[1983年開催(1982年映画作品対象)]第55回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
アカデミー賞(Academy Awards)とは、映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences、略称AMPAS)が主催する、アメリカ合衆国で最も権威ある映画賞です。アメリカにおける映画の健全な発展と、映画芸術・科学の品質向上を目的に、俳優・監督・脚本家・プロデューサー・技術スタッフなどの映画関係者を毎年部門別に表彰し、その功績を讃えています。
受賞者には賞金は授与されませんが、公式名称「Academy Award of Merit」と呼ばれる金色のオスカー像(Oscar statuette)が贈られるため、一般的には「オスカー賞(The Oscars)」の愛称でも広く知られています。オスカー像は高さ約34cm、重さ約3.9kgの金メッキのブリタニア合金製で、映画人にとって最高の栄誉の象徴です。
アカデミー賞の歴史は、世界三大映画祭(カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭)よりも古く、第1回の授賞式は1929年5月16日にハリウッドのルーズベルト・ホテルで開催されました。以来90年以上にわたり、映画界で最も注目される年間行事として世界中の映画ファンに親しまれています。
アカデミー賞のノミネートおよび受賞結果は世界各国で大きく報道されるため、対象作品の興行収入や配信視聴数に多大な影響を与えます。ノミネート発表後に映画館への来場者数が急増するケースも多く、映画産業全体にとって極めて重要な賞となっています。
アカデミー賞のノミネート作品・受賞作品は、映画界で著名なプロデューサー、監督、脚本家、俳優、批評家などで構成される約1万人以上の選考委員(AMPAS会員)による投票で選出されます。その厳格な審査と高い評価基準から、ノミネートされた作品は映画史に残る名作として語り継がれることが多く、映画ファンならば一度は鑑賞しておきたい作品ばかりです。
本記事では、1983年4月11日にロサンゼルスのドロシー・チャンドラー・パビリオンで開催された第55回アカデミー賞(1982年公開の映画作品が対象)の全受賞作品およびノミネート作品を、部門別に詳しく紹介します。
第55回アカデミー賞(1983年)の概要と見どころ
第55回アカデミー賞の授賞式は、1983年4月11日にロサンゼルスのドロシー・チャンドラー・パビリオン(Dorothy Chandler Pavilion)で開催されました。司会はウォルター・マッソー(Walter Matthau)、ライザ・ミネリ(Liza Minnelli)、ダドリー・ムーア(Dudley Moore)、リチャード・プライヤー(Richard Pryor)の4名が務めました。
この年の最大の話題は、リチャード・アッテンボロー(Richard Attenborough)監督の大作『ガンジー(Gandhi)』が、作品賞・監督賞・主演男優賞・脚本賞・撮影賞・美術賞・衣裳デザイン賞・編集賞の8部門を制覇したことです。マハトマ・ガンジーの生涯を壮大に描いたこの伝記映画は、アッテンボロー監督が20年以上の歳月をかけて実現させた渾身のプロジェクトでした。
主演男優賞を受賞したベン・キングズレー(Ben Kingsley)は、インド系イギリス人俳優としてガンジー役を圧倒的な存在感で演じきり、その年のアカデミー賞における最も印象的な受賞者のひとりとなりました。
一方、スティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)監督の『E.T.(E.T. the Extra-Terrestrial)』は、音響編集賞・録音賞・視覚効果賞・作曲賞の4部門で受賞し、技術面で高い評価を得ました。同作は1982年の世界興行収入第1位を記録した大ヒット作品でしたが、作品賞では『ガンジー』に敗れる結果となりました。
主演女優賞では、メリル・ストリープ(Meryl Streep)が『ソフィーの選択(Sophie's Choice)』でポーランド移民の女性を演じ、2度目のオスカー受賞を果たしました。ストリープは英語・ポーランド語・ドイツ語を使い分ける圧巻の演技で、映画史に残る名演技として現在も高く評価されています。
