[1972年開催(1971年映画作品対象)]第44回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
アカデミー賞(Academy Awards)とは、映画芸術科学アカデミー(AMPAS: Academy of Motion Picture Arts and Sciences)が主催し、アメリカ合衆国における映画の健全な発展と芸術・科学の品質向上などを目的に、キャストやスタッフなどの関係者を毎年部門別に表彰し、その成果を讃える映画賞です。
受賞作品・受賞者には賞金は出ませんが、金色のオスカー像が授与されるため、オスカー賞(The Oscars)とも呼ばれます。
その歴史は世界三大映画祭(カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭)よりも古く、第1回のアカデミー賞は1929年に開催され、今では世界中が注目する映画界最大のイベントとなっています。
特にアカデミー賞へのノミネート及び受賞結果は世界中に大きく報道されるため、各国における対象映画の興行成績に対する大きな影響力を持っています。
アカデミー賞ノミネート作品・受賞作品は、映画界で著名なプロデューサー、監督、脚本家、俳優、批評家などにより構成される選考委員によって選ばれ、その高い評価から世間でも話題の中心となるため、一度は見ておくべき映画と言えるでしょう。
第44回アカデミー賞(1972年開催)の概要と時代背景
第44回アカデミー賞授賞式は、1972年4月10日にアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスのドロシー・チャンドラー・パヴィリオンで開催されました。司会はヘレン・ヘイズ(Helen Hayes)、アラン・キング(Alan King)、サミー・デイヴィス・ジュニア(Sammy Davis Jr.)、ジャック・レモン(Jack Lemmon)の4名が務めました。
この年のアカデミー賞は、1970年代初頭の「ニューハリウッド(New Hollywood)」と呼ばれるアメリカ映画の変革期を象徴する授賞式となりました。1960年代後半から若手映画作家たちが台頭し、従来のスタジオシステムに代わる新しい映画表現が次々と生まれた時代です。社会派ドラマやリアリズム志向の作品が高く評価される傾向が顕著になっていました。
作品賞受賞作『フレンチ・コネクション』の歴史的意義
この年の最大の注目は、ウィリアム・フリードキン(William Friedkin)監督の『フレンチ・コネクション(The French Connection)』が作品賞・監督賞・主演男優賞・脚色賞・編集賞の主要5部門を制覇したことです。実在のニューヨーク市警の麻薬捜査官ジミー・"ポパイ"・ドイル(Jimmy "Popeye" Doyle)の活躍を描いたこの犯罪アクション映画は、ドキュメンタリー的な手法とニューヨークの街並みを活かしたリアルな映像表現で映画史に残る傑作となりました。特にブルックリンの高架鉄道下でのカーチェイスシーンは、映画史上最も有名なアクションシーンのひとつとして今なお語り継がれています。
主演のジーン・ハックマン(Gene Hackman)は、粗暴で独善的だが信念を曲げない麻薬捜査官ポパイ・ドイルを鬼気迫る演技で体現し、主演男優賞を受賞しました。この受賞により、ハックマンは1970年代を代表する演技派俳優としての地位を確立しました。
主要ノミネート作品と見どころ
作品賞にノミネートされた他の4作品も、いずれもこの時代の映画の多様性と芸術性を示す傑作揃いです。スタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)監督の『時計じかけのオレンジ(A Clockwork Orange)』は近未来のディストピアを舞台に暴力と自由意志の問題を鋭く描き、公開当時から大きな議論を巻き起こしました。ノーマン・ジュイソン(Norman Jewison)監督の『屋根の上のバイオリン弾き(Fiddler on the Roof)』は、ブロードウェイの大ヒットミュージカルを忠実に映画化し、撮影賞・録音賞・編曲歌曲賞の3部門で受賞しました。ピーター・ボグダノヴィッチ(Peter Bogdanovich)監督の『ラスト・ショー(The Last Picture Show)』は1950年代のテキサスの小さな町を舞台にした青春群像劇で、ベン・ジョンソン(Ben Johnson)とクロリス・リーチマン(Cloris Leachman)がそれぞれ助演男優賞と助演女優賞を受賞しました。
