[1963年開催(1962年映画作品対象)]第35回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
アカデミー賞(Academy Awards)とは、映画芸術科学アカデミー(AMPAS: Academy of Motion Picture Arts and Sciences)が主催し、アメリカ合衆国における映画の健全な発展と芸術・科学の品質向上を目的に、キャスト・スタッフなど映画関係者を毎年部門別に表彰する映画賞です。受賞者には金色のオスカー像が授与されることから、オスカー賞(The Oscars)とも呼ばれています。
アカデミー賞の歴史は世界三大映画祭(カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭)よりも古く、第1回は1929年に開催されました。以来、世界中の映画ファンや業界関係者が注目する映画界最大級の祭典として知られています。ノミネート及び受賞結果は世界中で大きく報道され、各国における対象映画の興行成績にも多大な影響を与えます。
アカデミー賞のノミネート作品・受賞作品は、映画界で著名なプロデューサー、監督、脚本家、俳優、批評家などで構成される選考委員(アカデミー会員)の投票によって選ばれます。その高い選考基準と歴史的権威から、受賞作品は映画史に残る名作として語り継がれており、映画ファンなら一度は鑑賞しておきたい作品ばかりです。
第35回アカデミー賞(1963年開催)の概要と見どころ
1963年4月8日にカリフォルニア州サンタモニカのサンタモニカ・シビック・オーディトリアムで開催された第35回アカデミー賞は、1962年に公開された映画作品を対象としています。司会はフランク・シナトラが務めました。
この年のアカデミー賞は、デヴィッド・リーン監督の壮大な歴史叙事詩『アラビアのロレンス(Lawrence of Arabia)』が作品賞・監督賞・撮影賞(カラー)・美術賞(カラー)・編集賞・作曲賞・録音賞の7部門を制覇し、授賞式の主役となりました。第一次世界大戦中のアラビア半島を舞台に、英国陸軍将校T・E・ロレンスの波乱に満ちた実話を描いた本作は、フレディ・ヤングによる壮大な砂漠の映像美とモーリス・ジャールの荘厳な音楽が高く評価され、映画史に残る不朽の名作として知られています。
主演男優賞はグレゴリー・ペックが『アラバマ物語(To Kill a Mockingbird)』で受賞しました。ハーパー・リーの同名小説を原作とし、人種差別が根強い1930年代の米国南部アラバマ州で冤罪の黒人男性を弁護する正義感あふれる弁護士アティカス・フィンチを演じたペックの名演は、アメリカ映画協会(AFI)が選ぶ「映画史上最も偉大なヒーロー」第1位にも輝いています。
主演女優賞はアン・バンクロフトが『奇跡の人(The Miracle Worker)』で獲得。三重苦のヘレン・ケラーに言葉を教えた家庭教師アニー・サリバンの情熱と献身を力強く演じました。同作品では当時16歳のパティ・デュークがヘレン・ケラー役で助演女優賞を受賞し、当時のアカデミー賞史上最年少の助演女優賞受賞者として話題を集めました。
脚本賞にはイタリア映画『イタリア式離婚狂想曲(Divorce Italian Style)』が選ばれ、ピエトロ・ジェルミ監督による風刺の効いたブラックコメディが国際的に高く評価されました。外国語映画賞にはフランスの『シベールの日曜日(Sundays and Cybele)』が輝き、戦争の傷跡と少女との交流を繊細に描いた詩的な作品が審査員の心を掴みました。
以下では、第35回アカデミー賞(1963年開催・1962年映画作品対象)の全受賞作品・ノミネート作品を部門別に一覧でまとめています。
[1963年開催(1962年映画作品対象)]第35回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
作品賞 / Sakuhin Shou[Best Picture]
作品賞(Best Picture)は、アカデミー賞の中で最も権威ある賞であり、その年に公開された映画の中から最も優れた作品に贈られます。受賞者はプロデューサーであり、映画制作の総合的な卓越さが評価されます。第35回(1963年開催)は、デヴィッド・リーン監督の壮大な歴史叙事詩『アラビアのロレンス(Lawrence of Arabia)』が計7部門を制覇する圧倒的な強さを見せました。プロデューサーのサム・スピーゲルが受賞したこの作品は、第一次世界大戦中のアラビア半島を舞台にT・E・ロレンスの実話を描いた大作で、映画史上最も偉大な作品のひとつとして今もなお世界中で高く評価されています。
| 受賞 Winner |
アラビアのロレンス[Lawrence of Arabia] |
| ノミネート Nominees |
史上最大の作戦[The Longest Day] |
監督賞 / Kantoku Shou[Best Director]
