四国地方の経済産業省指定「伝統的工芸品」一覧・まとめ – 職人の熟練した匠の技によって生み出される珠玉の手仕事 / Traditional Crafts of Shikoku ~阿波和紙・大谷焼・丸亀うちわ・砥部焼・土佐和紙・土佐打刃物~
四国地方の経済産業省指定「伝統的工芸品」一覧・まとめ – 職人の熟練した匠の技によって生み出される珠玉の手仕事 / Traditional Crafts of Shikoku ~阿波和紙・大谷焼・丸亀うちわ・砥部焼・土佐和紙・土佐打刃物~
四国地方の伝統的工芸品の特徴と歴史的背景
四国地方は徳島・香川・愛媛・高知の4県からなり、本州とは海峡を隔てた独自の文化圏を形成してきた島嶼的な地域です。弘法大師空海の生誕地として知られる香川県善通寺を起点に、四国八十八箇所霊場をめぐる「お遍路」の文化が深く根付き、巡礼の道は人々の往来と交流を促して各地の産業と技術の交差点ともなってきました。現在、四国地方には経済産業大臣指定の伝統的工芸品が7品目存在し、それぞれ徳島3品目(阿波正藍しじら織・大谷焼・阿波和紙)、香川2品目(香川漆器・丸亀うちわ)、愛媛2品目(砥部焼・大洲和紙)、高知2品目(土佐打刃物・土佐和紙)という構成になっています。
四国の伝統的工芸品を俯瞰すると、いくつかの際立った特徴が浮かび上がります。第一に、和紙文化の圧倒的な集積です。徳島の阿波和紙、愛媛の大洲和紙、高知の土佐和紙という3つの和紙産地が四国に集中しており、これは四国の豊富な降水量と清流に恵まれた地形、そして楮・三椏・雁皮などの原料植物の生育に適した温暖な気候が育んだ必然的な結果です。特に土佐和紙は「日本三大和紙」の一角を占め、世界最薄の典具帖紙は大英博物館やルーヴル美術館の文化財修復にも使われる国際的な評価を誇ります。第二の特徴は、特定の産業・文化と深く結びついた工芸品の発展です。徳島の阿波正藍しじら織は「阿波藍」という一大産業が生み出した織物であり、大谷焼は藍甕の需要から発展した陶器です。香川の丸亀うちわは金刀比羅宮(こんぴらさん)への参拝土産から始まった工芸品であり、香川漆器は高松藩主・松平家による漆芸振興が基盤にあります。第三に、四国遍路の巡礼文化との共鳴が挙げられます。遍路文化がもたらした精神的な内省と、自然への深い畏敬が、四国各地の手仕事の根底に流れる美意識と通底しています。土佐打刃物の自由鍛造による一品一品の個性、香川漆器の5つの技法が持つ多様な美の表現、砥部焼のぽってりとした温かみのある白磁——これらはいずれも、四国の風土と人々の暮らしに根ざした「使う喜び」を体現しています。四国の伝統的工芸品は数こそ全国の中では多くはありませんが、それぞれが高い個性と完成度を誇り、現代においても国内外で高い評価を受け続けている逸品ばかりです。
「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」に基づき、経済産業大臣が指定する伝統的工芸品には、①主として日常生活の用に供されているもの、②製造過程の主要部分が手工業的であるもの、③伝統的技術または技法によって製造されるもの、④伝統的に使用されてきた原材料を使用していること、⑤一定の地域で産地形成されていること、という5つの要件をすべて満たすことが求められます。四国の7品目はいずれもこの厳格な要件を満たした、地域の歴史と職人の技が融合した真の手仕事の結晶です。本ページでは、各都道府県の詳細ページへのリンクとともに、四国全体の工芸品を一覧で紹介します。
徳島県の伝統的工芸品 / Traditional Crafts of Tokushima
徳島県は四国の東部に位置し、吉野川流域の豊かな自然環境と温暖な気候に恵まれた地域です。古くから藍の栽培が盛んで「阿波藍」は全国にその名を馳せてきました。この藍染め文化を基盤として発展した織物をはじめ、良質な陶土を活かした焼き物、そして1,300年以上の歴史を誇る和紙づくりなど、徳島県には風土と歴史が育んだ個性豊かな伝統的工芸品が受け継がれています。徳島県には現在、経済産業大臣指定の伝統的工芸品が3品目あります。
