中華人民共和国・チベット自治区の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Tibet China ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~

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親記事:世界各国の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in the World ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~

世界遺産とはユネスコ総会で採択された世界遺産条約「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づいて登録された遺跡、景観、自然などの人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持ち、移動が不可能な物件を指します。世界遺産の登録の本来の目的は、自然や文化的に価値のあるものを保護・保全し、過去から未来へと伝えていくことにあります。

中華人民共和国・チベット自治区は、平均標高4,000メートルを超える「世界の屋根」と称される青蔵高原(チベット高原)に位置し、独自の仏教文化と壮大な自然景観を有する地域です。7世紀にソンツェン・ガンポ王がチベットを統一して以来、チベット仏教を中心とした独自の文明が発展し、ポタラ宮をはじめとする壮麗な宗教建築が建設されました。また、チベット高原の北東部に広がる青海可可西里(ココシリ)は、チベットカモシカ(チルー)やチベットノロバなど希少な野生動物の宝庫であり、手つかずの高原生態系が残されています。

現在、チベット自治区および青海省にまたがる地域には、文化遺産と自然遺産がそれぞれ1件ずつ、合計2件の世界遺産が登録されています。チベット仏教の精神的・政治的中心であったラサのポタラ宮歴史的遺跡群と、世界最大級の高原野生動物保護区である青海可可西里です。いずれも、人類の文化的営みと地球の自然遺産を象徴するかけがえのない遺産です。

一方で、世界遺産に登録されることで知名度が上がり、観光名所としてのブランド力を持つことも近年では期待されています。チベット自治区の世界遺産は、その高い標高や厳しいアクセス条件にもかかわらず、世界中から多くの観光客や巡礼者を惹きつけています。

本記事では、中華人民共和国・チベット自治区(および隣接する青海省)に所在する世界遺産を、登録基準や歴史的背景、見どころとともに詳しく紹介します。

まず、世界遺産が登録される基準を下記に記載します。

  • (1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
  • (2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
  • (3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
  • (4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
  • (5) ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。
  • (6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの(この基準は他の基準と組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている)。
  • (7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
  • (8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。
  • (9) 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
  • (10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。

(1)~(6)を満たすものが文化遺産、(7)~(10)を満たすものが自然遺産、文化遺産と自然遺産の条件をそれぞれ1つ以上を満たすものが複合遺産としての登録基準となります。

以下で紹介する世界遺産の「登録基準」項目の記載番号は上記の世界遺産登録基準の番号に対応しています。

中華人民共和国・チベット自治区の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Tibet China ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~


観光に便利な宿泊施設:
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ラサのポタラ宮の歴史的遺跡群 / Lhasa No Potala Kyuh No Rekishi Teki Iseki Gun[Historic Ensemble of the Potala Palace, Lhasa]

ポタラ宮は、チベットの首都ラサの中心部にそびえるマルポリ(紅山)の上に築かれた宮殿で、チベット仏教と歴代ダライ・ラマの政治的・宗教的権威の象徴です。7世紀にチベット王国の初代統一王ソンツェン・ガンポが最初の宮殿を築いたのが始まりとされ、現在の壮大な建築群は主に17世紀のダライ・ラマ5世の時代に再建されました。

宮殿は「白宮(ポタン・カルポ)」と「紅宮(ポタン・マルポ)」の2つの主要部分で構成されています。白宮はダライ・ラマの居住空間および政治的執務の場として機能し、紅宮は宗教的儀式や歴代ダライ・ラマの霊塔を安置する聖域です。建物は13階建て、高さ約117メートルに及び、1,000以上の部屋、10,000以上の祠堂、約200,000体の仏像を擁する世界屈指の宗教建築物です。

2000年にはポタラ宮の麓に位置するトゥルナン寺(ジョカン寺)が拡張登録されました。トゥルナン寺は7世紀にソンツェン・ガンポ王によって建立され、釈迦牟尼12歳等身像(ジョウォ・リンポチェ)を安置するチベット仏教最大の聖地です。さらに2001年にはノルブリンカ(宝石の園)も追加登録されました。ノルブリンカは18世紀にダライ・ラマ7世によって造営された夏の離宮で、チベット最大の人工庭園として知られ、374の部屋を持つ宮殿群と美しい庭園が広がります。

この遺産が登録基準(1)に該当するのは、ポタラ宮がチベット仏教建築の最高傑作であり、人類の創造的才能を示す類まれな建築物であるためです。基準(4)は、チベットの宗教的・政治的歴史における重要な時代を物語る建築様式の卓越した実例であることに基づきます。基準(6)は、ダライ・ラマ制度とチベット仏教という現存する精神的伝統と直接的に結びつく普遍的な意義を持つためです。

登録区分
Type
文化遺産
登録年
Designated
1994年(拡張年:2000年、2001年)
登録基準
Criteria
(1)、(4)、(6)
住所
Address
35 Beijing Middle Rd, Chengguan Qu, Lasa Shi, Xizang Zizhiqu, China, 850000
地図
Map
地図(Map)
アクセス・最寄り駅
Access, Nearest station
北京首都国際空港より中国国内線(約7時間)「ラサ・クンガ空港」到着後、自動車(約1時間20分)
URL
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ポタラ宮の見どころ