監督賞(Best Director)は、映画全体の芸術的ビジョンを統括し、作品に命を吹き込んだ監督に与えられます。脚本の解釈から俳優の演技指導、撮影技法の選択、編集方針の決定に至るまで、映画制作の全工程における指揮力と独創性が評価されます。第35回はデヴィッド・リーン[David Lean]が『アラビアのロレンス』で受賞。リーンはこれ以前にも『戦場にかける橋(The Bridge on the River Kwai)』で作品賞・監督賞を受賞しており、大規模叙事詩映画の巨匠として映画史にその名を刻んでいます。砂漠地帯でのロケーション撮影における卓越した演出力と、人間の内面と壮大な自然を対比させた映像詩的な語り口は、現代の映画監督にも多大な影響を与え続けています。
| 受賞 Winner |
アラビアのロレンス[Lawrence of Arabia] |
| ノミネート Nominees |
リサの瞳のなかに[David and Lisa] |
主演男優賞 / Shuen Danyuh Shou[Best Actor]
主演男優賞(Best Actor)は、映画の主役を演じた男優に贈られる演技の最高峰です。技術的な演技力だけでなく、キャラクターへの深い没入と観客の心を動かす真実味のある表現が求められます。第35回はグレゴリー・ペック[Gregory Peck]が『アラバマ物語[To Kill a Mockingbird]』で、人種差別が根強い1930年代の米国南部アラバマ州で冤罪の黒人男性を弁護する正義感あふれる弁護士アティカス・フィンチを演じ受賞しました。その静かながらも揺るぎない道徳的強さを体現した演技は、アメリカ映画協会(AFI)が選ぶ「映画史上最も偉大なヒーロー」第1位に選出されるなど、映画史に残る名演として今もなお語り継がれています。
| 受賞 Winner |
アラバマ物語[To Kill a Mockingbird] |
| ノミネート Nominees |
終身犯[Birdman of Alcatraz] |
主演女優賞 / Shuen Joyuh Shou[Best Actress]
主演女優賞(Best Actress)は、映画の主役を演じた女優に贈られる演技の最高峰です。役への完全な没入感と内面の感情を的確に表現する能力が問われます。第35回はアン・バンクロフト[Anne Bancroft]が『奇跡の人[The Miracle Worker]』で、三重苦(目が見えない・耳が聞こえない・口がきけない)のヘレン・ケラーに言葉を教えた家庭教師アニー・サリバンを演じ受賞しました。信念と情熱を持ってヘレンに向き合い続ける教師の魂の葛藤を圧倒的なエネルギーで表現した演技は、共演のパティ・デュークのヘレン役とともに映画界で伝説的な対峙として讃えられています。なお本作はブロードウェイ初演でもバンクロフトがサリバン役を演じ、トニー賞を受賞した当たり役でした。
| 受賞 Winner |
奇跡の人[The Miracle Worker] |
| ノミネート Nominees |
何がジェーンに起ったか?[What Ever Happened to Baby Jane?] |
助演男優賞 / Joen Danyuh Shou[Best Supporting Actor]
助演男優賞(Best Supporting Actor)は、主演ではなく助演・脇役として登場した男優に贈られる賞で、主演に劣らない存在感と演技力で作品の完成度を高めた俳優が対象です。第35回はエド・ベグリー[Ed Begley]が『渇いた太陽[Sweet Bird of Youth]』で、テネシー・ウィリアムズの戯曲を映画化した本作において、野心的な政治家ボスの役を迫力たっぷりに演じ受賞しました。ノミネート作品には同年の作品賞候補にも名を連ねた『アラビアのロレンス』でオマー・シャリフ、『終身犯』でテリー・サバラスなど実力派が揃い、激戦となった部門でした。
| 受賞 Winner |
渇いた太陽[Sweet Bird of Youth] |
| ノミネート Nominees |
何がジェーンに起ったか?[What Ever Happened to Baby Jane?] |
助演女優賞 / Joen Joyuh Shou[Best Supporting Actress]
助演女優賞(Best Supporting Actress)は、主演ではなく助演・脇役として登場した女優に贈られる賞で、作品全体の完成度に大きく貢献した演技が対象です。第35回は当時わずか16歳のパティ・デューク[Patty Duke]が『奇跡の人[The Miracle Worker]』でヘレン・ケラー役を演じ受賞しました。言葉も光も音も知らない少女の怒りと恐れ、そして「初めて言葉を理解した」瞬間の喜びを全身で表現したデュークの演技は、映画史に残る名場面として語り継がれています。この受賞は当時のアカデミー賞史上最年少の助演女優賞受賞記録を打ち立てた歴史的なものでした。なお、アンジェラ・ランズベリー[Angela Lansbury]が『影なき狙撃者』でノミネートされ、後のキャリアとともに注目を集めた年でもありました。