また、助演女優賞のジェシカ・ラング(Jessica Lange)は、『トッツィー(Tootsie)』で助演女優賞を受賞すると同時に、『女優フランシス(Frances)』で主演女優賞にもノミネートされるという、同年2作品でのダブルノミネートを達成しました。
歌曲賞では、「Up Where We Belong」(映画『愛と青春の旅だち(An Officer and a Gentleman)』より)が受賞し、映画音楽の名曲として大きなヒットを記録しました。
[1983年開催(1982年映画作品対象)]第55回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
作品賞 / Sakuhin Shou[Best Picture]
作品賞(Best Picture)は、その年に公開された映画の中で最も優れた作品に贈られるアカデミー賞の最高賞です。第55回では、インド独立の父マハトマ・ガンジーの生涯を描いた壮大な伝記映画『ガンジー』が、興行的にも大成功を収めた『E.T.』を抑えて受賞しました。
| 受賞 Winner |
ガンジー[Gandhi] |
| ノミネート Nominees |
E.T.[E.T. the Extra-Terrestrial] |
監督賞 / Kantoku Shou[Best Director]
監督賞(Best Director)は、最も優れた演出を行った映画監督に贈られる部門です。リチャード・アッテンボローは『ガンジー』の壮大なスケールの演出が高く評価され、スピルバーグやポラックら強力なライバルを退けて栄冠を手にしました。
| 受賞 Winner |
ガンジー[Gandhi] |
| ノミネート Nominees |
U・ボート[Das Boot] |
主演男優賞 / Shuen Danyuh Shou[Best Actor]
主演男優賞(Best Actor)は、映画で最も優れた主演演技を披露した男優に贈られます。ベン・キングズレーは映画初主演ながら、マハトマ・ガンジーの穏やかさと内に秘めた強い意志を繊細に表現し、ダスティン・ホフマンやポール・ニューマンといった大物俳優を抑えて初受賞を果たしました。
| 受賞 Winner |
ガンジー[Gandhi] |
| ノミネート Nominees |
トッツィー[Tootsie] |
主演女優賞 / Shuen Danyuh Shou[Best Actress]
主演女優賞(Best Actress)は、最も優れた主演演技を披露した女優に贈られます。メリル・ストリープは『ソフィーの選択』で、ナチス強制収容所の壮絶な体験を持つポーランド移民女性ソフィーを演じ、複数言語を巧みに操る圧倒的な演技力で批評家からも絶賛されました。
| 受賞 Winner |
ソフィーの選択[Sophie’s Choice] |
| ノミネート Nominees |
ビクター/ビクトリア[Victor/Victoria] |
助演男優賞 / Joen Danyuh Shou[Best Supporting Actor]
助演男優賞(Best Supporting Actor)は、助演として傑出した演技を見せた男優に贈られます。ルイス・ゴセット・ジュニアは『愛と青春の旅だち』で厳格な軍曹フォーリー役を力強く演じ、アフリカ系アメリカ人男優として史上初のアカデミー助演男優賞受賞者となりました。
| 受賞 Winner |
愛と青春の旅だち[An Officer and a Gentleman] |
| ノミネート Nominees |
テキサス1の赤いバラ[The Best Little Whorehouse in Texas] |
助演女優賞 / Joen Joyuh Shou[Best Supporting Actress]
助演女優賞(Best Supporting Actress)は、助演として最も優れた演技を見せた女優に贈られます。ジェシカ・ラングは『トッツィー』でダスティン・ホフマン演じる女装俳優と恋に落ちるヒロインを好演し受賞。同年、『女優フランシス』で主演女優賞にもノミネートされた実力派です。
| 受賞 Winner |
トッツィー[Tootsie] |
| ノミネート Nominees |
ガープの世界[The World According to Garp] |