主演女優賞を受賞したジェーン・フォンダ(Jane Fonda)は、アラン・J・パクラ(Alan J. Pakula)監督の『コールガール(Klute)』でコールガール役を演じ、その複雑な心理描写が絶賛されました。この受賞は、フォンダが単なるスター女優から実力派女優へと飛躍した記念碑的な出来事でした。
外国語映画賞と国際映画の存在感
外国語映画賞では、イタリアの巨匠ヴィットリオ・デ・シーカ(Vittorio De Sica)監督の『悲しみの青春(The Garden of the Finzi-Continis)』が受賞しました。第二次世界大戦下のイタリアにおけるユダヤ人迫害を、ある裕福なユダヤ人一家の視点から繊細に描いたこの作品は、脚色賞にもノミネートされています。ノミネートには日本の黒澤明(Akira Kurosawa)監督の『どですかでん(Dodes'ka-den)』も含まれ、黒澤監督にとって初のカラー映画作品として注目を集めました。
今回は、このように映画史的にも非常に重要な第44回アカデミー賞(オスカー賞)のノミネート映画作品・受賞映画作品の1972年開催(1971年映画作品対象)の全受賞結果を、部門別に一覧でご紹介します。
[1972年開催(1971年映画作品対象)]第44回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
作品賞 / Sakuhin Shou[Best Picture]
アカデミー賞最高の栄誉である作品賞には、ニューハリウッド時代の息吹を体現する多彩な5作品が競いました。受賞した『フレンチ・コネクション』は実在のニューヨーク市警麻薬捜査事件をリアルに描いた犯罪アクション映画で、この年の最多5部門を制覇しています。ノミネートには、スタンリー・キューブリックの問題作『時計じかけのオレンジ』、ブロードウェイの名ミュージカルを映画化した『屋根の上のバイオリン弾き』、白黒映像で1950年代テキサスの若者を叙情豊かに描いた『ラスト・ショー』、ロシア革命期のロマノフ朝最後の悲劇を壮大に描いた『ニコライとアレクサンドラ』が名を連ねました。ジャンルも製作規模もまったく異なる5作品の競合は、この時代の映画の豊かな多様性そのものを象徴しています。
| 受賞 Winner |
フレンチ・コネクション[The French Connection] |
| ノミネート Nominees |
時計じかけのオレンジ[A Clockwork Orange] |
監督賞 / Kantoku Shou[Best Director]
監督賞はその年最も優れた演出を行った映画監督に贈られます。受賞したウィリアム・フリードキン(William Friedkin)は当時33歳という若さで頂点に立ち、ドキュメンタリー出身の経歴を活かしたハンドヘルドカメラによるリアルな臨場感が高く評価されました。ノミネートには近未来ディストピアを実験的な映像言語で描いたスタンリー・キューブリック、1971年英国映画『日曜日は別れの時』で同性愛を真正面から描いたジョン・シュレシンジャー、後に「ニューハリウッドの旗手」と称されるピーター・ボグダノヴィッチ、そしてノーマン・ジュイソンが名を連ね、アメリカ映画の変革を担う世代の実力が一堂に競い合いました。
| 受賞 Winner |
フレンチ・コネクション[The French Connection] |
| ノミネート Nominees |
時計じかけのオレンジ[A Clockwork Orange] |
主演男優賞 / Shuen Danyuh Shou[Best Actor]
主演男優賞はその年最も印象的な主演演技に贈られます。受賞したジーン・ハックマン(Gene Hackman)は、粗暴で執念深いが揺るぎない正義感を持つ麻薬捜査官「ポパイ」・ドイルを圧倒的なリアリティで演じ切り、この受賞によって1970年代のアメリカ映画を代表するキャラクター俳優としての地位を確立しました。ノミネートには、前年に主演男優賞を辞退したことで話題となったジョージ・C・スコット(『ホスピタル』)、英国の名優ピーター・フィンチ(『日曜日は別れの時』)、名コメディアン・俳優のウォルター・マッソー(『コッチおじさん』)、イスラエルのスーパースターで『屋根の上のバイオリン弾き』主演のトポルが名を連ね、国際色豊かな顔ぶれとなりました。