| 受賞 Winner |
奇跡の人[The Miracle Worker] |
| ノミネート Nominees |
アラバマ物語[To Kill a Mockingbird] |
脚本賞 / Kyakuhon Shou[Best Screenplay Written Directly for the Screen]
脚本賞(Best Original Screenplay)は、原作を持たず映画のために書き下ろされたオリジナル脚本に贈られます。物語の独創性、登場人物の描写の深み、対話の質や構成力などが総合的に評価されます。第35回はイタリア映画『イタリア式離婚狂想曲[Divorce Italian Style]』が受賞しました。ピエトロ・ジェルミ監督が共同執筆したこの風刺的なブラックコメディは、離婚が法律で禁じられていた当時のイタリア社会で、妻を合法的に「処分」しようと画策する男の姿をユーモラスかつ鋭く描いており、イタリア映画の黄金期を代表する名作として国際的に高く評価されました。イングマール・ベルイマン[Ingmar Bergman]の『鏡の中にある如く』、アラン・ロブ=グリエの『去年マリエンバートで』など錚々たる作品がノミネートされた激戦区でした。
| 受賞 Winner |
イタリア式離婚狂想曲[Divorce Italian Style] |
| ノミネート Nominees |
フロイド/隠された欲望[Freud: The Secret Passion] |
脚色賞 / Kyakushoku Shou[Best Screenplay Based on Material Previously Produced or Published]
脚色賞(Best Adapted Screenplay)は、原作小説・戯曲・ノンフィクションなど既存の作品を元に書かれた映画脚本に贈られます。原作の魅力を保ちながらも映画というメディアの特性に最適化した翻案の技術と、原作を超える芸術的付加価値が評価されます。第35回はホートン・フート[Horton Foote]がハーパー・リーのピューリッツァー賞受賞小説を映画化した『アラバマ物語[To Kill a Mockingbird]』で受賞しました。南部における人種差別と法の正義という重厚なテーマを、子どもの視点から見た無垢な視線で描き直したフートの脚本は、原作の文学的美しさを映像言語へと見事に昇華した秀逸な脚色として高く評価されています。ウラジミール・ナボコフによる難解な自作小説の映画化『ロリータ』もこの部門にノミネートされ、注目を集めました。
| 受賞 Winner |
アラバマ物語[To Kill a Mockingbird] |
| ノミネート Nominees |
リサの瞳のなかに[David and Lisa] |
外国語映画賞 / Gaikokugo Eiga Shou[Best Foreign Language Film]
外国語映画賞(Best Foreign Language Film)は、英語以外の言語で製作された外国映画に贈られる賞で、アメリカ映画以外の優れた作品を讃えるものです。各国の映画機関が自国代表として1作品を選出・出品する形式で行われます。第35回はフランス映画『シベールの日曜日[Sundays and Cybele]』が受賞しました。セルジュ・ブールギニョン監督によるこの詩情豊かな作品は、戦争のトラウマで記憶を失った青年と孤独な少女の純粋な友情を、繊細な映像美と抒情的な語り口で描いており、批評家から絶賛を浴びました。同年のノミネート作品には、ギリシャの古典劇を映画化した『エレクトラ』やブラジル映画『サンタ・バルバラの誓い』など多彩な国々の作品が並び、1960年代の世界映画の多様な隆盛を感じさせます。
| 受賞 Winner |
シベールの日曜日[Sundays and Cybele] |
| ノミネート Nominees |
エレクトラ[Electra] |
長編ドキュメンタリー映画賞 / Chouhen Documentary Eiga Shou[Best Documentary Feature]
長編ドキュメンタリー映画賞(Best Documentary Feature)は、現実の出来事・人物・社会問題を題材にした長編ドキュメンタリー映画の中で、最も優れた芸術性・資料性・社会的意義を持つ作品に贈られます。第35回は『Black Fox』が受賞しました。ヒトラーとナチズムの台頭から終焉までを詳細な歴史的資料と映像記録で追ったこのドキュメンタリーは、20世紀最大の悲劇を証言する重要な映像遺産として制作されました。ナレーションにはマーロン・ブランドが起用され、作品に強い説得力を与えています。第二次世界大戦後のわずか17年という時代背景の中で公開されたこの作品は、当時の社会に大きな波紋を呼びました。
| 受賞 Winner |
Black Fox |
| ノミネート Nominees |