脚本賞 / Kyakuhon Shou[Best Screenplay Written Directly for the Screen]
脚本賞(Best Screenplay Written Directly for the Screen)は、原作を持たない完全オリジナルの脚本に贈られる部門です。第55回では、ジョン・ブライリー(John Briley)がマハトマ・ガンジーの壮大な生涯を映画的に昇華させた『ガンジー』の脚本で受賞しました。非暴力と対話による独立運動という普遍的テーマを、スクリーン向けに力強く描き切ったブライリーの功績は大きく、作品の圧倒的なリアリティを支えた要因のひとつです。バリー・レヴィンソンが手がけた青春群像劇『ダイナー』やメリッサ・マシスンによる『E.T.』のファンタジー脚本など、個性豊かな作品が競い合いました。
| 受賞 Winner |
ガンジー[Gandhi] |
| ノミネート Nominees |
ダイナー[Diner] |
脚色賞 / Kyakushoku Shou[Best Screenplay Based on Material Previously Produced or Published]
脚色賞(Best Screenplay Based on Material Previously Produced or Published)は、既存の小説・戯曲・ノンフィクション・記事などを原作として映画化した脚本に贈られる部門です。第55回は、1973年のチリ軍事クーデターで行方不明になったアメリカ人青年の真相をノンフィクション原作から映画化した、コスタ=ガヴラス(Costa-Gavras)とドナルド・E・スチュワート(Donald E. Stewart)による『ミッシング』の脚本が受賞しました。アラン・J・パクラによる文学的深みのある『ソフィーの選択』の脚色や、デヴィッド・マメットが鋭利な台詞で描いた法廷ドラマ『評決』の脚本など、骨太な作品が競いました。
| 受賞 Winner |
ミッシング[Missing] |
| ノミネート Nominees |
U・ボート[Das Boot] |
外国語映画賞 / Gaikokugo Eiga Shou[Best Foreign Language Film]
外国語映画賞(Best Foreign Language Film)は、英語以外の言語で製作された非アメリカ映画の中で最も優れた作品に贈られる部門です。第55回は、スペインが出品したホセ・ルイス・ガルシ(José Luis Garci)監督のドラマ映画『Begin the Beguine(ヴォルベール・ア・エンペサール)』が受賞しました。スペイン映画として初のアカデミー外国語映画賞受賞という歴史的快挙でもあります。ノミネート作品には、ニカラグア内戦を舞台に少年の視点で描いた『アルシノとコンドル』や、ソビエト連邦が出品した社会派ドラマ『解任』など、各国の社会問題を題材にした意欲作が揃いました。
| 受賞 Winner |
Begin the Beguine |
| ノミネート Nominees |
アルシノとコンドル[Alsino and the Condor] |
長編ドキュメンタリー映画賞 / Chouhen Documentary Eiga Shou[Best Documentary Feature]
長編ドキュメンタリー映画賞(Best Documentary Feature)は、最も優れたドキュメンタリー長編映画に贈られる部門です。第55回は、カナダの少年失踪事件をめぐる家族の執念の捜索と真相究明を丹念に追ったジョン・ザリツキー(John Zaritsky)監督の『Just Another Missing Kid』が受賞しました。一家族の実話を通じて、失踪事件という社会問題とその当事者たちの苦悩を真摯に描いたドキュメンタリーとして高く評価されています。
| 受賞 Winner |
Just Another Missing Kid |
| ノミネート Nominees |
After the Axe |
短編ドキュメンタリー映画賞 / Tanpen Documentary Eiga Shou[Best Documentary Short Subject]