阿波正藍しじら織 / Awa Shouai Shijira Ori[Awa Shouai Shijira Ori]
阿波正藍しじら織(あわしょうあいしじらおり)は、徳島県の吉野川流域で生産される藍染めの織物です。最大の特徴は、布面に現れる独特の凹凸「シボ(しじら)」にあります。このシボのおかげで肌への接触面積が少なくなり、通気性に優れた涼しい着心地を実現しています。夏の衣料として古くから重宝され、現在でも浴衣や甚平、シャツなどに用いられています。
阿波正藍しじら織の歴史
阿波正藍しじら織の起源は、明治時代にまでさかのぼります。1879年(明治12年)頃、徳島の織り子が雨に濡れた布を乾かしたところ、縮んでシボが生じた偶然の発見がきっかけとされています。この自然に生まれた独特の風合いに着目し、経糸と緯糸の張力差を利用して意図的にシボを作り出す技法が確立されました。徳島は江戸時代から藍の一大産地であり、「阿波藍」のブランドは全国に知られていました。その藍染め文化と新たなしじら織の技法が結びつき、阿波正藍しじら織として独自の発展を遂げました。
製造技法と特徴
阿波正藍しじら織の製造には、徳島県産の天然藍「すくも」を用いた正藍染めが欠かせません。藍を発酵させて染液を作る「藍建て」と呼ばれる伝統的な工程を経て、糸を繰り返し浸して深みのある藍色に染め上げます。織りの工程では、経糸の張力に変化をつけることで布面にシボを生じさせます。この技法により、軽くて風通しが良く、汗をかいても肌に張り付かない快適な生地が生まれます。藍には防虫・消臭効果もあるとされ、実用性の面でも優れた織物です。
| 登録年 Designated |
1978年7月22日 |
| 種類 Type |
織物 |
| 主な産地 Production Area |
徳島県徳島市周辺 |
| 主な原材料 Main Materials |
綿糸、天然藍(すくも) |
| 関連商品取扱店一覧 Shop |
阿波正藍しじら織 取扱店一覧 |
大谷焼 / Ohtaniyaki[Ohtaniyaki]
大谷焼(おおたにやき)は、徳島県鳴門市大麻町大谷地区で生産される陶磁器です。素朴で力強い風合いが特徴で、特に大型の水甕(みずがめ)や睡蓮鉢など、日本でも有数の大きさを誇る焼き物を製造できることで知られています。大谷焼の窯元が集まる大谷地区は「やきもの散歩道」としても整備されており、窯元巡りを楽しむ観光客にも人気のスポットです。
大谷焼の歴史
大谷焼の歴史は、江戸時代後期の安永9年(1780年)に始まります。豊後国(現在の大分県)の焼き物師・文右衛門が、四国八十八ヶ所巡礼の途中に大谷村に立ち寄り、この地の良質な陶土に目をとめて窯を築いたのがその起こりとされています。その後、藩主・蜂須賀家の庇護を受けて藍甕(あいがめ)の生産が盛んになりました。徳島の藍染め産業には大量の藍甕が必要であり、大谷焼の発展は阿波藍の隆盛と密接に結びついています。
製造技法と特徴
大谷焼の最大の特色は、大物を成形するための伝統技法「寝ろくろ(ねろくろ)」です。これは陶工が仰向けに寝そべり、足でろくろを回しながら、もう一人の陶工が粘土を積み上げて大型の器を成形する二人一組の技法です。この独特の手法により、高さ1メートルを超えるような大甕も製作が可能となります。登り窯による高温焼成で生まれる自然釉の景色や、鉄分を多く含む陶土が醸し出す温かみのある色合いも、大谷焼ならではの魅力です。近年は日用食器や花器、コーヒーカップなど、現代の生活に馴染む多彩な製品も作られています。
| 登録年 Designated |
2003年9月10日 |
| 種類 Type |
陶磁器 |
| 主な産地 Production Area |
徳島県鳴門市大麻町大谷 |
| 主な原材料 Main Materials |
讃岐粘土、大谷粘土など |
| 関連商品取扱店一覧 Shop |
大谷焼 取扱店一覧 |
阿波和紙 / Awa Washi[Awa Washi]
阿波和紙(あわわし)は、徳島県吉野川市山川町および那賀郡那賀町(旧・相生町)周辺で生産される伝統的な和紙です。その歴史は非常に古く、1,300年以上前にまでさかのぼるとされています。楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)といった天然の植物繊維を原料に、清澄な水を用いた「流し漉き」の技法によって、丈夫でしなやかな紙が作られます。