短編ドキュメンタリー映画賞 / Tanpen Documentary Eiga Shou[Best Documentary Short Subject]
短編ドキュメンタリー映画賞(Best Documentary Short Subject)は、短編のドキュメンタリー映画に与えられる賞で、短い上映時間の中で際立った社会的・芸術的価値を示した作品が対象です。第35回はウェールズが生んだ偉大な詩人ディラン・トーマス(Dylan Thomas, 1914–1953)の生涯と詩の世界を追ったドキュメンタリー『Dylan Thomas』が受賞しました。1953年に39歳の若さで夭折したトーマスの詩的な言葉と波乱に満ちた生涯を映像で記録したこの作品は、文学と映像の融合として高く評価されました。ノミネート作品には宇宙飛行士ジョン・グレンの物語『The John Glenn Story』など、当時の社会的関心を反映する作品が並びました。
| 受賞 Winner |
Dylan Thomas |
| ノミネート Nominees |
短編映画賞 / Tanpen Eiga Shou[Best Live Action Short Film]
短編映画賞(Best Live Action Short Film)は、実写の短編映画に贈られる賞です。限られた上映時間の中で高い芸術性・完成度・独創性を示した作品が評価されます。長編映画では表現しにくいコンパクトな物語構成と鋭い演出が求められ、新進気鋭の映画人が頭角を現す場でもあります。第35回はフランスのコメディ短編『Heureux Anniversaire(幸せな記念日)』が受賞しました。アニエル・ダルサン=ララ監督によるこの機知に富んだ短編は、パリの交通渋滞に巻き込まれた男性が妻との記念日ディナーに遅刻していく様子をユーモラスかつテンポよく描き、フランスならではのウィットに溢れる作品として審査員の高い評価を得ました。
| 受賞 Winner |
Heureux Anniversaire |
| ノミネート Nominees |
短編アニメ賞 / Tanpen Anime Shou[Best Animated Short Film]
短編アニメ賞(Best Animated Short Film)は、アニメーション手法を用いた短編映画に贈られる賞です。ディズニー全盛期から始まったこの部門は、時代とともに実験的・芸術的なアニメーション作品も評価されるようになり、世界各国のアニメーターが才能を競います。第35回はジョン・ハブリーとフェイス・ハブリー夫妻が制作した実験的アニメーション『The Hole』が受賞しました。核戦争の脅威をジャズ的な音楽と独特のビジュアルスタイルを用いてブラックユーモアで描いたこの作品は、当時の核軍備競争に対する鋭い社会批評を含んでおり、高い芸術性と社会的メッセージが評価されました。ノミネート作品にはディズニー製作の『Symposium on Popular Songs』やワーナー・ブラザースの実験的アニメ作品も並びました。
| 受賞 Winner |
The Hole |
| ノミネート Nominees |
Icarus Montgolfier Wright |
作曲賞 / Sakkyoku Shou[Best Original Score]
作曲賞(Best Original Score)は、映画のために書き下ろされたオリジナルの映画音楽に贈られる賞です。映像と音楽の一体化による感情的深みの創出、場面ごとの雰囲気の構築、作品全体のトーンを統一する音楽的才能が評価されます。第35回はフランス出身の作曲家モーリス・ジャール[Maurice Jarre]が『アラビアのロレンス[Lawrence of Arabia]』で受賞しました。砂漠の広大さと叙事詩的スケールを壮麗なオーケストラで表現した「アラビアのロレンス」のメインテーマは、映画音楽史上最も印象的なスコアのひとつとして現在も世界中で親しまれています。ジャールはこれ以降も『ドクトル・ジバゴ』『ライアンの娘』でアカデミー賞を受賞し、三冠を達成した映画音楽界の巨匠として名声を確立しました。ノミネートにはエルマー・バーンスタインによる『アラバマ物語』の温かみのある音楽や、ジェリー・ゴールドスミスによる『フロイド/隠された欲望』が並びました。
| 受賞 Winner |
アラビアのロレンス[Lawrence of Arabia] |
| ノミネート Nominees |
フロイド/隠された欲望[Freud: The Secret Passion] |
編曲・歌曲賞 / Henkyoku Kakyoku Shou[Best Original Song Score or Adaptation Score]