短編ドキュメンタリー映画賞(Best Documentary Short Subject)は、最も優れたドキュメンタリー短編映画に贈られる部門です。第55回は、核兵器と平和をテーマに医師ヘレン・カルディコット博士の講演を中心に構成された、カナダ国立映画制作庁(NFB)製作の『If You Love This Planet』が受賞しました。テリー・ナッシュ(Terri Nash)監督によるこの反核ドキュメンタリーは、当時のアメリカ政府から「外国プロパガンダ」と見なされ上映前に注意書きが義務付けられるなど、大きな社会的議論を呼んだ問題作でもあります。核廃絶をめぐる普遍的なメッセージは今なお色褪せていません。
| 受賞 Winner |
If You Love This Planet |
| ノミネート Nominees |
Gods of Metal |
短編映画賞 / Tanpen Eiga Shou[Best Live Action Short Film]
短編映画賞(Best Live Action Short Film)は、最も優れた短編実写映画に贈られる部門です。第55回は、英作家グレアム・グリーン(Graham Greene)の短編小説を原作にしたイギリス映画『A Shocking Accident』が受賞しました。突拍子もない父の死をユーモラスかつ温かみのある視点で描いた作品で、クリスティン・エストライヒャー(Christine Oestreicher)がプロデューサーとして受賞しました。短い尺の中に笑いと感動を凝縮した秀作として高く評価されています。
| 受賞 Winner |
A Shocking Accident |
| ノミネート Nominees |
Ballet Robotique |
短編アニメ賞 / Tanpen Anime Shou[Best Animated Short Film]
短編アニメ賞(Best Animated Short Film)は、最も優れたアニメーション短編映画に贈られる部門です。第55回は、ポーランドの映像作家ズビグニュー・リプチンスキー(Zbigniew Rybczyński)の実験的アニメーション作品『Tango』が受賞しました。ひとつの部屋の中で複数の時代・世代の人々がそれぞれ独自の行動を繰り返すという、多重露光技法を駆使した革新的な映像表現が高く評価されました。映像表現の可能性を大きく押し広げた傑作として、アニメーション史においても重要な位置を占めています。また、ノミネート作品には、イギリスの絵本「スノーマン」を原作にした感動的なアニメ『The Snowman』も含まれており、こちらはクリスマスの定番作品として現在も世界中で愛されています。
| 受賞 Winner |
Tango |
| ノミネート Nominees |
The Great Cognito |
作曲賞 / Sakkyoku Shou[Best Original Score]
作曲賞(Best Original Score)は、映画のために書き下ろされた最も優れたオリジナル音楽に贈られる部門です。第55回は、スティーヴン・スピルバーグ監督の『E.T.』のために作曲した感動的なスコアでジョン・ウィリアムズ(John Williams)が受賞しました。少年エリオットとE.T.が夜空を自転車で飛ぶクライマックスシーンに寄り添う壮大な音楽は、映画音楽史上屈指の名曲として今なお世界中の人々に親しまれています。インドの伝統音楽の巨匠ラヴィ・シャンカル(Ravi Shankar)とジョージ・フェントン(George Fenton)が共同で手がけた『ガンジー』の壮大なスコアも強力なライバルでした。
| 受賞 Winner |
E.T.[E.T. the Extra-Terrestrial] |
| ノミネート Nominees |
ガンジー[Gandhi] |
歌曲・編曲賞 / Kakyoku Henkyoku Shou[Best Original Song Score]
歌曲・編曲賞(Best Original Song Score)は、ミュージカル映画などで使用されたオリジナル楽曲群の作曲・編曲に贈られる部門です。第55回は、映画音楽の巨匠ヘンリー・マンシーニ(Henry Mancini)とレスリー・ブリッカス(Leslie Bricusse)が手がけたミュージカルコメディ映画『ビクター/ビクトリア』が受賞しました。マンシーニは「ムーン・リバー」(Breakfast at Tiffany's)や「ピンクパンサーのテーマ」など数々の映画音楽の名曲を世に送り出した巨匠であり、本作でも洒落たジャズとミュージカルの魅力を存分に発揮しています。