阿波和紙の歴史
阿波和紙の起源は、奈良時代以前にさかのぼります。忌部族(いんべぞく)が麻や楮を植えて紙を漉き始めたことが始まりとされ、平安時代には朝廷への貢納品としても記録が残っています。江戸時代には徳島藩の保護のもとで産地が大きく発展し、「阿波の紙」は全国的な名声を得ました。特に障子紙や書道用紙として高い品質が認められ、最盛期には吉野川沿いの集落に数多くの紙漉き家が軒を連ねていたと伝えられています。
製造技法と特徴
阿波和紙の製造は、原料となる楮・三椏・雁皮の皮を剥ぎ、煮熟・叩解して繊維をほぐすところから始まります。そこにトロロアオイの根から採った粘液(ネリ)を加え、竹簀(たけす)を用いた「流し漉き」で一枚一枚丁寧に漉き上げます。阿波和紙はその強靱さと柔らかな質感が両立する点が特長で、書道・日本画・版画の用紙として高い評価を受けています。近年ではインテリア照明のシェードや壁紙、名刺、アート作品の素材としても活用が広がり、現代のライフスタイルに合った新しい用途が開拓されています。徳島県吉野川市にある「阿波和紙伝統産業会館」では、紙漉き体験も行われており、伝統の技を間近に感じることができます。
| 登録年 Designated |
1976年12月15日 |
| 種類 Type |
和紙 |
| 主な産地 Production Area |
徳島県吉野川市山川町、那賀郡那賀町 |
| 主な原材料 Main Materials |
楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ) |
| 関連商品取扱店一覧 Shop |
阿波和紙 取扱店一覧 |
香川県の伝統的工芸品 / Traditional Crafts of Kagawa
香川県は、四国の北東部に位置し、瀬戸内海の温暖な気候と美しい自然環境に恵まれた土地です。古くから讃岐国として知られ、瀬戸内海を通じた海上交易の要衝として、大陸や畿内の先進的な文化・技術を柔軟に取り入れながら、独自の工芸文化を育んできました。特に江戸時代には高松藩主・松平家の庇護のもと、漆芸をはじめとする美術工芸が大きく花開きました。現在、香川県には2つの経済産業大臣指定伝統的工芸品があります。
香川漆器 / Kagawa Shikki[Kagawa Shikki]
香川漆器は、香川県高松市を中心に約400年の歴史を持つ漆器です。その起源は江戸時代初期の1638年頃、初代高松藩主・松平頼重(よりしげ)が入封した際に、漆芸の振興に力を注いだことに始まるとされています。頼重は京都から漆工の名匠・玉楮象谷(たまかじぞうこく)の祖先にあたる塗師を招き、藩をあげて漆芸を奨励しました。その伝統を受け継いだ幕末の名工・玉楮象谷(1806〜1869年)は、中国や東南アジアの漆芸技法を研究・昇華し、讃岐漆芸の基礎を確立した人物として特に名高い存在です。
香川漆器の最大の特徴は、5つの代表的な技法を有する多彩な漆芸表現にあります。漆の表面に精緻な線彫りを施し、色漆や金箔を充填する「蒟醤(きんま)」、色漆を何層にも塗り重ねてから彫刻刀で文様を彫り出す「彫漆(ちょうしつ)」、色漆の塗り重ねと研ぎ出しによって独特の模様を表現する「存清(ぞんせい)」、木地の木目を活かしながら漆で仕上げる「後藤塗(ごとうぬり)」、そして朱漆と黒漆の塗り分けによる大胆な意匠の「象谷塗(ぞうこくぬり)」です。これら5つの技法を一つの産地で継承しているのは日本全国でも香川県のみであり、「漆芸王国・讃岐」と称される所以となっています。
香川漆器の製品は、盆、重箱、茶道具、花器、飾り皿などの伝統的な品から、現代ではアクセサリー、万年筆、名刺入れ、スマートフォンケースといった日常使いのアイテムまで多彩に展開されています。高松市内には香川県漆芸研究所が設置されており、後継者の育成と技法の伝承に力が注がれています。
| 登録年 Designated |
1976年2月26日 |
| 種類 Type |
