[1929年開催(1927年〜1928年7月映画作品対象)]第1回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
アカデミー賞(オスカー賞)とは
アカデミー賞(Academy Awards)とは、映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences, 略称: AMPAS)が主催する、アメリカ合衆国を代表する映画賞です。アメリカにおける映画の健全な発展を促進し、映画芸術と科学技術の品質向上を図ることを目的として、キャスト(俳優)やスタッフ(監督、脚本家、撮影監督など)といった映画関係者を毎年各部門別に表彰し、その功績を讃えています。
受賞作品や受賞者には賞金は授与されませんが、公式に「Academy Award of Merit」と呼ばれる金色のオスカー像(Oscar statuette)が贈呈されます。このことから、アカデミー賞は一般に「オスカー賞(The Oscars)」とも広く呼ばれています。
アカデミー賞の歴史は、世界三大映画祭として知られるカンヌ国際映画祭(1946年~)、ベルリン国際映画祭(1951年~)、ヴェネツィア国際映画祭(1932年~)のいずれよりも古く、記念すべき第1回の授賞式は1929年5月16日にハリウッドのルーズベルトホテルで開催されました。当時の出席者はわずか約270名、式典の所要時間はおよそ15分という簡素なものでしたが、現在では世界200以上の国と地域に放映される映画界最大規模の国際的イベントへと成長しています。
アカデミー賞へのノミネートおよび受賞結果は、世界中の主要メディアで大きく報道されるため、対象映画の各国における興行成績やストリーミング配信の視聴数に対して多大な影響力を持ちます。ノミネートが発表されただけでも映画の注目度が飛躍的に高まり、受賞が決定すると世界的なヒットにつながることも珍しくありません。
アカデミー賞のノミネート作品および受賞作品は、AMPASの会員であるプロデューサー、監督、脚本家、俳優、映画批評家、技術者など映画業界の各分野の専門家で構成される選考委員の投票により選出されます。その高い選考基準と権威ある評価から、ノミネート・受賞作品は映画ファンのみならず世間全体で話題の中心となるため、映画史を語る上で欠かすことのできない作品群と言えるでしょう。
第1回アカデミー賞の概要と歴史的背景
第1回アカデミー賞は、1929年5月16日にカリフォルニア州ハリウッドのルーズベルトホテルにて開催されました。審査対象となったのは1927年8月1日から1928年7月31日までに公開された映画作品です。当時の映画界はサイレント映画(無声映画)からトーキー映画(発声映画)への転換期にあり、1927年10月公開の『ジャズ・シンガー』がトーキー時代の幕開けを告げましたが、対象作品の多くはまだサイレント映画でした。
第1回では現在とは異なる部門構成が採用されており、作品賞に加えて芸術作品賞が設けられ、監督賞もコメディ監督賞とドラマ監督賞の2部門に分かれていました。また、脚本字幕賞というサイレント映画特有の部門も存在しており、映画技術の過渡期ならではの特徴が見られます。以下では全部門の受賞作品とノミネート作品を一覧で紹介します。
[1929年開催(1927年~1928年7月映画作品対象)]第1回アカデミー賞 全部門 受賞・ノミネート一覧
作品賞 / Best Picture
第1回アカデミー賞の作品賞(Outstanding Picture)は、その年の最も優れた映画作品に贈られる最高賞です。受賞作「つばさ(Wings)」は第一次世界大戦の航空戦を描いた壮大なスペクタクル映画で、パラマウント・ピクチャーズが製作しました。
| 受賞 Winner |
つばさ[Wings] |
| ノミネート Nominees |
第七天国[7th Heaven] |
芸術作品賞 / Best Unique and Artistic Picture
芸術作品賞は第1回のみ設けられた特別な部門で、芸術的・実験的な表現に優れた作品を表彰しました。受賞したF.W.ムルナウ監督の「サンライズ」は、表現主義的な映像美と革新的なカメラワークにより、映画史上最も偉大なサイレント映画のひとつとして現在も高く評価されています。
| 受賞 Winner |
サンライズ[Sunrise: A Song of Two Humans] |
| ノミネート Nominees |
チャング[Chang: A Drama of the Wilderness] |
コメディ監督賞 / Best Director, Comedy Picture
第1回では監督賞がコメディ部門とドラマ部門の2つに分かれていました。コメディ監督賞を受賞したルイス・マイルストンは、後に『西部戦線異状なし(1930年)』でもアカデミー監督賞を獲得する名監督です。
| 受賞 Winner |
美人国二人行脚[Two Arabian Knights] |
| ノミネート Nominees |
ロイドのスピーディー[Speedy] |
ドラマ監督賞 / Best Director, Dramatic Picture
ドラマ監督賞を受賞したフランク・ボーゼイジは、ロマンティックな演出で知られる巨匠で、「第七天国」での繊細な人間ドラマの描写が高く評価されました。なお、監督賞のコメディ・ドラマの区分は第1回のみで、第2回以降は監督賞として統一されています。