ポタラ宮を訪れる際の主な見どころとして、以下のスポットが挙げられます。

  • ダライ・ラマ5世の霊塔:紅宮の中心に安置された高さ約14.85メートルの霊塔で、3,721キログラムの金と15,000個以上の宝石で装飾された壮麗な造形です。
  • 東大殿(ツォムチェン・シャル):ポタラ宮最大のホールで、ダライ・ラマの即位式や重要な宗教儀式が行われた歴史的な空間です。
  • 壁画と仏画(タンカ):宮殿内の回廊や部屋を彩る数千点の壁画は、チベット仏教の教義や歴史を視覚的に伝える芸術作品として高く評価されています。
  • トゥルナン寺(ジョカン寺)の巡礼路:バルコル(八角街)と呼ばれる巡礼路は、五体投地で参拝する巡礼者の姿が見られるチベット文化の象徴的な場所です。
  • ノルブリンカ庭園:四季折々の花が咲き誇る庭園と歴代ダライ・ラマの夏の離宮は、宗教的な荘厳さとは異なるチベット文化の優美な一面を見せてくれます。

なお、ポタラ宮は標高約3,700メートルに位置するため、訪問時には高山病対策が重要です。ラサ到着後は十分な休息を取り、体を高地に順応させてから観光を開始することが推奨されます。

青海可可西里 / Seikai Fufushiru[Qinghai Hoh Xil]

青海可可西里(ココシリ)は、青海省の南西部、チベット高原の北東端に広がる中国最大の無人地帯であり、面積約37,000平方キロメートルにおよぶ広大な高原自然保護区です。「可可西里」はモンゴル語で「美しい少女」を意味し、その名にふさわしい荘厳な高原景観が広がっています。平均標高は4,500メートル以上に達し、年間平均気温はマイナス4度前後という極寒の環境にあります。

この地域は、世界でも極めて貴重な高原生態系を有しています。最も象徴的な野生動物は、絶滅危惧種に指定されているチベットカモシカ(チルー)です。毎年夏になると、数万頭のチベットカモシカがココシリの卓乃湖(ジュオナイ湖)周辺へと大移動し出産を行う光景は、アフリカのヌーの大移動にも匹敵する自然界の壮大なスペクタクルです。かつて高級繊維「シャトゥーシュ」の原料として密猟が横行し個体数が激減しましたが、1990年代以降の厳格な保護活動により、現在は個体数が回復傾向にあります。

チベットカモシカのほかにも、チベットノロバ(キャン)、野生のヤク、チベットガゼル、ユキヒョウ、オオカミなど20種以上の哺乳類が生息しています。また、230種を超える野生植物が確認されており、高山草原や高山荒漠といった多様な植生帯が、標高に応じて帯状に分布しています。

この遺産が登録基準(7)に該当するのは、広大な高原と氷河湖が織りなす景観が「ひときわすぐれた自然美」を有するためです。基準(10)は、ココシリが高原生態系における生物多様性の保全にとって極めて重要な生息地であり、チベットカモシカをはじめとする絶滅危惧種の存続に不可欠な地域であることに基づきます。

登録区分
Type
自然遺産
登録年
Designated
2017年
登録基準
Criteria
(7)、(10)
住所
Address
Zhidoi,Yushu, Qinghai. China
地図
Map
地図(Map)
アクセス・最寄り駅
Access, Nearest station
北京首都国際空港より中国国内線(約3時間)「西寧曹家堡空港」到着後、自動車(約17時間)
URL
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青海可可西里の見どころと注意点

青海可可西里を訪れる際に知っておくべきポイントを以下にまとめます。

  • チベットカモシカの大移動:毎年6月から7月にかけて、出産のために北上する数万頭のチベットカモシカの大移動を観察できる可能性があります。ただし、保護区域内の立ち入りは厳しく制限されています。
  • 崑崙山脈の氷河と雪山:ココシリの北側に連なる崑崙山脈には、玉珠峰(標高6,178メートル)などの雪山がそびえ、壮大な氷河景観を望むことができます。
  • 高原湖沼群:卓乃湖、可可西里湖、太陽湖など、標高4,500メートル以上に点在する湖沼群は、透明度の高い水面に空と山を映し出す絶景スポットです。
  • 青蔵鉄道からの車窓風景:西寧からラサへ向かう青蔵鉄道(チベット鉄道)は、ココシリ保護区の一部を通過します。車窓から高原の大自然や野生動物を眺めることができ、アクセスが困難なココシリの景観を体験する現実的な手段の一つです。

ココシリは環境保護の観点から一般観光客の自由な立ち入りが制限されている地域です。訪問を計画する場合は、事前に許可証の取得や現地ガイドの手配が必要となります。また、標高4,500メートル以上の極端な高地であるため、十分な高地順応と防寒対策が不可欠です。

まとめ

中華人民共和国・チベット自治区および青海省に所在する2件の世界遺産は、いずれもチベット高原という特異な地理的環境に育まれた、世界的に見ても唯一無二の遺産です。

ラサのポタラ宮歴史的遺跡群は、チベット仏教文明が生み出した建築・芸術・精神文化の結晶であり、1,300年以上にわたる信仰と政治の歴史を今日に伝えています。一方、青海可可西里は、人間の手がほとんど加えられていない原始的な高原生態系を保全する自然遺産であり、チベットカモシカをはじめとする希少な動植物の生命線となっています。

この2つの世界遺産は、チベット高原が持つ文化的な深みと自然の豊かさの両面を象徴しています。訪問にあたっては、高山病対策や入域許可などの準備が必要ですが、その分だけ、他では決して体験できない特別な感動が待っています。チベットの世界遺産を通じて、人類の文化遺産と地球の自然遺産の価値について、改めて考えるきっかけとなれば幸いです。