| 受賞 Winner |
フレンチ・コネクション[The French Connection] |
| ノミネート Nominees |
日曜日は別れの時[Sunday Bloody Sunday] |
主演女優賞 / Shuen Danyuh Shou[Best Actress]
主演女優賞はジェーン・フォンダ(Jane Fonda)がアラン・J・パクラ監督の心理サスペンス『コールガール』で受賞し、初のオスカーを手にしました。娼婦という複雑なキャラクターの内面を繊細かつ力強く描いたフォンダの演技は、従来の「スター女優」のイメージを超えた実力の高さを示すものとして高く評価されています。ノミネートには英国を代表する演技派女優が3名競い合ったことも特筆すべき点で、グレンダ・ジャクソン(『日曜日は別れの時』)、ジュリー・クリスティ(『ギャンブラー』)、ヴァネッサ・レッドグレイヴ(『クイン・メリー/愛と悲しみの生涯』)がいずれも甲乙つけがたい名演を競い合いました。さらにジャネット・サズマンがロシア皇后アレクサンドラを演じてノミネートを果たし、歴史的な格調ある顔ぶれとなりました。
| 受賞 Winner |
コールガール[Klute] |
| ノミネート Nominees |
ギャンブラー[McCabe & Mrs. Miller] |
助演男優賞 / Joen Danyuh Shou[Best Supporting Actor]
助演男優賞はベン・ジョンソン(Ben Johnson)が受賞しました。長年ジョン・フォード監督の西部劇映画で欠かせない脇役として活躍してきたジョンソンが、ピーター・ボグダノヴィッチ監督の『ラスト・ショー』で孤独な老プールホールの主人サム・ライオンを演じ、初のオスカーを獲得したことは、ハリウッドの重鎮俳優への遅ればせながらの敬意として映画界に感慨深く受け止められました。また、当時まだ無名だったジェフ・ブリッジス(Jeff Bridges)が同作品でノミネートされたことも特筆すべき点で、これが後に映画界の大スターへと成長するブリッジスのキャリアの実質的な出発点となりました。ロイ・シャイダーは『フレンチ・コネクション』での脇役演技でノミネートを果たし、後に『ジョーズ』や『2010年』で主役を担う演技派俳優としての評価を高めていきました。
| 受賞 Winner |
ラスト・ショー[The Last Picture Show] |
| ノミネート Nominees |
ラスト・ショー[The Last Picture Show] |
助演女優賞 / Joen Joyuh Shou[Best Supporting Actress]
助演女優賞はクロリス・リーチマン(Cloris Leachman)が、助演男優賞受賞のベン・ジョンソンと同じく『ラスト・ショー』で受賞しました。孤独な中年女性と少年の一夜の哀切な関係を繊細かつ生々しく演じたリーチマンの演技は、選考委員の心を動かしました。同一作品から助演男優・助演女優のダブル受賞という快挙は、映画史において極めて稀な出来事です。アン=マーグレット(Ann-Margret)はそれまでのグラマラスなエンターテイナーのイメージを完全に覆し、マイク・ニコルズ監督の問題作『愛の狩人』での複雑な演技がアカデミー会員に認められノミネートを果たしました。エレン・バースティン(Ellen Burstyn)も同じく『ラスト・ショー』からノミネートされており、一作品から助演女優のダブルノミネートという異例の事態も生じました。
| 受賞 Winner |
ラスト・ショー[The Last Picture Show] |
| ノミネート Nominees |
愛の狩人[Carnal Knowledge] |
脚本賞 / Kyakuhon Shou[Best Screenplay Written Directly for the Screen]
脚本賞(オリジナル脚本)はパディ・チャイエフスキー(Paddy Chayefsky)が、現代医療の矛盾と官僚主義的な病院組織の不条理を辛辣なユーモアと怒りで描いた『ホスピタル』で受賞しました。チャイエフスキーは後に1976年の『ネットワーク』でも脚本賞を受賞し、同賞を複数回受賞した稀有な脚本家として映画史に名を刻んでいます。ノミネートにはイタリア社会の権威主義と腐敗を鋭く風刺した犯罪サスペンス『殺人捜査』(エリオ・ペトリ&ウーゴ・ピロ)、1940年代の淡い初恋の記憶を詩情豊かに綴った『おもいでの夏』(ハーマン・ローチャー)、そして英国映画界を代表する脚本家ペネロープ・ギリアット(『日曜日は別れの時』)も名を連ねました。