編曲・歌曲賞(Best Original Song Score or Adaptation Score)は、主にミュージカル映画において、既存の楽曲を映画用に編曲・アレンジした音楽監督や編曲家に贈られる賞です。舞台ミュージカルから映画へ移植する際の音楽的翻案の質が問われます。第35回はメレディス・ウィルソンの傑作ブロードウェイ・ミュージカルを映画化した『The Music Man』でレイ・ハインドーフ[Ray Heindorf]が受賞しました。1912年のアイオワ州を舞台に、詐欺師のバンドリーダーが街の人々を変えていく物語を彩った生き生きとした音楽編曲が高く評価されました。ノミネートにはロリナ・リン・ニアム主演の『ジプシー[Gypsy]』など、1960年代ハリウッドが誇るミュージカル映画の傑作群が名を連ねました。
| 受賞 Winner |
The Music Man |
| ノミネート Nominees |
ジャンボ[Billy Rose’s Jumbo] |
歌曲賞 / Kashou Shou[Best Original Song]
歌曲賞(Best Original Song)は、映画のために書き下ろされたオリジナルソングに贈られる賞です。楽曲そのもののクオリティ(メロディ・歌詞・構成)とともに、映画の内容・場面・テーマとの一体感も重要な評価基準となります。第35回はヘンリー・マンシーニ[Henry Mancini]作曲、ジョニー・マーサ[Johnny Mercer]作詞による主題歌「Days of Wine and Roses」が映画『酒とバラの日々[Days of Wine and Roses]』で受賞しました。アルコール依存症の夫婦の悲劇を描いた作品の本質を凝縮したこの哀愁漂うバラードは、アンディ・ウィリアムスのカバーも大ヒットを記録し、ポピュラー音楽としても広く愛される名曲となっています。マンシーニは前年の第34回でも「ムーン・リバー」で本賞を受賞しており、2年連続受賞という快挙を達成しました。
| 受賞 Winner |
“酒とバラの日々[Days of Wine and Roses] |
| ノミネート Nominees |
“Love Song From Mutiny on the Bounty (Follow Me)" – 戦艦バウンティ[Mutiny on the Bounty] |
録音賞 / Rokuon Shou[Best Sound]
録音賞(Best Sound)は、映画における音響・録音技術の卓越さに贈られる賞です。台詞の明瞭さ・明瞭度、音楽の再現性、環境音・効果音の質、各音要素のバランスと混合技術など、音響全般の総合的な品質が審査されます。第35回はジョン・コックス[John Cox]が『アラビアのロレンス[Lawrence of Arabia]』で受賞しました。実際のヨルダン砂漠やモロッコなど過酷な環境での野外ロケーションにおいて、砂嵐の轟音から静寂の砂漠まで幅広いダイナミックレンジの音を高品質で収録・再現した技術力は、1960年代の映画録音技術の粋を集めたものとして高く評価されました。同年には最終的に複数部門を争った『何がジェーンに起ったか?』『The Music Man』などの力作もノミネートされました。
| 受賞 Winner |
アラビアのロレンス[Lawrence of Arabia] |
| ノミネート Nominees |
パリよ、こんにちは![Bon Voyage!] |
美術賞(白黒) / Bijutsu Shou(Shiro Kuro)[Best Art Direction Set Decoration Black and White]
美術賞・白黒部門(Best Art Direction – Black and White)は、白黒映画における美術・セットデザイン・装置の芸術的卓越さに贈られる賞です。色彩を用いず、光と影のコントラストと空間構成のみで作品世界を構築するセットデザインの力が評価されます。第35回はアレクサンダー・ゴリツィン[Alexander Golitzen]、ヘンリー・バムステッド[Henry Bumstead]、オリバー・エマット[Oliver Emert]が『アラバマ物語[To Kill a Mockingbird]』で受賞しました。1930年代の米国南部アラバマ州の小さな町の雰囲気を、ノスタルジックかつリアルに再現したセットデザインは、当時の米国社会の空気感を見事に映像化しており、物語の時代背景と主題を視覚的に強力にサポートしました。
| 受賞 Winner |
アラバマ物語[To Kill a Mockingbird] |
| ノミネート Nominees |
酒とバラの日々[Days of Wine and Roses] |
美術賞(カラー) / Bijutsu Shou(Color)[Best Art Direction Set Decoration Color]
