九州・沖縄地方の国宝(建造物) 一覧・まとめ / National Treasure of Japanese Buildings in Kyushu ~大浦天主堂・青井阿蘇神社・富貴寺大堂・崇福寺・宇佐神宮・玉陵~
九州・沖縄地方の国宝(建造物) 一覧・まとめ / National Treasure of Japanese Buildings in Kyushu & Okinawa
九州・沖縄地方の国宝建造物の特徴と歴史的背景
九州・沖縄地方は福岡・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島・沖縄の8県からなり、現在7件の国宝建造物が指定されています。九州・沖縄の国宝建造物は、他の地域とは異なる独自の国際的・文化的背景を持つ名建築が揃っており、大陸(中国)文化の影響を強く受けた長崎の建築から、琉球王国の文化を伝える沖縄の石造王陵まで、日本列島の南西端に展開した多彩な建築文化遺産を形成しています。
長崎県の大浦天主堂(1864年)は日本に現存する唯一のゴシック様式の国宝建造物として、日本のキリスト教の歴史と弾圧・復活の感動的な物語を今に伝えています。同じ長崎の崇福寺大雄宝殿・第一峰門(1646〜1702年)は江戸時代の在日中国人が建立した中国明朝様式の建築として、鎖国時代における日中文化交流の証人です。熊本県の青井阿蘇神社(1610年)は九州で初めて国宝指定を受けた神社建築として、九州の神道文化を代表する遺産です。大分県の富貴寺大堂(平安後期)は九州最古の木造建築として平安時代の阿弥陀信仰の広がりを示し、宇佐神宮本殿は全国に約44,000社の八幡神社の総本社として神社建築の歴史的原点を示しています。沖縄県の玉陵(たまうどぅん)(1501年)は琉球王国の国王陵墓として独自の琉球建築文化の粋を示し、2018年に国宝指定を受けました。
福岡・佐賀・宮崎・鹿児島の4県には現時点で国宝建造物は指定されていませんが、太宰府天満宮・宗像大社・筥崎宮・鵜戸神宮など多くの歴史的神社仏閣が重要文化財に指定されており、九州・沖縄全体として豊かな建築文化遺産を誇っています。
長崎県の国宝(建造物) / National Treasure of Japanese Buildings in Nagasaki
長崎県の国宝建造物は3件が指定されており、いずれも江戸時代の長崎に集まった異文化の影響を色濃く反映した独自の建築です。大浦天主堂・崇福寺大雄宝殿・崇福寺第一峰門は、日本のキリスト教建築と中国明朝様式建築の国宝として、日本の建築文化の多様性と国際性を示す唯一無二の遺産群です。
大浦天主堂 / Oura Cathedral
大浦天主堂は、長崎県長崎市南山手町に所在するカトリックの教会堂で、元治元年(1864年)にフランス人神父・フューレとプティジャンの指導のもと、長崎の大工・小山秀之進らが建設した日本現存唯一のゴシック様式の国宝建造物です。正式名称は「日本二十六聖人殉教者天主堂」で、天正14年(1587年)に豊臣秀吉の命で処刑された26人のカトリック殉教者に捧げられた教会です。
三廊式のゴシック建築で、正面の三つの尖塔と色ガラスのステンドグラスが特徴的な外観を呈しています。1865年(慶応元年)、浦上の隠れキリシタンが大浦天主堂を訪れて信仰を告白した「信徒発見」の奇跡は、世界的なカトリック界を驚かせた歴史的事件として記録されています。2018年に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」としてユネスコ世界遺産に登録され、国宝建造物かつ世界遺産の構成資産として二重の栄誉を持っています。日本の国宝建造物の中でキリスト教会堂はこの1件のみという唯一無二の存在です。
| 種別 Type | 国宝・近代・キリスト教会(ゴシック様式) |
| 時代 Period | 幕末 元治元年(1864年)完成 |
| 指定年月日 Designated | 1933年(昭和8年)1月23日(国宝旧法) |
| 住所 Address | 長崎県長崎市南山手町5-3 |
| 地図 Map | 地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station | 長崎電気軌道 大浦天主堂停留場から徒歩約5分 |
| URL URL | https://www.oura-church.jp/ |
崇福寺大雄宝殿 / Sofukuji Temple Daiyuhoden (Main Hall)