| 受賞 Winner |
ホスピタル[The Hospital] |
| ノミネート Nominees |
殺人捜査[Investigation of a Citizen Above Suspicion] |
脚色賞 / Kyakushoku Shou[Best Screenplay Based on Material Previously Produced or Published]
脚色賞(原作ものの脚本)はアーネスト・タイディマン(Ernest Tidyman)が受賞しました。実在の麻薬捜査官の記録をもとにしたロビン・ムーアのノンフィクション作品を、緊迫感あふれる犯罪映画として再構成した手腕が高く評価されました。ノミネートには映画史上の巨匠たちの脚色作が揃い、スタンリー・キューブリックはアンソニー・バージェスの同名小説をアダプテーションした『時計じかけのオレンジ』で、ベルナルド・ベルトルッチ(Bernardo Bertolucci)はアルベルト・モラヴィアの小説をもとにファシズム期イタリアの心理的深淵を掘り下げた傑作『暗殺の森』で、またピーター・ボグダノヴィッチとラリー・マクマートリーは名作小説を映画化した『ラスト・ショー』でそれぞれノミネートされました。同賞にはさらに外国語映画賞受賞作『悲しみの青春』の脚色もノミネートされ、国際的な競合となりました。
| 受賞 Winner |
フレンチ・コネクション[The French Connection] |
| ノミネート Nominees |
時計じかけのオレンジ[A Clockwork Orange] |
外国語映画賞 / Gaikokugo Eiga Shou[Best Foreign Language Film]
外国語映画賞にはイタリア、日本、スウェーデン、イスラエル、ソビエト連邦の5か国が競いました。受賞したヴィットリオ・デ・シーカ(Vittorio De Sica)監督の『悲しみの青春(The Garden of the Finzi-Continis)』は、第二次世界大戦中のイタリアでファシズムの迫害に追い詰められていくユダヤ人の裕福な一家を繊細な映像美と抑制された感情表現で描いた傑作です。日本からは黒澤明監督の初カラー作品『どですかでん』がノミネートされましたが、この作品は興行的に大失敗し、黒澤は深刻な精神的打撃を受けました。翌1973年には自殺未遂を図り映画界から一時姿を消しましたが、後にソ連との合作映画『デルス・ウザーラ』(1975年)で見事に復活し、同作で外国語映画賞を受賞することになります。スウェーデンのヤン・トロエル(Jan Troell)監督の『移民者たち』もノミネートされており、北欧映画の存在感も際立った年でした。
| 受賞 Winner |
悲しみの青春[The Garden of the Finzi-Continis] |
| ノミネート Nominees |
どですかでん[Dodes’ka-den] |
長編ドキュメンタリー映画賞 / Chouhen Documentary Eiga Shou[Best Documentary Feature]
長編ドキュメンタリー賞は、昆虫世界の生存競争を圧倒的なマクロ撮影技術とセンセーショナルな演出で描いた『大自然の闘争/驚異の昆虫世界(The Hellstrom Chronicle)』が受賞しました。ノミネートには探険家トール・ヘイエルダール(Thor Heyerdahl)が自らの大西洋横断航海を記録した『Ra』、モータースポーツの詩情を捉えた『栄光のライダー』のほか、フランスのマルセル・オフュルス(Marcel Ophüls)監督がフランスのナチス占領期とその後の協力・抵抗の歴史を正面から問いかけた4時間を超えるドキュメンタリー大作『The Sorrow and the Pity』も含まれており、政治的・歴史的に重要な作品への注目度の高さが伺えます。
| 受賞 Winner |
大自然の闘争/驚異の昆虫世界[The Hellstrom Chronicle] |
| ノミネート Nominees |
Alaska Wilderness Lake |
短編ドキュメンタリー映画賞 / Tanpen Documentary Eiga Shou[Best Documentary Short Subject]