美術賞・カラー部門(Best Art Direction – Color)は、カラー映画における美術・セットデザイン・装置の芸術的卓越さに贈られる賞です。色彩設計から空間構成、歴史的・地理的正確さまでを含む総合的な美術センスが問われます。第35回はジョン・ボックス[John Box]、ジョン・ストール[John Stoll]、ダリオ・シモーニ[Dario Simoni]が『アラビアのロレンス[Lawrence of Arabia]』で受賞しました。アラビア半島の砂漠・オアシス・アラブの都市・第一次世界大戦期の軍事施設など多彩な舞台を細部まで精巧に再現したプロダクションデザインは、実際のヨルダン・モロッコロケと見事に融合し、圧倒的な視覚的世界観を構築しています。このスケールと精度のセットデザインは現代のデジタル技術隆盛前の時代の映画美術として今なお語り継がれています。
| 受賞 Winner |
アラビアのロレンス[Lawrence of Arabia] |
| ノミネート Nominees |
The Music Man |
撮影賞(白黒) / Satsuei Shou(Shiro Kuro)[Best Cinematography Black and White]
撮影賞・白黒部門(Best Cinematography – Black and White)は、白黒映画における撮影技術の芸術的卓越さに贈られる賞です。光と影のコントラスト、被写体の構図、カメラワーク、レンズ選択による映像表現の深みが評価されます。第35回はノルマンディー上陸作戦を複数の視点から描いた壮大な戦争映画『史上最大の作戦[The Longest Day]』がジャン・ブルゴワンとワルター・ウォティッツ(Jean Bourgoin and Walter Wottitz)の共同撮影で受賞しました。多数のカメラクルーが連携して撮影した大規模な戦闘シーンの迫力ある映像は、モノクロという制約の中で最大限の臨場感を生み出しており、戦争映画の撮影技術の金字塔となっています。ラッセル・ハーランによる『アラバマ物語』の詩情豊かな南部の情景描写もノミネートされました。
| 受賞 Winner |
史上最大の作戦[The Longest Day] |
| ノミネート Nominees |
終身犯[Birdman of Alcatraz] |
撮影賞(カラー) / Satsuei Shou(Color)[Best Cinematography Color]
撮影賞・カラー部門(Best Cinematography – Color)は、カラー映画における撮影技術の芸術的卓越さに贈られる賞です。色彩表現の豊かさ、光の設計、構図と動きの美しさが評価されます。第35回はフレディ・ヤング[Freddie Young]が『アラビアのロレンス[Lawrence of Arabia]』で受賞しました。ヨルダンのワディ・ラムやモロッコの砂漠地帯で撮影されたこの作品における映像美は、しばしば映画史上最高の撮影のひとつに挙げられます。太陽が地平線から昇る夜明けのシーン、蜃気楼の中にラクダの影が浮かび上がるシーンなど、砂漠の光と色彩を駆使した詩的な映像は、フレディ・ヤングが後のアカデミー賞でも『ドクトル・ジバゴ』『ライアンの娘』で追加受賞するほどの卓越した才能の賜物です。
| 受賞 Winner |
アラビアのロレンス[Lawrence of Arabia] |
| ノミネート Nominees |
ジプシー[Gypsy] |
衣裳デザイン賞(白黒) / Ishou Design Shou(Shiro Kuro)[Best Costume Design Black and White]
衣裳デザイン賞・白黒部門(Best Costume Design – Black and White)は、白黒映画における衣裳デザインの芸術性と独創性に贈られる賞です。登場人物の個性・時代背景・社会的地位を視覚的に表現し、作品の世界観構築に貢献する衣裳デザインの質が評価されます。第35回はノーマ・コック[Norma Koch]が『何がジェーンに起ったか?[What Ever Happened to Baby Jane?]』で受賞しました。かつての子役スターで今は精神を病んだジェーン・ハドソンを演じるベティ・デイヴィス[Bette Davis]の衣裳は、時代遅れで奇異なドレスと濃いメイクアップにより、狂気と哀愁を同時に体現する独特のビジュアルを作り出しており、ホラー映画史上最も印象的なキャラクタービジュアルのひとつとして語り継がれています。
| 受賞 Winner |
何がジェーンに起ったか?[What Ever Happened to Baby Jane?] |
| ノミネート Nominees |
酒とバラの日々[Days of Wine and Roses] |
衣裳デザイン賞(カラー) / Ishou Design Shou(Color)[Best Costume Design Color]
衣裳デザイン賞・カラー部門(Best Costume Design – Color)は、カラー映画における衣裳デザインの芸術性に贈られる賞です。色彩設計の美しさ、時代考証・文化的正確さ、物語への貢献度が審査されます。第35回はメアリー・ウィルズ[Mary Wills]が『不思議な世界の物語[The Wonderful World of the Brothers Grimm]』で受賞しました。グリム童話の様々な物語を章立てで映像化したこの作品において、中世ヨーロッパの農村から幻想的な童話世界まで多彩な時代・世界観を色彩豊かに体現した衣裳デザインは、映像全体のファンタジーとしての魅力を大きく高めるものでした。ノミネートには大規模ミュージカル映画群の衣裳も名を連ね、1960年代ハリウッドの華やかな衣裳デザインの競演となりました。
