(1965年)でもすでに撮影賞を受賞しており、本作での受賞は3度目のオスカーとなりました。ノミネートには、日米合作映画『トラ・トラ・トラ!(Tora! Tora! Tora!)』で古谷伸、姫田真左久、佐藤昌道らの日本人撮影チームとチャールズ・F・ホイーラー(Charles F. Wheeler)が名を連ね、日本の映画撮影技術が国際的に認められた年となりました。
| 受賞 Winner |
ライアンの娘[Ryan’s Daughter] |
| ノミネート Nominees |
大空港[Airport] 恋する女たち[Women in Love] |
衣裳デザイン賞 / Ishou Design Shou[Best Costume Design]
衣裳デザイン賞は、映画の衣装・コスチュームの芸術的なデザインを称える部門です。第43回では、リチャード・ハリス(Richard Harris)主演の歴史大作『クロムウェル(Cromwell)』でニーノ・ノヴァレーゼ(Vittorio Nino Novarese)が受賞しました。17世紀イギリス清教徒革命を舞台にした本作の衣裳は、時代の歴史的正確さと舞台映えする芸術性を高いレベルで両立したとして評価されています。ノミネートには、ハリウッドを代表する衣裳デザイナーのイーディス・ヘッド(Edith Head)が『大空港』でノミネートされており、彼女は生涯で8度のアカデミー賞衣裳デザイン賞を受賞した伝説的デザイナーとして知られています。
| 受賞 Winner |
クロムウェル[Cromwell] |
| ノミネート Nominees |
大空港[Airport] |
編集賞 / Henshuh Shou[Best Film Editing]
編集賞は、映画の映像編集の技術的・芸術的な優秀性を称える部門です。第43回では、『パットン大戦車軍団』のヒュー・S・ファウラー(Hugh S. Fowler)が受賞しました。大規模な戦闘シーンから人物の細やかな表情まで、テンポよくリズミカルに繋がれた編集が高く評価されました。ノミネートには、後にマーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)監督作品の常連エディターとして映画史にその名を刻むセルマ・スクーンメイカー(Thelma Schoonmaker)が、ドキュメンタリー映画『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』で名を連ねています。スクーンメイカーはその後『レイジング・ブル』『グッドフェローズ』などで複数のアカデミー賞編集賞を受賞する偉大な編集者となりました。
| 受賞 Winner |
パットン大戦車軍団[Patton] |
| ノミネート Nominees |
大空港[Airport] |
視覚効果賞 / Shikaku Kouka Shou[Best Visual Effects]
視覚効果賞は、映画における特殊視覚効果(VFX・特殊撮影)の技術的な優秀性を称える部門です。第43回では、日米合作の戦争映画『トラ・トラ・トラ!(Tora! Tora! Tora!)』がA・D・フラワーズ(A. D. Flowers)とL・B・アボット(L. B. Abbott)の手による視覚効果で受賞しました。1941年12月7日の真珠湾攻撃を精巧なミニチュアと実写映像の合成で再現した映像技術は当時最先端のものとして高く評価されました。本作はリチャード・フライシャー(Richard Fleischer)監督がアメリカ側を、舛田利雄監督が日本側を担当した日米共同製作で、撮影賞・録音賞・美術賞・編集賞にもノミネートされており、日本の映画技術の水準の高さが国際的に証明された歴史的な年となりました。
| 受賞 Winner |
トラ・トラ・トラ![Tora! Tora! Tora!] |
| ノミネート Nominees |
パットン大戦車軍団[Patton] |
第43回アカデミー賞(1971年)受賞結果のまとめ
第43回アカデミー賞(1971年4月15日開催、1970年映画作品対象)は、フランクリン・J・シャフナー(Franklin J. Schaffner)監督の戦争大作『パットン大戦車軍団(Patton)』が作品賞・監督賞・主演男優賞・脚本賞・録音賞・美術賞・編集賞の7部門を制覇し、授賞式を完全に制した年として映画史に刻まれています。ロサンゼルスのドロシー・チャンドラー・パビリオンで開催されたこの授賞式は、単なる作品の多部門受賞にとどまらず、映画史に永遠に語り継がれる数々のエピソードが生まれた、特別な夜でもありました。
ジョージ・C・スコットの史上初の受賞辞退:主演男優賞を受賞したジョージ・C・スコット(George C. Scott)は、授賞式前から「アカデミー賞の授賞式は肉のパレードだ」と公言し、アカデミー賞史上初めて主演男優賞の受賞を公に拒否しました。受賞の通知を受けても出席せず、オスカー像の受け取りも拒絶したこの行動は、映画産業の商業主義と芸術家の矜持をめぐる根本的な問いを突きつけ、世界中で大きな議論を呼びました。この出来事は今もアカデミー賞史上最重要のエピソードのひとつとして記憶されています。
ビートルズが唯一手にしたオスカー:編曲・歌曲賞では、解散直後のビートルズ(The Beatles)のドキュメンタリー映画『レット・イット・ビー(Let It Be)』が受賞しました。ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターの4人全員が揃ってアカデミー賞を受賞したのは、後にも先にもこの1度きりです。世界最高峰のポップバンドが解散という最大の悲劇と引き換えに手にしたオスカーは、ポップカルチャーと映画芸術の歴史が交差した一瞬として、永遠に語り継がれます。
ウッドストックが映画史に残した記録:長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間(Woodstock)』は、1969年8月に開催され40万人以上が集まった伝説の野外音楽フェスティバルを克明に記録した映像遺産です。ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ザ・フー、ジョーン・バエズら時代を象徴するアーティストのパフォーマンスとともに、当時のカウンターカルチャー運動の熱気と理想が鮮やかに記録されています。受賞は、映画というメディアが社会運動の記録装置として果たす役割を公式に認めた画期的な出来事でした。
日本映画技術の国際的躍進:視覚効果賞を受賞した日米合作映画『トラ・トラ・トラ!(Tora! Tora! Tora!)』は、撮影賞・録音賞・美術賞・編集賞にも同時ノミネートされており、日本の映画スタッフが参加した作品がアカデミー賞の主要技術部門を席巻した例として特筆に値します。日本側の撮影チーム(古谷伸・姫田真左久・佐藤昌道)のノミネートは、日本映画界の技術力が世界最高峰の映画賞で正式に認められたことを意味し、日本映画史の重要な一ページを飾りました。
ニューハリウッドの夜明け:脚本賞を受賞したフランシス・フォード・コッポラ(Francis Ford Coppola)は、翌年『ゴッドファーザー(The Godfather)』を世に放ち映画史を塗り替えることになります。主演男優賞ノミネートのジャック・ニコルソン(Jack Nicholson)はこの後70年代のアメリカ映画を代表する俳優として頂点を極め、監督賞ノミネートのロバート・アルトマン(Robert Altman)は独自のアンサンブル映画スタイルで映画史に名を刻みました。第43回アカデミー賞は、旧来のハリウッドシステムが終焉を迎え、新世代の映画作家たちが台頭するニューハリウッド時代の幕開けを、まさにリアルタイムで記録した授賞式でした。
以上が第43回アカデミー賞(1971年開催、1970年映画作品対象)の全部門における受賞作品・ノミネート作品の完全一覧です。パットン将軍の伝記映画から反戦コメディ、ラブストーリー、伝説のロックドキュメンタリーまで、1970年という時代の多様な顔が凝縮されたラインナップです。各作品のリンクから動画配信サービスで視聴できますので、まだご覧になっていない作品があればぜひこの機会にチェックしてみてください。