短編ドキュメンタリー賞はメキシコの先コロンブス期遺跡を航空撮影によって雄大に捉えた18分の短篇映画『Sentinels of Silence(沈黙の番人)』が受賞しました。同作品は同年の短編映画賞(実写部門)も受賞しており、1年で2つのアカデミー賞を獲得するという稀有な快挙を成し遂げました。
| 受賞 Winner |
Sentinels of Silence |
| ノミネート Nominees |
Adventures in Perception |
短編映画賞 / Tanpen Eiga Shou[Best Live Action Short Film]
短編映画賞(実写短篇部門)も『Sentinels of Silence』が受賞し、短編ドキュメンタリー賞とのダブル受賞という同年のアカデミー賞の中でも際立った快挙となりました。ノミネートにはスティーヴン・F・ヴェローナ監督の『The Rehearsal』も含まれていました。
| 受賞 Winner |
Sentinels of Silence |
| ノミネート Nominees |
Good Morning |
短編アニメ賞 / Tanpen Anime Shou[Best Animated Short Film]
短編アニメ賞はテッド・ペトック(Ted Petok)制作のカナダ発のユーモラスなアニメーション短篇『The Crunch Bird』が受賞しました。シンプルなキャラクターと笑いを主体にした作風が評価されました。ノミネートにはマイケル・ミルズ制作の『Evolution(進化)』、オスカー・ワイルドの童話を映画化した『The Selfish Giant(わがままな大男)』が名を連ねました。
| 受賞 Winner |
The Crunch Bird |
| ノミネート Nominees |
Evolution |
作曲賞 / Sakkyoku Shou[Best Original Score]
作曲賞(オリジナル楽曲)はフランスの作曲家ミシェル・ルグラン(Michel Legrand)が受賞しました。1940年代の夏、ひと夏の淡い初恋の記憶を甘くノスタルジックな旋律で彩った『おもいでの夏』のスコアは、映画のトーンと完璧に調和し、サウンドトラックとしても世界的なヒットとなりました。ノミネートには、ブラックスプロイテーション映画の先駆けである『黒いジャガー(Shaft)』でファンク・ソウルの要素を駆使したアイザック・ヘイズ(Isaac Hayes)のスコアも名を連ねています(ヘイズはテーマ曲で歌曲賞を受賞)。スタム・ペキンパー監督の暴力的な傑作『わらの犬』のスコアを手がけたジェリー・フィールディングも候補に入りました。
| 受賞 Winner |
おもいでの夏[Summer of ’42] |
| ノミネート Nominees |
クイン・メリー/愛と悲しみの生涯[Mary、Queen of Scots] |
編曲・歌曲賞 / Henkyoku Kakyoku Shou[Best Original Song Score or Adaptation Score]
編曲・歌曲賞(ミュージカル映画の音楽編曲部門)はジョン・ウィリアムズ(John Williams)が『屋根の上のバイオリン弾き』の編曲で受賞しました。ウィリアムズは後に『スター・ウォーズ』(1977年)、『インディ・ジョーンズ』シリーズ、『シンドラーのリスト』、『ジュラシック・パーク』、『ハリー・ポッター』シリーズなど数え切れないほどの映画音楽を手がけ、20世紀最大の映画音楽作曲家として世界的に知られることになります。ノミネートには後にティム・バートンがリメイクする名作ファンタジー映画『夢のチョコレート工場』やディズニーの『ベッドかざりとほうき』も含まれており、バラエティ豊かな競合となりました。
| 受賞 Winner |
屋根の上のバイオリン弾き[Fiddler on the Roof] |
| ノミネート Nominees |
ベッドかざりとほうき[Bedknobs and Broomsticks] |
歌曲賞 / Kashou Shou[Best Original Song]
