長崎県の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Nagasaki ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~
長崎県は、日本の中でも特に国際交流の歴史が深い地域です。戦国時代の1571年にポルトガル船の来航により開港して以来、長崎は西洋文化の窓口として発展してきました。江戸時代の鎖国政策下においても、出島を通じてオランダや中国との貿易が継続され、西洋の科学技術・医学・文化・宗教が日本に流入する唯一の拠点となりました。
こうした独自の歴史的背景から、長崎県には2つのユネスコ世界文化遺産が登録されています。1つは幕末から明治期にかけての急速な近代化・産業化の歩みを物語る「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」(2015年登録)、もう1つは約250年にわたるキリスト教禁教政策の下で独自の信仰形態を守り続けた人々の歴史を伝える「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(2018年登録)です。
この記事では、長崎県内に所在するこれら2つの世界遺産の全構成資産について、歴史的背景・見どころ・アクセス情報を詳しくまとめています。長崎の世界遺産巡りの旅行計画や、日本の近代史・キリシタン史の学習にお役立てください。
世界遺産とは、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)総会で1972年に採択された世界遺産条約「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づいて世界遺産リストに登録された、遺跡・景観・自然など人類が共有すべき「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value)」を持つ不動産を指します。世界遺産の登録の本来の目的は、自然や文化的に価値のあるものを保護・保全し、現在の世代から未来の世代へと確実に継承していくことにあります。
一方で、世界遺産に登録されることにより国際的な知名度が飛躍的に向上し、観光地としてのブランド力を獲得できることも広く認識されています。長崎県の世界遺産はまさにその好例であり、軍艦島やグラバー園、大浦天主堂といった構成資産には国内外から多くの観光客が訪れています。
以下に、世界遺産が登録される際の10の評価基準を記載します。
- (1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
- (2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
- (3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
- (4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
- (5) ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。
- (6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの(この基準は他の基準と組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている)。
- (7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
- (8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。
- (9) 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
- (10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。
(1)~(6)を満たすものが文化遺産、(7)~(10)を満たすものが自然遺産、文化遺産と自然遺産の条件をそれぞれ1つ以上を満たすものが複合遺産としての登録基準となります。
以下で紹介する世界遺産の「登録基準」項目の記載番号は上記の世界遺産登録基準の番号に対応しています。
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明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業 / Meiji Nihon No Sangyou Kakumei Isan Seitetsu Tekkou Zousen Sekitan Sangyou[Sites of Japan's Meiji Industrial Revolution: Iron and Steel, Shipbuilding and Coal Mining]
「明治日本の産業革命遺産」は、幕末の1850年代から明治期の1910年にかけて、日本が西洋の技術を導入し、わずか半世紀余りで非西洋地域として初めて産業化を成し遂げた過程を証言する遺産群です。全国8県11市にまたがる23の構成資産から成り、2015年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。
長崎県には、このうち造船と石炭産業に関連する8つの構成資産が集中しています。これは、長崎が江戸時代から西洋との交易の窓口であり、幕末にはいち早く蒸気船の修理や石炭の採掘といった近代産業の導入が進められた歴史を反映しています。特に三菱の創業者・岩崎弥太郎が官営施設を引き継いで発展させた長崎造船所は、日本の造船業の発祥地として知られ、今なお現役で稼働する施設もあります。
登録基準(2)「ある期間を通じてまたはある文化圏において、人類の価値の重要な交流を示すもの」と(4)「人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、技術の集積の優れた例」が適用されており、西洋から東洋への技術移転と、日本独自の応用・発展の過程が評価されています。
| 登録区分 Type |
文化遺産 |
| 登録年 Designated |
2015年 |
| 登録基準 Criteria |
(2)、(4) |