| 受賞 Winner |
不思議な世界の物語[The Wonderful World of the Brothers Grimm] |
| ノミネート Nominees |
パリよ、こんにちは![Bon Voyage!] |
編集賞 / Henshuh Shou[Best Film Editing]
編集賞(Best Film Editing)は、映画編集の技術的・芸術的卓越さに贈られる賞です。場面の切り替えのタイミング、テンポの調整、物語の流れを効果的に導くカットの選択と構成、そして映像と音声のリズム感が評価されます。第35回はアン・V・コーテス[Anne V. Coates]が『アラビアのロレンス[Lawrence of Arabia]』で受賞しました。コーテスが手掛けたこの作品の編集は映画史上最も革新的とされており、中でも砂漠の夜明けとマッチの炎を一瞬でつなぐ「マッチカット(Match Cut)」は、映画技法の教科書に必ず登場する歴史的な場面転換として現在も映画学校で教えられ続けています。コーテスは後に英国映画テレビ芸術アカデミー(BAFTA)のフェローシップも授与された20世紀最高の映画編集者のひとりです。
| 受賞 Winner |
アラビアのロレンス[Lawrence of Arabia] |
| ノミネート Nominees |
史上最大の作戦[The Longest Day] |
視覚効果賞 / Shikaku Kouka Shou[Best Visual Effects]
視覚効果賞(Best Visual Effects)は、映画における視覚的特殊効果の技術的卓越さに贈られる賞です。CGIが普及する以前のこの時代は、ミニチュアセット・光学合成・実物大のセット爆破など物理的な技術が駆使されました。第35回はロバート・マクドナルド[Robert MacDonald]とジャック・モーモン[Jacques Maumont]が、1944年のノルマンディー上陸作戦(Dデイ)を多面的に描いた戦争叙事詩『史上最大の作戦[The Longest Day]』で受賞しました。実際の元兵士の証言に基づき、連合軍・ドイツ軍・フランス地下抵抗組織の三視点から描かれた大規模な上陸作戦の映像再現には、精巧なミニチュアと爆発物・大量のエキストラを組み合わせた視覚効果が多用されており、デジタル技術なしにリアルな大規模戦争を映像化した当時の技術力の高さを示しています。
| 受賞 Winner |
史上最大の作戦[The Longest Day] |
| ノミネート Nominees |
戦艦バウンティ[Mutiny on the Bounty] |
第35回アカデミー賞(1963年開催・1962年作品対象)まとめ
『アラビアのロレンス』が席巻した歴史的授賞式
第35回アカデミー賞(1963年4月8日開催)を一言で表すとすれば、「アラビアのロレンスの年」と呼ぶにふさわしい授賞式でした。デヴィッド・リーン監督によるこの壮大な歴史叙事詩は、作品賞・監督賞・撮影賞(カラー)・美術賞(カラー)・編集賞・作曲賞・録音賞の主要7部門を独占し、映画史に残る圧倒的な受賞結果を残しました。この7部門受賞はアカデミー賞史上でも屈指の快挙であり、同作品は現在でも「史上最高の映画」ランキングで常に上位に位置する不朽の名作として世界中で評価され続けています。
ピーター・オトゥール[Peter O'Toole]が主演男優賞でノミネートされながらも受賞を逃した点も語り草となっており、このグレゴリー・ペックとの競争はアカデミー賞史上最も記憶に残る主演男優賞争いのひとつとして映画史に刻まれています。なお、ピーター・オトゥールは生涯で8回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされながら一度も受賞できなかったことで知られており、1963年の落選は「最も惜しまれるノミネート落選」として映画ファンに語り継がれています。
多彩な名作が競い合った記念碑的な年
第35回アカデミー賞は、『アラビアのロレンス』以外にも映画史に燦然と輝く名作群が集結した豊かな年でした。グレゴリー・ペックが弁護士アティカス・フィンチを演じた『アラバマ物語[To Kill a Mockingbird]』は主演男優賞・脚色賞・美術賞(白黒)の3部門を受賞し、人種差別と司法正義を問う普遍的なテーマは今もなお色褪せることなく現代社会に問いかけ続けています。