歌曲賞(オリジナル主題歌)はアイザック・ヘイズ(Isaac Hayes)が『黒いジャガー(Shaft)』のオープニング・テーマ曲「Theme from Shaft」で受賞しました。ヘイズのこの受賞は、アフリカ系アメリカ人の作曲家としてアカデミー賞音楽部門の主要賞を受賞した画期的な出来事として映画史に記録されており、当時のブラックパワー・ムーブメントとも相まって大きな社会的反響を呼びました。グルーヴ感あふれるストリングスとワウワウ・ギターが特徴のこのテーマ曲は、ブラックスプロイテーション映画のサウンドの象徴として今日も高い認知度を誇っています。ノミネートにはヘンリー・マンシーニが作曲した「All His Children」など、当時を代表する作曲家の作品が名を連ねました。
| 受賞 Winner |
“Theme from Shaft" – 黒いジャガー[Shaft] |
| ノミネート Nominees |
“The Age of Not Believing" – ベッドかざりとほうき[Bedknobs and Broomsticks] |
音響編集賞 / Onkyou Henshuh Shou[Best Sound Effects Editing]
音響編集賞(サウンドエフェクト編集部門)は第44回においては受賞者・ノミネート者の記録が公式に残されていない部門です。アカデミー賞の各年の授賞式では部門の設置・廃止・統合が繰り返されており、この年の同賞はその過渡期にあたります。
| 受賞 Winner |
|
| ノミネート Nominees |
録音賞 / Rokuon Shou[Best Sound]
録音賞(Best Sound)は、ブロードウェイの大ヒットミュージカルの迫力あるサウンドを忠実かつ豊かに映画へと再現した『屋根の上のバイオリン弾き』がデヴィッド・ヒルドヤードとゴードン・K・マッカラムの技術で受賞しました。ノミネートにはジェームズ・ボンドシリーズの傑作のひとつとして名高い『007 ダイヤモンドは永遠に』も含まれており、エンターテインメント映画の音響技術の高さも改めて評価されました。また、受賞を逃したとはいえ作品賞受賞の『フレンチ・コネクション』のローケーションサウンドも高い技術評価を受けています。
| 受賞 Winner |
屋根の上のバイオリン弾き[Fiddler on the Roof] |
| ノミネート Nominees |
007 ダイヤモンドは永遠に[Diamonds Are Forever] |
美術賞 / Bijutsu Shou[Best Art Direction]
美術賞(美術監督・セット装飾部門)は『ニコライとアレクサンドラ』がジョン・ボックスをはじめとする美術監督チームの卓越した仕事で受賞しました。帝政ロシア末期のロマノフ朝の豪奢な宮廷から革命後の幽閉生活まで、時代考証に基づいた精密なセットデザインとディテールへのこだわりが映画全体の品格を高めています。同作品は衣裳デザイン賞もダブル受賞しており、技術部門における圧倒的な存在感を示しました。ノミネートにはディズニーの『ベッドかざりとほうき』や『屋根の上のバイオリン弾き』も含まれ、多様なジャンルの美術が競い合いました。
| 受賞 Winner |
ニコライとアレクサンドラ[Nicholas and Alexandra] |
| ノミネート Nominees |
アンドロメダ…[The Andromeda Strain] |
撮影賞 / Satsuei Shou[Best Cinematography]
撮影賞はオズワルド・モリス(Oswald Morris)が『屋根の上のバイオリン弾き』の豊かな色彩表現で受賞しました。ウクライナの村の郷愁ある風景と民族的なパレットを映像で再現したモリスの手腕は、ミュージカル映画における視覚的な豊かさの頂点ともいえます。ノミネートには、フレンチ・コネクションのグリッティーで生々しいニューヨーク描写を手がけたオーウェン・ロイズマン(Owen Roizman)も含まれており、エレガントな色彩表現とドキュメンタリー的なリアリズム映像という対照的な美学が同じ土俵で競い合った年となりました。またロバート・サーティースは『ラスト・ショー』のモノクロの詩情ある映像美と『おもいでの夏』の両方でノミネートされるという異例の快挙も見せました。
| 受賞 Winner |
屋根の上のバイオリン弾き[Fiddler on the Roof] |
| ノミネート Nominees |
フレンチ・コネクション[The French Connection] |
衣裳デザイン賞 / Ishou Design Shou[Best Costume Design]
