中華人民共和国・甘粛省の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Gansu China ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~

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親記事:世界各国の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in the World ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~

甘粛省とは ~シルクロードの要衝として栄えた歴史の省~

甘粛省(かんしゅくしょう)は中華人民共和国の北西部に位置し、東西約1,600kmにわたって細長く伸びる独特の地形を持つ省です。省都は蘭州市で、人口は約2,500万人を擁します。北は内モンゴル自治区、南は四川省、西はチベット自治区と新疆ウイグル自治区に接し、東は陝西省と寧夏回族自治区に隣接しています。

甘粛省はかつてシルクロード(絹の道)の重要な通過地点として、東西文明の交流を支えた歴史的に極めて重要な地域です。河西回廊(かせいかいろう)と呼ばれる狭い回廊地帯は、中原(中国内陸部)と西域(中央アジア)を結ぶ唯一の陸路として、古代から交易品・文化・宗教が行き交う東西文明の架け橋となりました。

こうした歴史的背景から、甘粛省には仏教美術の至宝である莫高窟をはじめ、万里の長城の西端に位置する嘉峪関、さらにはシルクロード交易路の遺跡群など、世界的に価値の高い文化遺産が集中しています。甘粛省に登録されている世界遺産はすべて文化遺産であり、東西文明の交流と融合を物語る人類共通の宝です。

世界遺産とは ~ユネスコが守る人類共通の宝~

世界遺産とはユネスコ(国際連合教育科学文化機関)総会で採択された世界遺産条約「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づいて登録された遺跡、景観、自然などの人類が共有すべき「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value)」を持ち、移動が不可能な物件を指します。

世界遺産の登録の本来の目的は、自然や文化的に価値のあるものを保護・保全し、過去から現在、そして未来へと確実に伝えていくことです。世界遺産条約は1972年のユネスコ総会で採択され、2024年時点で世界168か国に1,199件の世界遺産が登録されています。

一方で、世界遺産に登録されることで国際的な知名度が向上し、観光名所としてのブランド力を持つことも近年では大きく期待されています。甘粛省の世界遺産も、歴史的・文化的な保護と観光振興の両面から世界中の旅行者や研究者の注目を集めています。

今回は、シルクロードの歴史と仏教文化が息づく中華人民共和国・甘粛省の世界遺産3件をすべて紹介します。

世界遺産の登録基準

世界遺産が登録されるためには、以下の10項目の基準のうち1つ以上を満たす必要があります。

  • (1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
  • (2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
  • (3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
  • (4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
  • (5) ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。
  • (6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの(この基準は他の基準と組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている)。
  • (7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
  • (8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。
  • (9) 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
  • (10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。

(1)~(6)を満たすものが文化遺産、(7)~(10)を満たすものが自然遺産、文化遺産と自然遺産の条件をそれぞれ1つ以上を満たすものが複合遺産としての登録基準となります。

以下で紹介する世界遺産の「登録基準」項目の記載番号は上記の世界遺産登録基準の番号に対応しています。

中華人民共和国・甘粛省の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Gansu China ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~

甘粛省には3件の世界遺産が登録されており、すべて文化遺産です。万里の長城(嘉峪関)、莫高窟、シルクロード:長安-天山回廊の交易路網の3件は、いずれも東西文明の交流を象徴する遺産であり、甘粛省が歴史上果たした重要な役割を物語っています。


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万里の長城 / Banri No Choujou[The Great Wall]

万里の長城は、中国の歴史上最も壮大な建造物であり、紀元前7世紀から明代(17世紀)にかけて約2,000年にわたり建設・拡張が続けられた軍事防衛施設です。その総延長は約21,196kmに及び、人類史上最大の建造物として知られています。1987年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。

甘粛省における万里の長城のハイライトは、「天下第一の雄関」と称される嘉峪関(かよくかん)です。嘉峪関は万里の長城の最西端に位置する関所で、1372年(明の洪武5年)に建設されました。祁連山脈と黒山の間の狭い谷間に築かれたこの要塞は、河西回廊の西端を守る戦略的要衝として、シルクロードを通る商人や旅人の出入りを管理する重要な役割を果たしました。

嘉峪関の城壁は高さ約10.7m、周囲約733mの堅牢な構造を持ち、内城・外城・瓮城(おうじょう)の三重構造で構成されています。城門の上に建つ三層の楼閣からは、雪を頂いた祁連山脈と広大なゴビ砂漠を一望でき、シルクロードの壮大な景観を体感できます。

登録区分
Type
文化遺産
登録年
Designated
1987年
登録基準
Criteria
(1)、(2)、(3)、(4)、(6)
住所
Address
嘉峪関:Jiayuguan, Gansu, China
地図
Map
地図(Map)
アクセス・最寄り駅
Access, Nearest station
嘉峪関:蘭州中川空港より自動車(約8時間)
URL
URL