崇福寺大雄宝殿は、長崎県長崎市鍛冶屋町に所在する黄檗宗(おうばくしゅう)の寺院・崇福寺の本堂で、正保3年(1646年)に福建省(中国)出身の在日中国人たちが建立した日本に現存する中国明朝様式建築の最高峰です。崇福寺は寛永6年(1629年)に長崎在留の福建省出身の中国人(唐人)によって創建された寺院で、「唐寺(とうでら)」として長崎の中国人社会の精神的支柱となってきました。
大雄宝殿は間口三間・奥行六間・入母屋造・本瓦葺で、中国建築の特色である赤色の外壁・独特の曲線屋根・複雑な斗栱(組物)・精緻な彫刻装飾が随所に施されています。日本の和様建築とは全く異なる造形原理に基づいた建築として、江戸時代の日中文化交流の生きた証人です。崇福寺の境内は「長崎くんち」にゆかりのある場所としても知られています。
| 種別 Type | 国宝・近世以前・寺院(本堂・中国明朝様式) |
| 時代 Period | 江戸前期 正保3年(1646年) |
| 指定年月日 Designated | 1952年(昭和27年)3月29日 |
| 住所 Address | 長崎県長崎市鍛冶屋町7-5 |
| 地図 Map | 地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station | 長崎電気軌道 崇福寺停留場から徒歩約3分 |
| URL URL | https://sofukuji.or.jp/ |
崇福寺第一峰門 / Sofukuji Temple Daiippomon (First Peak Gate)
崇福寺第一峰門は、崇福寺の二番目の門(第一峰門)で、元禄15年(1702年)に建立されました。大雄宝殿と同様に中国明朝様式の意匠で建てられており、特に複雑に重なり合う多重の屋根と細部の彫刻装飾が見どころです。「第一峰門」の名は、建物の二重の屋根が山の峰のように重なる意匠に由来するとも言われています。崇福寺境内では大雄宝殿(1646年)・第一峰門(1702年)の2棟が国宝に指定されており、長崎に来日した中国明朝様式建築の技術が半世紀以上にわたって継承・発展した様子を示しています。
| 種別 Type | 国宝・近世以前・寺院(門・中国明朝様式) |
| 時代 Period | 江戸中期 元禄15年(1702年) |
| 指定年月日 Designated | 1952年(昭和27年)3月29日 |
| 住所 Address | 長崎県長崎市鍛冶屋町7-5 |
| 地図 Map | 地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station | 長崎電気軌道 崇福寺停留場から徒歩約3分 |
| URL URL | https://sofukuji.or.jp/ |
福岡県・佐賀県の国宝(建造物)
福岡県・佐賀県には現時点で国宝(建造物)に指定された建物はありません。福岡県には全国に約44,000社ある八幡神社の東の中心・筥崎宮(はこざきぐう)、学問の神様・太宰府天満宮(重要文化財)、世界遺産「宗像大社」(沖ノ島関連遺産群・2017年登録)、など歴史的価値の高い神社仏閣が多数存在しています。佐賀県については別途詳細ページをご覧ください。
熊本県の国宝(建造物) / National Treasure of Japanese Buildings in Kumamoto
熊本県の国宝建造物は1件が指定されており、人吉市の青井阿蘇神社がその唯一の国宝建造物です。2008年に九州地方で初めて神社建築として国宝に指定された歴史的建造物で、人吉球磨地方の独自の文化と信仰を今に伝えています。
青井阿蘇神社 / Aoi Aso Jinja Shrine
青井阿蘇神社は、熊本県人吉市上青井町に鎮座する神社で、大宝元年(701年)に阿蘇神社の分社として創建されたと伝えられています。現在の社殿群(拝殿・廊・幣殿・神門・楼門)は慶長15年(1610年)頃に人吉城主・相良長毎(さがらながつね)が造営したもので、九州地方初の神社建築の国宝として2008年に指定を受けました。
社殿は本殿・幣殿・拝殿・廊・楼門の5棟が一連のまとまりとして国宝に指定されています。独特の「青井造り」と称される桃山様式の社殿は、柿葺(こけらぶき)の屋根と茅葺(かやぶき)の破風の組み合わせが特徴的で、九州の神社建築の中でも独自の発展を遂げた様式として評価されています。また、境内を流れる青井川と社殿の組み合わせが美しい景観を作り出しており、神社の周囲に広がる「青井阿蘇神社境内」は国の史跡にも指定されています。2020年7月の熊本豪雨では人吉市が大きな被害を受けましたが、国宝社殿は保護措置によって被害を最小限に抑えることができました。