長崎造船所 小菅修船場跡 / Nagasaki Zousenjo Kosuge Shuhsenjou Ato[Nagasaki Shipyard Kosuge Slip Dock]
小菅修船場跡は、1869年(明治2年)に完成した日本初の本格的な蒸気機関を動力とする西洋式スリップドック(船架)です。薩摩藩の五代友厚とスコットランド出身の貿易商トーマス・グラバーの協力により建設されました。船を陸上に引き揚げて修理するための施設で、レールの上をソロバン(曳揚げ台)が移動する仕組みは当時としては画期的でした。現存するレンガ造りの小屋には蒸気機関の基礎部分が残されており、日本の近代造船業の原点を物語る貴重な産業遺産です。
| 住所 Address |
長崎県長崎市小菅町5 |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
JR長崎駅より長崎バス戸町経由野母半島方面行き(約15分)「小菅町」下車(徒歩約5分) |
| URL URL |
https://www.at-nagasaki.jp/spot/169/ |
三菱長崎造船所 第三船渠 / Mitsubishi Nagasaki Zousenjo Dai San Senkyo[Nagasaki Shipyard Mitsubishi No.3 Dry Dock]
第三船渠(ドライドック)は1905年(明治38年)に竣工した大型船渠で、当時の日本における造船能力の飛躍的な向上を象徴する施設です。建設にあたっては、長崎港内の岩盤を掘削するという大規模な土木工事が行われました。完成当初の全長は約222メートルで、その後の拡張を経て現在も三菱重工業長崎造船所の現役施設として大型船舶の建造・修理に使用されています。100年以上にわたり稼働を続ける「生きた産業遺産」であり、日本の造船技術の連続性を示す稀有な存在です。なお、現役稼働施設のため一般見学はできませんが、長崎港遊覧船や対岸から遠望することが可能です。
| 住所 Address |
長崎県長崎市飽の浦町1-1 |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
※現役稼働施設であり非公開施設(長崎漁港岸壁・対岸、軍艦島・長崎港遊覧船から遠望可能) |
| URL URL |
https://www.at-nagasaki.jp/spot/62107/ |
長崎造船所 ジャイアント・カンチレバークレーン / Nagasaki Zousenjo Giant Cantilever Crane[Nagasaki Shipyard Mitsubishi Giant Cantilever Crane]
ジャイアント・カンチレバークレーンは、1909年(明治42年)にスコットランドのマザーウェル・ブリッジ社によって製造され、長崎造船所に設置された電動クレーンです。吊り上げ能力150トン、高さ約62メートルの巨大なハンマーヘッド型クレーンで、大型船舶の建造に必要な重量物の据付けに使用されてきました。設置から100年以上が経過した現在も現役で稼働しており、日本に現存する最古の電動クレーンとして極めて高い歴史的価値を有しています。長崎港のシンボル的存在でもあり、遊覧船やグラバー園の高台から、その特徴的なシルエットを眺めることができます。
| 住所 Address |
長崎県長崎市飽の浦町1-1 |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
※現役稼働施設であり非公開施設(旧木型場行のシャトルバス、軍艦島・長崎港遊覧船、グラバー園から遠望可能) |
| URL URL |
https://www.at-nagasaki.jp/spot/62108/ |
長崎造船所 旧木型場 / Nagasaki Zousenjo Kyuh Kigataba[Nagasaki Shipyard Mitsubishi Former Pattern Shop]
旧木型場は、1898年(明治31年)に鋳物製造用の木型を製作・保管する施設として建設されたレンガ造りの建物です。木型とは、船舶の部品を鋳造する際に砂型の原型となる木製の模型のことで、造船の精度を左右する重要な工程を担っていました。現在は「三菱重工業長崎造船所 史料館」として一般公開されており、長崎造船所の創業以来約150年にわたる歴史を伝える約900点の貴重な資料が展示されています。日本の近代造船史を体系的に学ぶことができる施設として、世界遺産巡りの拠点に最適です。
| 住所 Address |
長崎県長崎市飽の浦町1-1 |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
JR長崎駅よりシャトルバス(約15分)「史料館」下車 |
| URL URL |
https://www.mhi.co.jp/company/facilities/history/ |
長崎造船所 占勝閣 / Nagasaki Zousenjo Senshoukaku[Nagasaki Shipyard Mitsubishi Senshokaku Guest House]
占勝閣は、1904年(明治37年)に三菱合資会社の第三代社長・荘田平五郎の構想のもと、長崎港を見下ろす高台に建てられた木造2階建ての迎賓施設です。「占勝」の名は、「勝景を占める」すなわち絶景を独占するという意味に由来します。その名のとおり、占勝閣からは長崎港と造船所全体を一望できる壮大な眺望が広がります。国内外の要人をもてなす迎賓館として使用されてきた由緒ある建物で、造船所の繁栄と三菱の社会的地位を象徴する施設です。現在は非公開ですが、正門前の高台から外観を遠望することができます。
| 住所 Address |
長崎市岩瀬道町139 |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
※非公開施設(正門前の高台から遠望可能) |
| URL URL |
https://www.at-nagasaki.jp/spot/62109/ |
高島炭坑 / Takashima Tankou[Takashima Coal Mine Takashima Coal Mine]