| 受賞 Winner |
ビクター/ビクトリア[Victor/Victoria] |
| ノミネート Nominees |
アニー[Annie] |
歌曲賞 / Kashou Shou[Best Original Song]
歌曲賞(Best Original Song)は、映画のために書き下ろされた最も優れたオリジナル楽曲に贈られる部門です。第55回は、映画『愛と青春の旅だち(An Officer and a Gentleman)』から生まれた「Up Where We Belong」が受賞しました。ジョー・コッカーとジェニファー・ウォーンズが情感豊かにデュエットしたこの楽曲は、全米・全英チャートで1位を記録し、1982年を代表するポップソングとして今なお世界中で愛されています。ノミネート作品にはサバイバー(Survivor)が歌った「Eye of the Tiger」(ロッキー3)という伝説的なロックアンセムも含まれており、このノミネーションは映画音楽ファンの間で語り継がれる名勝負のひとつです。
| 受賞 Winner |
“Up Where We Belong" from 愛と青春の旅だち[An Officer and a Gentleman] |
| ノミネート Nominees |
“Eye of the Tiger" from ロッキー3[Rocky III] |
音響編集賞 / Onkyou Henshuh Shou[Best Sound Effects Editing]
音響編集賞(Best Sound Effects Editing)は、映画で使用された音響効果の制作・編集が最も優れた作品に贈られる部門です。第55回は、チャールズ・L・キャンベル(Charles L. Campbell)とスター・ウォーズシリーズの音響で知られるベン・バート(Ben Burtt)が手がけた『E.T.』が受賞しました。宇宙人E.T.の独特の声・呼吸音から宇宙船の起動音まで、現実には存在しない生命体の存在感を音で完璧に作り上げた卓越した音響効果が高く評価されました。ドイツの潜水艦映画『U・ボート』の密閉空間で聴こえる緊迫の機械音もノミネートされています。
| 受賞 Winner |
E.T.[E.T. the Extra-Terrestrial] |
| ノミネート Nominees |
U・ボート[Das Boot] |
録音賞 / Rokuon Shou[Best Sound]
録音賞(Best Sound)は、映画全体の音響設計・録音の総合的な品質に贈られる部門です。第55回も音響編集賞に引き続き『E.T.』が受賞し、技術面におけるE.T.の圧倒的な強さが示されました。セリフ・音楽・効果音のバランスを絶妙に整えた録音チームの仕事は、映画の感動をさらに深めるものでした。ノミネートには、潜水艦の密閉空間で音が響く様子をリアルに再現した『U・ボート』や、インドの喧騒と大地の息吹を感じさせる壮大な録音で高く評価された『ガンジー』も名を連ねています。
| 受賞 Winner |
E.T.[E.T. the Extra-Terrestrial] |
| ノミネート Nominees |
U・ボート[Das Boot] |
美術賞 / Bijutsu Shou[Best Art Direction]
美術賞(Best Art Direction)は、映画のセット・美術デザインが最も優れた作品に贈られる部門です。第55回は、20世紀初頭のインドの街並みや宮殿、独立運動の現場を精緻に再現した美術チームが評価され、スチュアート・クレイグ(Stuart Craig)らによる『ガンジー』が受賞しました。ノミネートには、リドリー・スコット監督のSF映画『ブレードランナー』が含まれており、雨降りしきる退廃的な近未来ロサンゼルスのビジュアルデザインは、当時こそ十分な評価を受けなかったものの、後世のSF映像表現に絶大な影響を与えた金字塔的な美術として再評価されています。
| 受賞 Winner |
ガンジー[Gandhi] |
| ノミネート Nominees |
アニー[Annie] |