衣裳デザイン賞もまた美術賞と同様に『ニコライとアレクサンドラ』がイヴォンヌ・ブレイクとアントニオ・カスティーヨの手で受賞し、同作品の技術賞での強さを改めて示しました。ノミネートには、ルキノ・ヴィスコンティ監督の耽美的な傑作『ベニスに死す』でピエロ・トージ(Piero Tosi)が手がけた退廃的なベル・エポック様式の衣裳も含まれており、一方の歴史的な豪奢さと他方の耽美的な繊細さという対照的な美意識の競合として衣裳デザインへの関心を高めました。
| 受賞 Winner |
ニコライとアレクサンドラ[Nicholas and Alexandra] |
| ノミネート Nominees |
ベッドかざりとほうき[Bedknobs and Broomsticks] |
編集賞 / Henshuh Shou[Best Film Editing]
編集賞はジェラルド・B・グリーンバーグ(Gerald B. Greenberg)が『フレンチ・コネクション』で受賞しました。とりわけブルックリンの高架鉄道の下でカーが追走するカーチェイスシーンは、スピード感と緊張感が極限まで高められた編集の傑作として映画史に永遠に刻まれており、その後の犯罪映画・アクション映画の手本となりました。ノミネートにはスタンリー・キューブリック自身が編集にも深く関与した実験的映像作品『時計じかけのオレンジ』(ビル・バトラー)も含まれており、異なるアプローチによる映像編集の技術が競い合いました。
| 受賞 Winner |
フレンチ・コネクション[The French Connection] |
| ノミネート Nominees |
アンドロメダ…[The Andromeda Strain] |
視覚効果賞 / Shikaku Kouka Shou[Best Visual Effects]
視覚効果賞(特殊効果部門)はウォルト・ディズニー・プロダクションズの『ベッドかざりとほうき(Bedknobs and Broomsticks)』がダニー・リー、ユースタス・ライセット、アラン・マレイのチームで受賞しました。実写映像とアニメーションを高いレベルで融合させた複合映像処理の技術が認められたもので、コンピュータ・グラフィックス(CG)が存在しない時代における特撮・光学合成技術の粋を集めた作品です。ノミネートにはローレンス・ハマー監督のSF恐竜映画『恐竜時代(When Dinosaurs Ruled the Earth)』のコマ撮りアニメーション技術を手がけたジム・ダンフォース(Jim Danforth)も名を連ねており、当時の最先端の特撮技術が競い合いました。
| 受賞 Winner |
ベッドかざりとほうき[Bedknobs and Broomsticks] |
| ノミネート Nominees |
恐竜時代[When Dinosaurs Ruled the Earth] |
第44回アカデミー賞(1972年)総括 ― ニューハリウッド時代の幕開け
第44回アカデミー賞は、ハリウッド映画の転換期を鮮やかに映し出した授賞式でした。作品賞を受賞した『フレンチ・コネクション』は、合計5部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、脚色賞、編集賞)を制覇し、この年の最多受賞作品となりました。リアルなロケーション撮影とドキュメンタリー的手法を駆使したこの作品の成功は、1970年代のアメリカ映画が「ニューハリウッド」の名のもとに新しい表現を追求する流れを決定づけました。
技術部門では『屋根の上のバイオリン弾き』が撮影賞・録音賞・編曲歌曲賞の3部門で受賞し、伝統的なミュージカル映画の技術力が改めて評価されました。編曲歌曲賞を受賞したジョン・ウィリアムズ(John Williams)は、後に『スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』シリーズで映画音楽の巨匠として世界的に知られることとなります。また、歌曲賞ではアイザック・ヘイズ(Isaac Hayes)の「Theme from Shaft」が受賞し、アフリカ系アメリカ人のアーティストがアカデミー賞の音楽部門で受賞する歴史的快挙を成し遂げました。
美術賞と衣裳デザイン賞をダブル受賞した『ニコライとアレクサンドラ』は、ロシア革命を壮大なスケールで描いた歴史大作であり、細部にわたる時代考証と豪華なセットデザインが高く評価されました。視覚効果賞ではディズニーの『ベッドかざりとほうき』が受賞し、実写とアニメーションを融合した革新的な技術が認められました。