漆器 |
| 関連商品取扱店一覧 Shop |
香川漆器 取扱店一覧 |
丸亀うちわ / Marugame Uchiwa[Marugame Uchiwa]
丸亀うちわは、香川県丸亀市を中心に約400年の歴史を持つ団扇(うちわ)です。その起源は江戸時代初期の1633年頃、金刀比羅宮(こんぴらさん)への参拝客向けの土産物として、「渋うちわ」が作られ始めたことに遡ります。丸亀藩の下級武士たちが内職として団扇作りに携わったことで産地が形成され、やがて丸亀は日本を代表する団扇の一大生産地へと発展しました。
丸亀うちわの最大の特徴は、一本の竹から骨組みを作り上げる伝統的な製法にあります。真竹や淡竹(はちく)を素材とし、竹の丸みを活かした「丸柄(まるえ)」が丸亀うちわの大きな特色です。製造工程は約47工程にも及び、竹割り、骨削り、編み、貼り、仕上げの各段階で熟練した職人の手技が求められます。特に、一本の竹を細かく割いて均等な骨を作り出す「割竹(わりたけ)」の工程は高度な技術を要し、竹の繊維を見極めながら正確に割る技は長年の修練によってのみ体得できるものです。
丸亀うちわの生産量は全国シェアの約9割を占めており、名実ともに日本一のうちわ産地です。丸亀市内にはうちわの港ミュージアムが設置されており、丸亀うちわの歴史や製造工程を学べるほか、うちわ作りの体験も楽しむことができます。
| 登録年 Designated |
1997年 |
| 種類 Type |
その他工芸品 |
| 関連商品取扱店一覧 Shop |
丸亀うちわ 取扱店一覧 |
愛媛県の伝統的工芸品 / Traditional Crafts of Ehime
愛媛県は、四国の北西部に位置し、瀬戸内海と宇和海の二つの海に面した温暖な気候に恵まれた地域です。古くから良質な陶石の産出地として知られ、また豊かな水資源を活かした紙漉きの伝統も脈々と受け継がれてきました。愛媛県には現在、経済産業大臣により指定された伝統的工芸品が2品目あります。厚みのある白磁に呉須(ごす)の藍色が映える「砥部焼」と、清流の恵みから生まれる柔らかな風合いの「大洲和紙」は、いずれも数百年の歴史を誇り、日本の伝統文化を代表する工芸品として国内外から高い評価を受けています。
砥部焼 / Tobeyaki[Tobeyaki]
砥部焼(とべやき)は、愛媛県伊予郡砥部町を中心に生産される磁器で、四国を代表する伝統的な焼き物として広く知られています。1976年に経済産業大臣の指定を受けた、愛媛県が誇る伝統的工芸品です。
砥部焼の歴史は、江戸時代中期の1775年(安永4年)に遡ります。大洲藩の藩政改革の一環として、地元で産出される良質な陶石を活用した磁器生産が始まりました。当初は砥石(といし)の生産で知られていた砥部の地で、その砥石くずを原料にして磁器焼成を試みたのが起源とされています。以来250年以上にわたり、砥部の職人たちは技術を磨き続けてきました。
砥部焼の最大の特徴は、やや厚手でぽってりとした白磁の素地に、呉須(ごす)と呼ばれる藍色の顔料で描かれた染付(そめつけ)模様にあります。唐草文様、太陽文、水玉模様など、素朴でありながらモダンな印象を与えるデザインが特徴的です。厚みのある素地は丈夫で割れにくく、日常の食器として気兼ねなく使える実用性を備えています。製造工程では、砥部周辺で採掘された陶石を砕いて精製し、成形・素焼き・絵付け・施釉・本焼きという磁器の基本的な工程を、職人が一つひとつ手作業で丁寧に仕上げます。本焼きの温度は約1,300度に達し、高温焼成によって生まれる硬質で透光性のある白磁は、砥部焼ならではの美しさです。現在、砥部町には約70の窯元が点在しています。
| 登録年 Designated |
1976年12月15日 |
| 種類 Type |
陶磁器 |
| 主な産地 Main Production Area |
愛媛県伊予郡砥部町 |
| 主な原材料 Main Materials |
陶石、呉須(ごす)、釉薬 |
| 関連商品取扱店一覧 Shop |
砥部焼 取扱店一覧 |
大洲和紙 / Ohzu Washi[Ohzu Washi]