アン・バンクロフトとパティ・デュークが師弟コンビを演じた『奇跡の人[The Miracle Worker]』は主演女優賞・助演女優賞の2部門を制し、同一映画からの主演・助演の女優賞ダブル受賞という希有な結果となりました。また、イタリア映画『イタリア式離婚狂想曲[Divorce Italian Style]』の脚本賞受賞、フランス映画『シベールの日曜日[Sundays and Cybele]』の外国語映画賞受賞は、ヨーロッパ映画が世界的に高い評価を受けていた1960年代の映画黄金時代を象徴するものでした。
1962年映画の時代背景と社会的意義
1962年(第35回アカデミー賞の対象年)は、映画界においても世界史においても激動の年でした。キューバ危機が世界を核戦争の瀬戸際に立たせ、公民権運動がアメリカ社会を揺るがしていたこの時代に、『アラバマ物語』が人種差別と正義をテーマに掲げ、『史上最大の作戦』が第二次世界大戦を回顧し、短編アニメ『The Hole』が核戦争の脅威をユーモアで描くなど、受賞作品群が時代の鑑として機能していました。ハリウッドがその黄金期を迎え、ヨーロッパ映画もアメリカのアカデミー賞を席巻するほどの質と量の作品を輩出したこの年は、映画史において特別な輝きを持つ時代です。
第35回アカデミー賞 主要受賞作品・人物 一覧
| 部門 | 受賞作品・受賞者 |
| 作品賞 | アラビアのロレンス[Lawrence of Arabia] ⇒ サム・スピーゲル[Sam Spiegel] |
| 監督賞 | アラビアのロレンス ⇒ デヴィッド・リーン[David Lean] |
| 主演男優賞 | アラバマ物語[To Kill a Mockingbird] ⇒ グレゴリー・ペック[Gregory Peck] |
| 主演女優賞 | 奇跡の人[The Miracle Worker] ⇒ アン・バンクロフト[Anne Bancroft] |
| 助演男優賞 | 渇いた太陽[Sweet Bird of Youth] ⇒ エド・ベグリー[Ed Begley] |
| 助演女優賞 | 奇跡の人[The Miracle Worker] ⇒ パティ・デューク[Patty Duke] |
| 脚本賞 | イタリア式離婚狂想曲[Divorce Italian Style] ⇒ エンニオ・デ・コンチーニほか |
| 脚色賞 | アラバマ物語 ⇒ ホートン・フート[Horton Foote] |
| 外国語映画賞 | シベールの日曜日[Sundays and Cybele](フランス) |
| 作曲賞 | アラビアのロレンス ⇒ モーリス・ジャール[Maurice Jarre] |
| 歌曲賞 | 酒とバラの日々[Days of Wine and Roses] ⇒ ヘンリー・マンシーニ[Henry Mancini] |
| 撮影賞(カラー) | アラビアのロレンス ⇒ フレディ・ヤング[Freddie Young] |
| 撮影賞(白黒) | 史上最大の作戦[The Longest Day] ⇒ Jean Bourgoin / Walter Wottitz |
| 編集賞 | アラビアのロレンス ⇒ アン・V・コーテス[Anne V. Coates] |
| 録音賞 | アラビアのロレンス ⇒ ジョン・コックス[John Cox] |
| 美術賞(カラー) | アラビアのロレンス ⇒ ジョン・ボックスほか |
| 美術賞(白黒) | アラバマ物語 ⇒ アレクサンダー・ゴリツィンほか |
| 衣裳デザイン賞(白黒) | 何がジェーンに起ったか?[What Ever Happened to Baby Jane?] ⇒ ノーマ・コック |
| 衣裳デザイン賞(カラー) | 不思議な世界の物語[The Wonderful World of the Brothers Grimm] ⇒ メアリー・ウィルズ |
| 視覚効果賞 | 史上最大の作戦 ⇒ ロバート・マクドナルド / ジャック・モーモン |
| 長編ドキュメンタリー賞 | Black Fox |
| 短編ドキュメンタリー賞 | Dylan Thomas |
| 短編映画賞 | Heureux Anniversaire |
| 短編アニメ賞 | The Hole |
第35回アカデミー賞が映画史に残した遺産
第35回アカデミー賞は、ハリウッド映画の黄金時代における最良の一年を記録した歴史的な授賞式です。7部門を制した『アラビアのロレンス』は映画史上最も偉大な作品のひとつとして現在もランキング上位に君臨し、グレゴリー・ペックの『アラバマ物語』における演技は正義と道徳を語る上で欠かせない文化的アイコンとなり、パティ・デュークの史上最年少助演女優賞受賞は後に続く若い演技者たちへの道を切り開きました。また、アン・V・コーテスが編集した「マッチカット」は映画技法の歴史に永遠に名を刻み、モーリス・ジャールの音楽は世界中で今もなお演奏され続けています。
これらの作品はいずれも、単なる娯楽を超えた文化的・芸術的・社会的遺産として、60年以上が経過した現在もなお輝きを放ち続けています。映画ファンはもちろん、映画史や20世紀の文化・社会史に関心を持つすべての方にとって、第35回アカデミー賞ノミネート作品・受賞作品は必見の映画群です。