| 種別 Type | 国宝・近世以前・神社(本殿・幣殿・拝殿・廊・楼門 5棟) |
| 時代 Period | 江戸初期(桃山様式) 慶長15年(1610年)頃 |
| 指定年月日 Designated | 2008年(平成20年)6月9日 |
| 住所 Address | 熊本県人吉市上青井町118 |
| 地図 Map | 地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station | JR肥薩線 人吉駅から徒歩約10分 |
| URL URL | https://www.aoiaso.or.jp/ |
大分県の国宝(建造物) / National Treasure of Japanese Buildings in Oita
大分県の国宝建造物は2件が指定されており、九州最古の木造建築・富貴寺大堂と全国八幡神社の宗社・宇佐神宮の本殿が指定を受けています。大分県(旧豊後国)は古代から仏教・神道両方の文化が栄えた地で、国東半島の仏教文化(国東塔・磨崖仏)とともに、九州の古代信仰と建築文化を今に伝えています。
富貴寺大堂 / Fuki-ji Temple Odo (Great Hall)
富貴寺大堂は、大分県豊後高田市田染蕗に所在する天台宗の寺院・富貴寺の本堂で、平安後期(11〜12世紀)に建立された九州地方最古の木造建築です。三間四面・宝形造・茅葺で、内部に阿弥陀如来坐像(重要文化財)と壁面に描かれた浄土曼荼羅・来迎図(重要文化財)が安置されています。
平安時代の末法思想に基づく阿弥陀信仰(浄土信仰)が、中央から遠く離れた豊後(大分)の山間部にまで波及していたことを示す稀有な遺構として、建築史・宗教史の両面から高い評価を受けています。国東半島の「六郷満山(ろくごうまんざん)」と呼ばれる仏教文化圏の核心部に位置しており、周囲の「田染荘(たしぶのしょう)」の田園景観(日本の棚田百選)と富貴寺の茅葺大堂の組み合わせは、「日本の原風景」とも称される美しさです。春の桜・秋の紅葉の季節は特に素晴らしく、大分を代表する歴史景観スポットです。
| 種別 Type | 国宝・近世以前・寺院(仏堂) |
| 時代 Period | 平安後期(11〜12世紀) |
| 指定年月日 Designated | 1952年(昭和27年)3月29日 |
| 住所 Address | 大分県豊後高田市田染蕗2395 |
| 地図 Map | 地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station | JR日豊本線 宇佐駅からタクシー約40分、または大分交通バス「田染蕗」下車徒歩約5分 |
| URL URL | https://www.fukiji.jp/ |
宇佐神宮本殿 / Usa Jingu Shrine Main Shrine
宇佐神宮本殿は、大分県宇佐市南宇佐に鎮座する全国に約44,000社ある八幡神社の総本社・宇佐神宮(宇佐八幡宮)の本殿で、江戸時代に再建された八幡造(はちまんづくり)の最高峰です。応神天皇を主神とする宇佐神宮は、奈良時代から朝廷の崇敬を受けてきた九州最重要の神社で、「八幡大菩薩」として仏教と神道の習合(神仏習合)を体現した神社でもあります。
本殿は「上宮(じょうぐう)」第一殿・第二殿・第三殿の3棟からなり、前殿と後殿を接続した「八幡造」の形式で建てられています。八幡造は日吉造・春日造と並ぶ神社建築の代表的様式で、宇佐神宮の本殿がその様式の原点とされています。境内は広大な社叢(もり)に囲まれており、「勅使橋(ちょくしばし)」から本殿へと続く参道の雰囲気は神聖な空間を形成しています。年間100万人以上が参拝に訪れる大分県最大の神社です。
| 種別 Type | 国宝・近世以前・神社(八幡造) |
| 時代 Period | 江戸時代(再建) |
| 指定年月日 Designated | 1952年(昭和27年)3月29日 |
| 住所 Address | 大分県宇佐市南宇佐2859 |
| 地図 Map | 地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station | JR日豊本線 宇佐駅から大分交通バス「宇佐八幡」下車徒歩約5分、またはタクシー約5分 |
| URL URL | https://www.usajinguu.com/ |