大洲和紙(おおずわし)は、愛媛県大洲市(旧・喜多郡五十崎町周辺)で生産される伝統的な和紙です。1977年に経済産業大臣の指定を受け、四国における和紙文化の象徴として高く評価されています。
大洲和紙の歴史は古く、平安時代にはすでにこの地で紙漉きが行われていたと伝えられています。江戸時代には大洲藩の重要な特産品として藩の保護を受け、「大洲半紙」の名で全国に広く流通しました。特に障子紙や書道用紙として高い評価を得ており、その品質は江戸時代の紙問屋の間でも定評がありました。大洲和紙の原料には、主に楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)といった植物の靭皮繊維が使用されます。特に楮を原料とする紙は繊維が長く丈夫で、引っ張りに強いのが特徴です。製造工程は、原料の煮熟・叩解・紙漉き・乾燥と、古来より伝わる「流し漉き」の技法が用いられ、清流・肱川(ひじかわ)の良質な水がその品質を支えています。
大洲市五十崎地区では毎年5月5日に「大凧合戦」が開催され、大洲和紙で作られた巨大な凧が初夏の空を舞う姿は、この地の和紙文化を象徴する風物詩として多くの観光客を魅了しています。
| 登録年 Designated |
1977年10月14日 |
| 種類 Type |
和紙 |
| 主な産地 Main Production Area |
愛媛県大洲市(旧・喜多郡五十崎町) |
| 主な原材料 Main Materials |
楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ) |
| 関連商品取扱店一覧 Shop |
大洲和紙 取扱店一覧 |
高知県の伝統的工芸品 / Traditional Crafts of Kochi
高知県(土佐)は、四国山地の豊かな森林資源と太平洋の黒潮がもたらす温暖多雨の気候に恵まれた地域です。この自然環境が、良質な鍛冶用の炭や和紙の原料となる植物の生育を支え、古くから「刃物」と「和紙」という二つの伝統的工芸品を育んできました。高知県には現在、経済産業大臣指定の伝統的工芸品が2品目あります。土佐の伝統的工芸品は、いずれも400年以上の歴史を有し、実用性と芸術性を高い次元で両立させた日本のものづくりの粋です。
土佐打刃物 / Tosauchi Hamono[Tosauchi Hamono]
土佐打刃物の歴史
土佐打刃物の起源は、戦国時代末期の天正年間(1573年〜1592年)にまで遡ります。長宗我部元親の時代、土佐藩では戦に必要な刀剣や槍などの武器を製造するために多くの鍛冶職人が集められました。江戸時代に入ると、平和な世の中になったことで武器の需要が減少し、鍛冶職人たちは農林業用の刃物づくりへと転向しました。土佐藩の「元禄大定目」(1690年頃)には、鎌や鉈、包丁などの日用刃物の製造について記された記録が残されており、この時期には既に産地として確立していたことがわかります。以来400年以上にわたり、土佐の鍛冶技術は脈々と受け継がれてきました。
土佐打刃物の特徴と製法
土佐打刃物の最大の特徴は「自由鍛造」と呼ばれる製法にあります。これは、金型を使わず、熟練の鍛冶職人が赤く熱した鋼をハンマーで一打一打叩きながら自在に形を作り上げていく技法です。この自由鍛造により、刃物一本一本が微妙に異なる個性を持ち、使い手の用途や好みに応じた細やかな対応が可能となります。
土佐打刃物のもう一つの大きな特徴は、切れ味の鋭さと耐久性の高さを両立させた「複合材製法」です。柔らかい地金(じがね)に硬い鋼(はがね)を割り込む、または挟み込む技法により、刃先は鋭く、全体としてはしなやかで折れにくい刃物が生まれます。山林での過酷な作業にも耐えうる実用本位の堅牢さは、全国の林業・農業従事者から高い信頼を得ています。代表的な製品としては、山林用の鉈(なた)・鎌・斧、農業用の鍬(くわ)・草刈り鎌、料理用の包丁、園芸用のはさみなど多岐にわたります。近年では、その切れ味と美しい刃紋が海外のシェフやアウトドア愛好家からも注目を集めており、国際的な評価も高まっています。
土佐打刃物の産地