助演賞では『ラスト・ショー』から2名が受賞した点も特筆すべきです。ベン・ジョンソンは長年西部劇で活躍してきたベテラン俳優であり、老プールホールの主人サム役で初のオスカーを獲得。クロリス・リーチマンも高校のフットボールコーチの寂しげな妻を演じ、助演女優賞に輝きました。同一作品から助演男優・助演女優をダブル受賞するのは極めて珍しいことです。
第44回アカデミー賞(1972年)部門別受賞数ランキング
以下は、第44回アカデミー賞における作品別の受賞数をまとめた一覧表です。
| 受賞数 | 作品名 | 受賞部門 |
|---|---|---|
| 5部門 | フレンチ・コネクション [The French Connection] |
作品賞・監督賞・主演男優賞・脚色賞・編集賞 |
| 3部門 | 屋根の上のバイオリン弾き [Fiddler on the Roof] |
撮影賞・録音賞・編曲歌曲賞 |
| 2部門 | ニコライとアレクサンドラ [Nicholas and Alexandra] |
美術賞・衣裳デザイン賞 |
| 2部門 | ラスト・ショー [The Last Picture Show] |
助演男優賞・助演女優賞 |
| 2部門 | Sentinels of Silence | 短編ドキュメンタリー賞・短編映画賞 |
| 1部門 | コールガール [Klute] | 主演女優賞 |
| 1部門 | ホスピタル [The Hospital] | 脚本賞 |
| 1部門 | おもいでの夏 [Summer of '42] | 作曲賞 |
| 1部門 | 悲しみの青春 [The Garden of the Finzi-Continis] |
外国語映画賞 |
| 1部門 | 黒いジャガー [Shaft] | 歌曲賞 |
| 1部門 | ベッドかざりとほうき [Bedknobs and Broomsticks] |
視覚効果賞 |
| 1部門 | 大自然の闘争/驚異の昆虫世界 [The Hellstrom Chronicle] |
長編ドキュメンタリー賞 |
| 1部門 | The Crunch Bird | 短編アニメ賞 |
第44回アカデミー賞が映画史に残した意義
第44回アカデミー賞は、1970年代のアメリカ映画がそれまでの大作主義から脱却し、社会的なリアリズムや個人の内面を掘り下げる方向へ進化していく転換点として、映画史上きわめて重要な位置を占めています。『フレンチ・コネクション』のストリートレベルのリアリズム、『時計じかけのオレンジ』の実験的な映像表現、『ラスト・ショー』のアメリカの田舎町への郷愁、そして『コールガール』における女性の内面描写など、この年にノミネートされた作品群は、それぞれ異なるアプローチで映画表現の可能性を広げました。
また、国際映画の面では『悲しみの青春』や『どですかでん』のノミネートが示すように、アカデミー賞が世界各国の映画に目を向け始めた時期でもありました。これらの作品に触れることは、1970年代の世界映画の豊かな多様性を理解するうえで大きな意味を持つでしょう。
第44回の授賞式は、ベテラン俳優から新進気鋭の映像作家まで、世代と国境を超えた才能が一堂に交わった場でもありました。この年にデビューまたはブレイクを果たした映画人たちは、その後の10年にわたってハリウッドの黄金期を築いていきます。ジョン・ウィリアムズはその後の映画音楽を一変させ、ジェフ・ブリッジスは数十年にわたって第一線の俳優として活躍し続けました。第44回アカデミー賞はまさに、映画史の一時代の扉が大きく開かれた瞬間だったといえます。
第44回アカデミー賞受賞作品をいま観るべき理由
半世紀以上を経た今日でも、第44回アカデミー賞(1972年開催)の受賞・ノミネート作品群は色褪せることなく、映画史の必見作として広く推薦されています。『フレンチ・コネクション』のカーチェイスシーンはアクション映画の教科書として今なお引用され、『時計じかけのオレンジ』は現代社会への批評として議論を呼び続け、『ラスト・ショー』はアメリカの地方と青春を描いた叙情的な傑作として映画ファンに愛され続けています。『悲しみの青春』は欧州映画の精髄として、また戦争と差別の歴史を知るための作品としても重要な価値を持ちます。本ページの各賞テーブルからAmazonで作品を検索し、ぜひご自身の目でその映画史的な価値を確かめてみてください。