宮崎県・鹿児島県の国宝(建造物)
宮崎県・鹿児島県には現時点で国宝(建造物)に指定された建物はありません。宮崎県には天孫降臨の地として知られる高千穂神社(重要文化財)・鵜戸神宮(重要文化財)など神話ゆかりの神社が多く、鹿児島県には世界遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産(旧集成館等)・薩摩川内市の新田神社・出水麓の武家屋敷群(重要伝統的建造物群保存地区)などの歴史的建造物が各地に保存されています。
沖縄県の国宝(建造物) / National Treasure of Japanese Buildings in Okinawa
沖縄県の国宝建造物は1件が指定されており、那覇市首里にある琉球王国の王陵・玉陵(たまうどぅん)が2018年に国宝指定を受けました。琉球石灰岩を用いた独自の石造建築として、「琉球王国のグスク及び関連遺産群」(2000年・世界遺産)の構成資産でもあります。
玉陵(たまうどぅん)/ Tamaudun Royal Mausoleum
玉陵(たまうどぅん)は、沖縄県那覇市首里金城町に所在する琉球王国第二尚氏王統の陵墓で、尚真王(しょうしんおう)が弘治14年(1501年)に父・尚円王の遺骨を改葬するために建立した琉球王国の国王・王妃の陵墓です。2018年の国宝指定は、沖縄県初の国宝建造物として大きな話題となりました。
玉陵の陵墓建築は、琉球石灰岩を積み上げた石造りの建物で、中央室・東室・西室の3つの陵室からなります。東室には洗骨後の王・王妃の遺骨が納められ、西室には洗骨前の遺体が収められていました。陵墓の前面には石灰岩積みの石垣と丁寧に加工された石造の枠・欄干が設けられており、琉球独自の石造建築技術の粋を示しています。屋根には琉球建築特有の赤瓦が葺かれており、本土の建築様式・中国の影響・琉球の独自性が融合した独特の建築様式を実現しています。「琉球王国のグスク及び関連遺産群」(2000年・世界遺産)の構成資産として、首里城跡と隣接しており、首里城観光との組み合わせが最適です。
| 種別 Type | 国宝・近世以前・陵墓(石造建築) |
| 時代 Period | 琉球時代 弘治14年(1501年) |
| 指定年月日 Designated | 2018年(平成30年)12月25日 |
| 住所 Address | 沖縄県那覇市首里金城町1丁目3 |
| 地図 Map | 地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station | ゆいレール(沖縄都市モノレール)首里駅から徒歩約15分 |
| URL URL | https://tamaudun.jp/ |
九州・沖縄地方の国宝建造物を巡る旅行ガイド
長崎エリア(大浦天主堂・崇福寺)
大浦天主堂と崇福寺はいずれも長崎市内に位置しており、路面電車(長崎電気軌道)で効率よく回ることができます。大浦天主堂は「グラバー園」に隣接しており、グラバー園・出島・平和公園・浦上天主堂などの長崎の歴史スポットを組み合わせた観光が充実しています。崇福寺周辺の「唐人屋敷跡」エリアも、江戸時代の日中交流の歴史を体感できる見どころです。
大分エリア(富貴寺・宇佐神宮)
大分県の富貴寺大堂と宇佐神宮は車で約30分の距離にあり、1日で両方を巡ることができます。宇佐市を起点に豊後高田市(富貴寺・昭和の町)を加えた国東半島ドライブコースが人気です。富貴寺周辺の「田染荘」の棚田と田園景観は日本の原風景を感じさせる絶景で、秋の彼岸花の時期は特に美しい景観が広がります。大分市の「地獄めぐり」(別府温泉)とも組み合わせると九州東部の温泉観光を充実させることができます。
熊本・人吉(青井阿蘇神社)
青井阿蘇神社のある人吉市は、球磨川下り・人吉城跡(国の史跡)・球磨焼酎蔵元などの観光資源に恵まれています。JR肥薩線(観光列車「いさぶろう・しんぺい」)を利用する旅行も魅力的で、肥薩おれんじ鉄道・熊本方面からのアクセスが可能です。2020年の豪雨からの復興が進む人吉市への旅行は、地域の応援にもなります。
沖縄(玉陵・首里城)
玉陵は那覇市内の首里城公園から徒歩圏内にあり、首里城跡(国の史跡・世界遺産)の観光と組み合わせることができます。2019年の火災で焼失した首里城正殿は現在復元工事中ですが、玉陵をはじめとする周辺の世界遺産構成資産は見学可能です。ゆいレール(モノレール)で那覇空港から約30分とアクセスも便利で、沖縄旅行初日のスタートとしておすすめです。

