北海道の経済産業省指定「伝統的工芸品」一覧・まとめ – 職人の熟練した匠の技によって生み出される珠玉の手仕事 / Traditional Crafts of Hokkaido ~伝統的工芸品が購入できるショップ・取扱店一覧~
一般的に日本で伝統的に日常生活用品として手工業により製造されてきたものが伝統的工芸品とされています。
その中でも特に伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)に基づいて、下記の5つの要件を全て満たし、経済産業大臣により指定されたものを「経済産業大臣指定伝統的工芸品」と呼びます。
- 主として日常生活の用に供されているもの
- 製造過程の主要部分が手工業的であるもの
- 伝統的技術または技法によって製造されるもの
- 伝統的に使用されてきた原材料を使用していること
- 一定の地域で産地形成されていること
今回は職人の熟練した匠の技によって生み出される珠玉の手仕事である「経済産業大臣指定伝統的工芸品」を日本全国・都道府県別に紹介します。
北海道の経済産業省指定「伝統的工芸品」一覧・まとめ – 職人の熟練した匠の技によって生み出される珠玉の手仕事 / Traditional Crafts of Hokkaido ~伝統的工芸品が購入できるショップ・取扱店一覧~
北海道には、経済産業大臣が指定する伝統的工芸品が2品目あります。いずれも北海道沙流郡平取町の二風谷(にぶたに)地区に伝わるアイヌ民族の伝統工芸であり、2013年(平成25年)3月8日に同時指定されました。アイヌ文化に由来する工芸品が経済産業大臣指定の伝統的工芸品となったのはこれが初めてであり、日本の伝統的工芸品の歴史においても極めて重要な出来事です。
二風谷地区は、北海道日高地方の沙流川流域に位置し、古くからアイヌの人々が多く暮らしてきた地域です。この地でアイヌの人々は、豊かな自然の恵みを活かしながら、独自の文化と精神性を反映した優れた工芸品を生み出してきました。木彫りの盆「二風谷イタ」と樹皮織物「二風谷アットゥシ」は、その代表格として現在も伝統的な技法が受け継がれています。
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二風谷イタ / Nibutani Ita[Nibutani Ita]
二風谷イタとは
二風谷イタ(にぶたにいた)は、北海道沙流郡平取町二風谷地区で製作されるアイヌ民族伝統の木彫りの浅い盆(お盆・トレー)です。アイヌ語で「イタ」は「盆」を意味し、日常の食事や儀式の際に食べ物を盛り付ける器として古くから使われてきました。2013年3月8日に経済産業大臣指定の伝統的工芸品に指定され、アイヌ工芸品として初の指定となりました。
歴史と文化的背景
二風谷イタの歴史は、アイヌの人々が北海道の森林資源を活かして日用品を手作りしてきた長い伝統に遡ります。沙流川流域は良質なクルミやカツラなどの広葉樹に恵まれており、木工文化が古くから栄えてきました。イタはアイヌの家庭において日常的に使われる生活道具であると同時に、来客をもてなす際や神事(カムイノミ)の際にも欠かせない儀礼用の道具でもありました。
明治時代以降、アイヌの伝統文化は一時衰退の危機に瀕しましたが、二風谷地区の職人たちがその技術と精神を絶やすことなく守り続けてきました。現在では、伝統を継承しながらも現代の生活に馴染むデザインの作品も生み出されています。
製作技法と特徴
二風谷イタは、主にクルミ、カツラ、ホオノキなどの北海道産の広葉樹を原材料として製作されます。一本の木材から手作業で削り出し、浅い盆の形に成形した後、表面にアイヌ独自の伝統文様を彫刻刀で一つひとつ丁寧に彫り込んでいきます。
文様にはアイヌ文化に根差した深い意味が込められています。代表的な文様には以下のものがあります。
- モレウ(morew):渦巻き文様。水の流れや生命の循環を表現するとされるアイヌ文様の基本形
- アイウシ(aiusi):括弧のような形を連続させた刺突文様。棘を意味し、魔除けの力があるとされる
- シク(sik):目・眼を模した文様。邪悪なものを見張る守護の意味を持つ
- ラムラム(ramram):ウロコ状の文様。連続的に配置され、リズミカルな装飾効果を生み出す
これらの文様を組み合わせ、左右対称に配置することで、盆の表面全体に調和のとれた美しい装飾が施されます。彫り方には「片切り彫り」「薬研彫り」「浮き彫り」などの技法が用いられ、職人の技量によって独自の表情が生まれます。一枚のイタを完成させるまでには高度な技術と多くの時間が必要とされ、まさに匠の技の結晶です。