莫高窟 / Bakkoukutsu[Mogao Caves]

莫高窟(ばっこうくつ)は、甘粛省敦煌市の南東約25kmに位置する世界最大規模の仏教石窟寺院群です。別名「敦煌石窟」「千仏洞」とも呼ばれ、鳴沙山の東側の断崖に南北約1,600mにわたって735の石窟が掘られています。1987年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。

莫高窟の歴史は366年(前秦時代)に遡ります。僧侶・楽僔(らくそん)が三危山に仏の光を見て最初の石窟を掘ったのが始まりとされ、その後、北魏・隋・唐・宋・元の各時代を通じて約1,000年にわたり石窟の造営が続けられました。現存する492の石窟には、約45,000平方メートルの壁画約2,400体の彩色塑像が残されており、その規模と芸術性において世界に類を見ない仏教美術の宝庫です。

壁画の内容は仏教説話・経変図(経典の内容を絵画化したもの)・供養人像・装飾文様など多岐にわたり、各時代の仏教美術の変遷を一堂に見ることができます。特に唐代に制作された壁画は色彩の豊かさと人物表現の写実性において最高傑作とされています。

また、1900年に発見された「蔵経洞(ぞうきょうどう)」からは、5世紀から11世紀にかけての仏教経典・古文書・絵画など約5万点の文献が出土し、敦煌学という新たな学問分野が確立されるきっかけとなりました。これらの文献は、シルクロード沿いの多文化交流の実態を示す極めて貴重な歴史資料です。

登録区分
Type
文化遺産
登録年
Designated
1987年
登録基準
Criteria
(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)
住所
Address
Dunhuang, Jiuquan, Gansu, China
地図
Map
地図(Map)
アクセス・最寄り駅
Access, Nearest station
蘭州中川空港より自動車(約11時間30分)
URL
URL
https://www.mogaoku.net/

シルクロード:長安-天山回廊の交易路網 / Silk Road: Chang’an-Tenzan Kairou No Kouekiro Mou[Silk Roads: the Routes Network of Chang’an-Tianshan Corridor]

シルクロード:長安-天山回廊の交易路網は、中国・カザフスタン・キルギスの3か国にまたがるトランスバウンダリー(国境を越えた)世界遺産として、2014年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。総延長約5,000kmに及ぶこの交易路は、漢の都・長安(現在の西安)から中央アジアの天山山脈を越えるルートを中心に、33の構成資産で構成されています。

甘粛省では、シルクロードの中で特に重要な役割を果たした玉門関(ぎょくもんかん)遺跡懸泉置(けんせんち)遺跡などが構成資産に含まれています。玉門関は漢代に設置された西域への関門で、古代中国と西方世界を結ぶ交易の要所でした。唐代の詩人・王之渙の「涼州詞」に「春風度せず玉門関」と詠まれるなど、中国文学においても辺境の象徴として知られています。

懸泉置遺跡は、漢代のシルクロード上に設けられた駅站(えきたん)の遺構で、1990年の発掘調査で約35,000枚の漢代の木簡が出土しました。これらの木簡には、使者や商人の往来記録、物資の輸送記録などが記されており、シルクロードの交易活動を具体的に示す第一級の考古学資料として高く評価されています。

このトランスバウンダリー遺産の登録は、シルクロードが単なる交易路ではなく、技術・宗教・芸術・言語など多様な文化要素が伝播し融合した「文明の回廊」であったことを世界に示すものです。甘粛省の河西回廊はその中核を成す区間であり、東西文明交流の歴史を今に伝えています。

登録区分
Type
文化遺産
登録年
Designated
2014年
登録基準
Criteria
(2)、(3)、(5)、(6)
住所
Address
玉門関遺跡:Dunhuang, Jiuquan, Gansu, China
地図
Map
地図(Map)
アクセス・最寄り駅
Access, Nearest station
蘭州中川空港より自動車(約14時間00分)
URL
URL

甘粛省の世界遺産を訪れる際のポイント

甘粛省の世界遺産はいずれも中国内陸部の乾燥地帯に位置しており、訪問の際にはいくつかのポイントを押さえておくと旅がより充実します。

  • ベストシーズン:春(4月~5月)と秋(9月~10月)が最適です。夏は日中の気温が40度を超えることがあり、冬は氷点下まで冷え込みます。
  • アクセスの拠点:敦煌市が莫高窟とシルクロード関連遺跡の拠点となります。敦煌莫高国際空港から市内へのアクセスも整備されています。嘉峪関へは嘉峪関空港の利用が便利です。
  • 観光の所要日数:甘粛省の世界遺産3件をすべて巡るには、最低でも3~4日の日程を確保することをおすすめします。各遺産間の距離が長いため、移動時間を十分に考慮した計画が必要です。
  • 莫高窟の入場制限:莫高窟は文化財保護の観点から1日の入場者数に制限があるため、事前予約が必須です。