主な生産地は高知県香美市・南国市・土佐市・須崎市・いの町などで、特に旧鏡村(現・高知市鏡地区)や香美市土佐山田町周辺には鍛冶工房が集中しています。産地では鍛冶体験や工房見学ができる施設もあり、職人の技を間近に見ることができます。
| 登録年 Designated |
1998年5月6日 |
| 種類 Type |
金工品 |
| 関連商品取扱店一覧 Shop |
土佐打刃物 取扱店一覧 |
土佐和紙 / Tosa Washi[Tosa Washi]
土佐和紙の歴史
土佐和紙は、日本三大和紙(越前和紙・美濃和紙・土佐和紙)の一つに数えられ、その歴史は極めて古く、平安時代初期の延喜式(927年)には土佐国から朝廷へ紙が献上された記録が残されています。約1,000年以上にわたる紙漉きの伝統を持つ、日本を代表する和紙産地です。
土佐における和紙づくりが大きく発展したのは江戸時代のことです。土佐藩の藩主・山内家は紙の専売制を敷き、「御用紙漉き」として手厚く保護・奨励しました。藩の重要な財源として位置づけられた土佐和紙は、品質の向上が図られるとともに生産量も飛躍的に増加し、「紙の国・土佐」として全国にその名を轟かせました。明治以降も技術革新を重ねながら伝統を守り続け、1976年に経済産業大臣指定伝統的工芸品に指定されました。
土佐和紙の特徴と製法
土佐和紙の特徴は、薄くても丈夫で、きめが細かく美しい風合いを持つことです。高知県は全国でも有数の多雨地域であり、仁淀川や四万十川など清流に恵まれた土地柄です。紙漉きに不可欠な豊富で清らかな水と、温暖な気候のもとで育つ良質な楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)などの原料植物が、土佐和紙の品質を支えています。
製法は、原料の樹皮を煮熟・漂白・叩解した後、「流し漉き」と呼ばれる伝統的な技法で一枚一枚丁寧に漉き上げます。職人は簀桁(すげた)を前後左右に揺り動かしながら繊維を均一に絡ませることで、薄くても破れにくい強靭な紙を作り出します。特に「典具帖紙(てんぐじょうし)」は、厚さわずか0.02〜0.03mmという世界で最も薄い紙として知られ、文化財の修復用紙として大英博物館やルーヴル美術館など世界中の美術館・博物館で採用されています。
土佐和紙の産地
主な生産地は、高知県吾川郡いの町(旧・伊野町)を中心とする仁淀川流域です。いの町は「紙の町」として知られ、「いの町紙の博物館」では土佐和紙の歴史や製法を学べるだけでなく、紙漉き体験も楽しむことができます。
| 登録年 Designated |
1976年12月15日 |
| 種類 Type |
和紙 |
| 関連商品取扱店一覧 Shop |
土佐和紙 取扱店一覧 |
四国地方の伝統的工芸品まとめ
四国地方の7つの経済産業大臣指定伝統的工芸品は、それぞれが四国の豊かな自然環境・歴史的背景・産業文化と深く結びついて発展してきた、個性豊かな手仕事の集大成です。特筆すべきは、これほどコンパクトな地域に和紙(阿波和紙・大洲和紙・土佐和紙)が3品目も指定されているという事実で、四国が日本の和紙文化における特別な存在であることを示しています。山から海へと清流が流れる四国の豊かな水環境が、質の高い紙漉きを可能にしてきた地理的必然性が、ここに体現されています。
また、藍染め産業が生み出した阿波正藍しじら織と大谷焼(徳島)、巡礼文化と結びついた丸亀うちわ(香川)、武士の内職から発展した丸亀うちわ、大名の文化振興政策が花開いた香川漆器、戦国の鍛冶技術が農林業用刃物へと昇華した土佐打刃物など、各工芸品にはそれぞれ独自の発展の経緯があります。四国の伝統的工芸品はこのように、地域の歴史の転換点や産業の変遷を映し出す「生きた記録」でもあります。
砥部焼の約70の窯元が集まる砥部町、丸亀うちわの生産量が全国の約9割を占める丸亀市、世界最薄の典具帖紙を生み出す高知・いの町、漆芸の5技法を今に伝える香川県漆芸研究所——それぞれの産地では工房見学・体験施設・ミュージアムが整備されており、四国を旅する際には伝統的工芸品の産地巡りも大きな魅力となっています。四国八十八箇所霊場のお遍路と組み合わせながら、職人の技と四国の風土が融合した珠玉の手仕事に触れる旅を、ぜひお楽しみください。