| 登録年 Designated |
2013年3月8日 |
| 種類 Type |
木工品 |
| 主な原材料 Materials |
クルミ、カツラ、ホオノキなどの北海道産広葉樹 |
| 主な産地 Region |
北海道沙流郡平取町二風谷地区 |
| 関連商品取扱店一覧 Shop |
二風谷イタ 取扱店一覧 |
二風谷アットゥシ / Nibutani Attushi[Nibutani Attushi]
二風谷アットゥシとは
二風谷アットゥシ(にぶたにあっとぅし)は、北海道沙流郡平取町二風谷地区で製作されるアイヌ民族伝統の樹皮衣(じゅひい)です。アイヌ語で「アットゥシ」は「オヒョウニレの樹皮から作った織物」を意味します。オヒョウニレ(オヒョウ)の内皮繊維を原料とし、アイヌ独自の織機を用いて手織りされる織物で、二風谷イタと同じく2013年3月8日に経済産業大臣指定の伝統的工芸品に指定されました。
歴史と文化的背景
アットゥシ織りは、アイヌの人々が古くから衣服の素材として発展させてきた織物技術です。北海道の厳しい自然環境の中で、身近な樹木の皮を利用して丈夫な衣服を作る知恵は、アイヌの生活文化の根幹を成すものでした。
江戸時代には、アットゥシは和人(本州の日本人)との交易品としても重宝されました。その丈夫さと独特の風合いから、漁師の仕事着や防寒着として本州でも需要があり、「蝦夷錦」と並ぶ北方交易の重要品目でした。また、アイヌ社会においてアットゥシの衣服は、日常着としてだけでなく、美しいアイヌ文様の刺繍や切伏せ(アップリケ)を施した晴れ着としても大切にされてきました。
近代以降、生活様式の変化に伴いアットゥシ織りの担い手は減少しましたが、二風谷地区の女性たちを中心に技術の保存と継承の努力が続けられ、現在に至っています。
製作技法と特徴
二風谷アットゥシの製作工程は、原料の採取から織り上がりまで多くの手間と時間を要する精緻な手仕事です。
1. 原料の採取と繊維の準備
初夏の時期に、オヒョウニレの樹皮を採取します。採取した樹皮を沼や川に数日間浸して発酵させ、外皮と内皮を分離させます。内皮を取り出した後、さらに薄く裂いて繊維状にし、一本一本を手で結びつなげて長い糸を作ります。この糸作りの工程だけでも非常に手間がかかり、熟練した技術が求められます。
2. 織り
準備した繊維糸を、アイヌ伝統の地機(じばた)と呼ばれる腰機で織り上げます。織り手は地面に足を伸ばして座り、腰に帯を回して経糸(たていと)に張力をかけながら、緯糸(よこいと)を一本ずつ通して織り進めます。素朴でありながら合理的なこの織機は、アイヌの女性たちが代々受け継いできたものです。
3. 仕上げと装飾
織り上がったアットゥシ地は、そのままの素朴な風合いを活かした製品として仕上げられるほか、伝統的なアイヌ文様の刺繍や切伏せ(布を切り抜いて別の布に縫い付ける技法)で装飾が施されることもあります。背中に大きく文様を配した衣服は、アイヌの美意識と精神性を象徴する芸術作品とも言えます。
完成したアットゥシは、天然の樹皮繊維ならではの素朴で温かみのある風合いが特徴です。通気性と耐久性に優れ、使い込むほどに柔らかさと味わいが増します。現在では、伝統的な衣服だけでなく、帯、タペストリー、バッグ、小物入れなど現代の暮らしに寄り添う多様な製品も作られています。
| 登録年 Designated |
2013年3月8日 |
| 種類 Type |
織物 |
| 主な原材料 Materials |
オヒョウニレ(オヒョウ)の内皮繊維 |
| 主な産地 Region |
北海道沙流郡平取町二風谷地区 |
| 関連商品取扱店一覧 Shop |
二風谷アットゥシ 取扱店一覧 |
北海道の伝統的工芸品を訪ねる
二風谷イタと二風谷アットゥシの産地である平取町二風谷地区には、「二風谷アイヌ文化博物館」(平取町立)があり、アイヌの伝統工芸品や生活用具を間近に見ることができます。実際に職人が工芸品を製作する様子を見学できる工房もあり、アイヌ文化への理解を深める場として多くの人が訪れています。
これらの伝統的工芸品は、アイヌ民族の長い歴史の中で培われた自然観・美意識・技術が凝縮されたものであり、日本の文化的多様性を象徴する貴重な存在です。手に取ることで、北海道の大地に根付くアイヌの人々の暮らしと心に触れることができるでしょう。