| 受賞 Winner |
第七天国[7th Heaven] |
| ノミネート Nominees |
群衆[The Crowd] |
主演男優賞 / Best Actor
第1回の主演男優賞はドイツ出身の名優エミール・ヤニングスが受賞しました。ヤニングスは「最後の命令」と「肉体の道」の2作品での演技が総合的に評価されており、第1回では1人の俳優が複数作品の演技をまとめて評価される方式が採用されていました。
| 受賞 Winner |
最後の命令[The Last Command] |
| ノミネート Nominees |
獄中日記[The Noose] |
主演女優賞 / Best Actress
第1回の主演女優賞はジャネット・ゲイナーが受賞しました。ゲイナーは「第七天国」「街の天使」「サンライズ」の3作品の演技が総合的に評価され、史上初のアカデミー主演女優賞受賞者となりました。当時22歳での受賞は最年少記録です。
| 受賞 Winner |
第七天国[7th Heaven] |
| ノミネート Nominees |
老番人[A Ship Comes In] |
脚色賞 / Best Writing, Adaptation
脚色賞は、既存の文学作品や戯曲を映画用に脚色した脚本に贈られる賞です。受賞したベンジャミン・グレイザーは、オースティン・ストロングの戯曲を原作とした「第七天国」の脚色で評価されました。
| 受賞 Winner |
第七天国[7th Heaven] |
| ノミネート Nominees |
祖国の叫び[Glorious Betsy] |
原案賞 / Best Writing, Original Story
原案賞は、映画のために書かれたオリジナルストーリーに贈られる賞です。受賞したベン・ヘクトは「暗黒街」で禁酒法時代のシカゴのギャング社会を描いた独創的なストーリーが評価されました。ヘクトはその後もハリウッドを代表する脚本家として数多くの名作を手がけています。
| 受賞 Winner |
暗黒街[Underworld] |
| ノミネート Nominees |
最後の命令[The Last Command] |
美術賞 / Best Art Direction
美術賞は映画のセットデザインや美術装飾の優秀さを表彰する部門です。受賞したウィリアム・キャメロン・メンジースは、「赤い鳩」と「テンペスト」の2作品における壮大で精緻な美術設計が評価されました。メンジースは後に「風と共に去りぬ(1939年)」の美術でも知られるハリウッド映画美術の先駆者です。
| 受賞 Winner |
赤い鳩[The Dove] |
| ノミネート Nominees |
第七天国[7th Heaven] |
撮影賞 / Best Cinematography
撮影賞は映画の撮影技術と映像表現の卓越性を評価する部門です。受賞した「サンライズ」では、チャールズ・ロッシャーとカール・ストラスが移動撮影や多重露光といった革新的な撮影技法を駆使し、高い芸術性を持つ映像を実現しました。
| 受賞 Winner |
サンライズ[Sunrise: A Song of Two Humans] |
| ノミネート Nominees |
悪魔の踊子[The Devil Dancer] |
技術効果賞 / Best Engineering Effects
技術効果賞は映画における技術的な特殊効果の優秀さを表彰する部門で、第1回のみ設けられた特別な賞です。受賞した「つばさ」は、第一次世界大戦の空中戦シーンにおいて実際の飛行機を使用した迫力ある映像技術が高く評価されました。
| 受賞 Winner |
つばさ[Wings] |
| ノミネート Nominees |
(対象作品無し[(No specific film)]) ⇒ ラルフ・ハメラス[Ralph Hammeras] |
脚本字幕賞 / Best Title Writing
脚本字幕賞は、サイレント映画において台詞や説明を画面上に表示する「字幕カード(title card)」の執筆に贈られた賞です。サイレント映画では音声がないため、この字幕カードが物語の進行や感情表現において極めて重要な役割を果たしていました。トーキー映画の普及に伴い、この部門は第1回のみで廃止されています。
| 受賞 Winner |
(対象作品無し[(No specific film)]) ⇒ ジョセフ・ファーナム[Joseph W. Farnham] |
| ノミネート Nominees |
(対象作品無し[(No specific film)]) ⇒ ジョージ・マリオン・Jr[George Marion Jr.] |
第1回アカデミー賞のまとめ
第1回アカデミー賞(1929年開催)は、作品賞、芸術作品賞、コメディ監督賞、ドラマ監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚色賞、原案賞、美術賞、撮影賞、技術効果賞、脚本字幕賞の全12部門で構成されていました。中でも「第七天国」はドラマ監督賞、主演女優賞、脚色賞の3部門で受賞する最多受賞作品となり、「サンライズ」は芸術作品賞と撮影賞を獲得しました。
サイレント映画からトーキー映画への過渡期に行われた第1回は、芸術作品賞、コメディ/ドラマ別の監督賞、技術効果賞、脚本字幕賞といった初回限りの独自部門が設けられており、映画技術と芸術表現が劇的に変化する時代を反映した、歴史的に貴重な授賞式として記録されています。