撮影賞 / Satsuei Shou[Best Cinematography]
撮影賞(Best Cinematography)は、映画の映像美・カメラワークが最も優れた撮影監督に贈られる部門です。第55回は、インドの広大な大地と激動の歴史を雄大かつ繊細に映し出したビリー・ウィリアムズ(Billy Williams)とロニー・テイラー(Ronnie Taylor)による『ガンジー』が受賞しました。宗教的な儀式、大規模な群衆シーン、平原の夕日など、多様な表情のインドを圧倒的なスケールで捉えた撮影は作品の格を高める重要な要素でした。アレン・ダヴィオー(Allen Daviau)が捉えた幻想的な光と影の『E.T.』や、潜水艦内の圧迫感を活写したヨスト・ヴァカーノ(Jost Vacano)の『U・ボート』など、個性豊かな映像美がこの年の撮影賞を彩りました。
| 受賞 Winner |
ガンジー[Gandhi] |
| ノミネート Nominees |
U・ボート[Das Boot] |
メイクアップ賞 / Makeup Shou[Best Makeup]
メイクアップ賞(Best Makeup)は、メイクアップとヘアスタイリングの技術が最も優れた作品に贈られる部門です。第55回から新設されたこの部門の初代受賞者となったのは、先史時代の原始人類をリアルかつ表情豊かに作り上げたサラ・モンザニー(Sarah Monzani)とマイケル・バーク(Michèle Burke)によるフランス・カナダ合作映画『人類創世(Quest for Fire)』でした。言語を持たない原始人類を現代の俳優が演じるために施された特殊メイクの完成度は非常に高く、アカデミー賞メイクアップ賞の歴史を開くにふさわしい革新的な仕事として映画史に刻まれています。
| 受賞 Winner |
人類創世[Quest for Fire] |
| ノミネート Nominees |
ガンジー[Gandhi] |
衣裳デザイン賞 / Ishou Design Shou[Best Costume Design]
衣裳デザイン賞(Best Costume Design)は、映画の衣裳が最も優れた作品に贈られる部門です。第55回は、インド独立運動の時代を舞台にした様々な身分・民族の衣裳を細部まで忠実に再現したジョン・モロ(John Mollo)とブハヌ・アタイヤ(Bhanu Athaiya)による『ガンジー』が受賞しました。特にブハヌ・アタイヤはインド人として史上初めてアカデミー賞を受賞するという歴史的快挙を成し遂げ、インド映画界の誇りとなりました。ノミネートには、オペラ映画の豪華な衣裳が話題を呼んだ『トラヴィアータ/1985・椿姫』や、コンピューターの仮想世界を表現した独創的な衣裳の『トロン』も含まれています。
| 受賞 Winner |
ガンジー[Gandhi] |
| ノミネート Nominees |
トラヴィアータ/1985・椿姫[La Traviata] |
編集賞 / Henshuh Shou[Best Film Editing]
編集賞(Best Film Editing)は、映画の編集作業において最も優れた成果を残した編集者に贈られる部門です。第55回は、上映時間3時間以上に及ぶ壮大なガンジーの生涯を緩急自在に編み上げ、観客を引き込む流れを作り出したジョン・ブルーム(John Bloom)による『ガンジー』が受賞しました。膨大な撮影素材の中から歴史的場面と人間ドラマを絶妙なバランスで切り取り、長尺でありながら飽きさせない編集技術は高く評価されました。ノミネートには、潜水艦の息詰まる任務をリズミカルに描いた『U・ボート』や、ファンタジーと現実の境界を繊細に描いた『E.T.』も名を連ねています。
| 受賞 Winner |
ガンジー[Gandhi] |
| ノミネート Nominees |
U・ボート[Das Boot] |
視覚効果賞 / Shikaku Kouka Shou[Best Visual Effects]
視覚効果賞(Best Visual Effects)は、映画の視覚的特殊効果が最も優れた作品に贈られる部門です。第55回は、アニマトロニクスと光学合成を駆使してE.T.のリアルな外見と自然な動きを生み出したカルロ・ランバルディ(Carlo Rambaldi)、デニス・ミューレン(Dennis Muren)らのチームによる『E.T.』が受賞しました。宇宙人という実在しない存在に命を吹き込み、観客に本物の感情移入をさせた視覚効果は当時最先端の技術の結晶でした。ノミネートにはリドリー・スコット監督の『ブレードランナー』が含まれており、CGがまだ一般的でなかった時代に精巧なミニチュアとマット画を組み合わせて描いた近未来都市の映像は、後のSF映像表現に革命をもたらした仕事として今日では高く再評価されています。