高島炭坑は、長崎港から南西約14.5キロメートルの高島に位置する、日本初の西洋技術を導入した近代的炭坑です。1868年(慶応4年)にトーマス・グラバーと佐賀藩の共同事業として、イギリス人技師モリスの指導のもとで竪坑(たてこう)方式による採掘が開始されました。蒸気機関を動力とした排水・巻揚げ設備を備え、日本の石炭産業の近代化の出発点となりました。その後、官営を経て三菱に払い下げられ、隣接する端島(軍艦島)とともに良質な石炭を供給し、日本の近代産業を支えました。現在、島内には高島石炭資料館があり、炭坑の歴史や島民の暮らしについて学ぶことができます。
| 住所 Address |
長崎県長崎市 高島町99-1 |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
高島港ターミナル(徒歩約30分)、高島港ターミナルより循環バス(約10分)「本町」下車(徒歩約1分) |
| URL URL |
https://www.at-nagasaki.jp/gunkan/intro/takashima/ |
端島炭坑(軍艦島) / Hashima Tankou(Gunkan Jima)[Takashima Coal Mine Hashima Coal Mine(Battleship Island)]
端島、通称「軍艦島」は、長崎港から南西約19キロメートルに浮かぶ、南北約480メートル・東西約160メートルの小さな海底炭坑の島です。その外観が軍艦「土佐」に似ていることから「軍艦島」と呼ばれるようになりました。1870年代から本格的な採掘が始まり、三菱の経営のもと、良質な強粘結炭の産出により日本の製鉄業を支えました。最盛期の1960年には約5,300人が暮らし、当時の人口密度は1ヘクタールあたり約835人と世界最高を記録しました。島内には日本初の鉄筋コンクリート造の集合住宅(1916年建設の30号棟)をはじめ、学校・病院・映画館・商店などの生活施設が立ち並び、海上に浮かぶ一つの都市を形成していました。1974年に閉山し全島民が離島した後は無人島となり、現在は風化した建物群が独特の廃墟景観を形成しています。2009年から上陸ツアーが開始され、長崎を代表する観光スポットとして国内外から大きな注目を集めています。
| 住所 Address |
長崎県長崎市高島町 |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
長崎港よりやまさ海運・軍艦島クルーズ・ユニバーサルワーカーズ・シーマン商会・第七えびす丸馬場広徳等の各社ツアー船舶を利用 |
| URL URL |
https://www.at-nagasaki.jp/gunkan/intro/takashima/ |
旧グラバー住宅(グラバー園) / Kyuh Glover Juhtaku(Glover Garden)[Glover House and Office(Glover Garden)]
旧グラバー住宅は、1863年にスコットランド出身の貿易商トーマス・ブレーク・グラバーが長崎の南山手の丘に建てた邸宅で、日本に現存する最古の木造西洋風建築として知られています。コロニアル・スタイルのバンガロー形式を基調としながら、日本の瓦屋根や漆喰壁を取り入れた和洋折衷の建築様式が特徴です。グラバーは武器商人として幕末の志士たちを支援するとともに、高島炭坑の開発や造船業の振興にも深く関わり、日本の近代化に多大な貢献を果たしました。現在、旧グラバー住宅はグラバー園の中核施設として公開されており、長崎港を見渡す美しい庭園とともに、旧リンガー住宅や旧オルト住宅といった洋館群も見学できます。長崎観光の定番スポットとして年間を通じて多くの観光客が訪れています。
| 住所 Address |
長崎市南山手町8-1 |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
JR長崎駅より路面電車1系統正覚寺下行き(約10分)「築町」下車後、路面電車5系統石橋行き(約10)「大浦天主堂下」・「石橋」下車(徒歩約10分) |
| URL URL |
https://www.glover-garden.jp/ |
長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産 / Nagasaki To Amakusa Chihou No Senpuku Kirishitan Kanren Isan[Hidden Christian Sites in the Nagasaki Region]
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は、16世紀にポルトガル宣教師によりキリスト教が伝来した後、江戸幕府による禁教政策(1614年〜)の下で約250年にわたり密かに信仰を守り続けた「潜伏キリシタン」の独自の宗教的伝統を証言する遺産群です。2018年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。
長崎県と熊本県にまたがる12の構成資産から成り、大浦天主堂、原城跡、外海の出津集落と大野集落、黒島の集落、野崎島の集落跡、頭ヶ島の集落、久賀島の集落、奈留島の江上集落(江上天主堂とその周辺)、平戸の聖地と集落(春日集落と安満岳)、天草の崎津集落などが含まれます。
潜伏キリシタンは、禁教下で仏教や神道の信者を装いながら、「納戸神(なんどがみ)」と呼ばれる隠し祭壇や聖画像(マリア観音)、独自に伝承されたラテン語の祈り「オラショ」などを通じて信仰を秘密裡に継承しました。1865年の「信徒発見」では、大浦天主堂を訪れた浦上の潜伏キリシタンがフランス人神父プチジャンに信仰を告白し、約250年間の信仰の継続が世界に知られることとなりました。この出来事は「東洋の奇跡」と称されています。
登録基準(3)「現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠」が適用されており、禁教と潜伏、そして復活という世界に類を見ない宗教的伝統の物語が評価されています。長崎市内の大浦天主堂は構成資産の中でも最もアクセスしやすく、グラバー園に隣接しているため併せて訪問することをおすすめします。
| 登録区分 Type |
文化遺産 |
| 登録年 Designated |
2018年 |
| 登録基準 Criteria |
(3) |
| 住所 Address |
長崎県長崎市 |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
大浦天主堂:長崎電気軌道石橋停留場(徒歩約5分) |
| URL URL |
https://kyoukaigun.jp/ |