| 受賞 Winner |
E.T.[E.T. the Extra-Terrestrial] |
| ノミネート Nominees |
ブレードランナー[Blade Runner] |
第55回アカデミー賞(1983年)まとめ
第55回アカデミー賞(1983年開催、1982年公開映画対象)は、リチャード・アッテンボロー監督の『ガンジー』が最多8部門で受賞し、授賞式を席巻した年として映画史に刻まれています。20年以上の構想期間を経て完成したこの壮大な伝記映画は、ベン・キングズレーの渾身の演技とともに世界中の観客に深い感銘を与えました。一方、1982年の世界興行収入第1位を記録したスティーヴン・スピルバーグの『E.T.』は技術系4部門を制覇し、芸術賞と技術賞で二大作品が頂点を分け合った記憶に残る年となりました。
第55回アカデミー賞 受賞部門まとめ一覧
各映画の受賞部門数を振り返ると、この年の映画界のハイライトが一目で分かります。
- ガンジー[Gandhi]:作品賞・監督賞・主演男優賞・脚本賞・撮影賞・美術賞・衣裳デザイン賞・編集賞の8部門受賞
- E.T.[E.T. the Extra-Terrestrial]:作曲賞・音響編集賞・録音賞・視覚効果賞の4部門受賞
- 愛と青春の旅だち[An Officer and a Gentleman]:助演男優賞・歌曲賞の2部門受賞
- ソフィーの選択[Sophie's Choice]:主演女優賞の1部門受賞
- トッツィー[Tootsie]:助演女優賞の1部門受賞
- ミッシング[Missing]:脚色賞の1部門受賞
- ビクター/ビクトリア[Victor/Victoria]:歌曲・編曲賞の1部門受賞
- 人類創世[Quest for Fire]:メイクアップ賞(新設部門)の1部門受賞
- Begin the Beguine(スペイン):外国語映画賞の1部門受賞
第55回アカデミー賞が生んだ歴史的記録
第55回アカデミー賞では、映画史に刻まれた歴史的な記録がいくつも生まれました。
- ルイス・ゴセット・ジュニアが『愛と青春の旅だち』の助演男優賞を受賞し、アフリカ系アメリカ人男優として史上初の助演男優賞受賞者となりました。これは映画界における多様性の観点からも画期的な出来事でした。
- ブハヌ・アタイヤが衣裳デザイン賞を受賞し、インド人として史上初のアカデミー賞受賞者となりました。
- ジェシカ・ラングは同年、『トッツィー』で助演女優賞を受賞する一方、『女優フランシス』で主演女優賞にもノミネートされるというダブルノミネートを達成し、その圧倒的な演技力を証明しました。
- メイクアップ賞が本回から新設されました。初代受賞者は『人類創世』のサラ・モンザニーとマイケル・バークです。
- スペイン映画『Begin the Beguine』がスペイン初の外国語映画賞を受賞しました。
時代を超えて再評価される第55回ノミネート作品
第55回アカデミー賞の特筆すべき点は、当時は主要賞を逃しながらも後世に多大な影響を与えた作品がノミネートされていたことです。美術賞・視覚効果賞にノミネートされた『ブレードランナー』は公開当時の興行収入こそ振るいませんでしたが、後にSF映画の金字塔として再評価され、「サイバーパンク」という一大ジャンルを切り拓いた作品として現代の映像表現に絶大な影響を与え続けています。また「Eye of the Tiger」(ロッキー3)は歌曲賞こそ逃したものの、スポーツ映画の象徴的なアンセムとして半世紀近くが過ぎた今もなお世界中で使われ続けています。
第55回アカデミー賞の受賞作品・ノミネート作品は、いずれも1980年代初頭の映画界の多様性と創造性を象徴する作品ばかりです。社会性の高い歴史的伝記映画から親子の絆を描いたSFファンタジー、革新的な視覚表現のSF、笑いと社会批評を融合させたコメディまで、幅広いジャンルの傑作が揃った充実の年でした。まだ未見の作品があれば、ぜひこの機会に鑑賞してみてください。

