中華人民共和国・河南省の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Henan China ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~
世界遺産とはユネスコ総会で採択された世界遺産条約「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づいて登録された遺跡、景観、自然などの人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持ち、移動が不可能な物件を指します。
つまり世界遺産の登録の本来の目的は自然や文化的に価値のあるものを保護・保全し、過去から未来へと伝えていくことです。
ただ、一方でよくテレビやインターネットで目にする世界遺産に関するニュースで聞かれるように、世界遺産に登録されることで知名度があがり、観光名所としてのブランド力を持つことも近年では期待されています。
今回はそんな保護・保全をしながらも観光資源としても注目を浴びている中華人民共和国・河南省の世界遺産を紹介します。
河南省は中国の中央部に位置し、黄河の中・下流域に広がる歴史的に極めて重要な地域です。「中原(ちゅうげん)」とも呼ばれるこの地は、中国文明発祥の地の一つとされ、殷(商)・周・漢・唐など複数の王朝がこの地域に都を置きました。洛陽・開封・安陽・鄭州といった古都が集中しており、約5,000年にわたる中華文明の歴史を今に伝えています。
河南省にはユネスコ世界遺産に登録された文化遺産が複数あり、仏教石窟芸術の最高傑作である龍門石窟、中国最古の王朝遺跡である殷墟、少林寺を含む登封の史跡群、東西文明の交流を象徴するシルクロード関連遺産、世界最長の人工水路・大運河、そして万里の長城の一部など、多彩な世界遺産が点在しています。いずれも中国の悠久の歴史と文化の深さを体感できる貴重な遺産です。
まず、世界遺産が登録される基準を下記に記載します。
- (1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
- (2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
- (3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
- (4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
- (5) ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。
- (6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの(この基準は他の基準と組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている)。
- (7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
- (8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。
- (9) 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
- (10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。
(1)~(6)を満たすものが文化遺産、(7)~(10)を満たすものが自然遺産、文化遺産と自然遺産の条件をそれぞれ1つ以上を満たすものが複合遺産としての登録基準となります。
以下で紹介する世界遺産の「登録基準」項目の記載番号は上記の世界遺産登録基準の番号に対応しています。
中華人民共和国・河南省の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Henan China ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~
観光に便利な宿泊施設:河南省(洛陽、鄭州)のホテル一覧
龍門石窟 / Ryuhmon Sekkutsu[Longmen Grottoes]
龍門石窟(りゅうもんせっくつ)は、河南省洛陽市の南郊約12kmに位置する中国を代表する仏教石窟寺院です。伊河(いが)の両岸に広がる石灰岩の断崖に、北魏の孝文帝が都を洛陽に遷した西暦494年頃から造営が始まり、隋・唐代にかけて約400年間にわたり彫り続けられました。
現在確認されている石窟・仏龕(ぶつがん)は2,345個に上り、仏像は10万体以上、碑刻は2,800余点が残されています。中でも最大の奉先寺洞(ほうせんじどう)に鎮座する高さ約17.14mの盧舎那仏(るしゃなぶつ)座像は、唐の高宗の時代に則天武后の寄進により造営されたもので、中国仏教彫刻の最高傑作の一つとされています。
龍門石窟は、敦煌の莫高窟、大同の雲岡石窟とともに「中国三大石窟」と称され、特に北魏から唐代にかけての中国仏教美術の発展過程を一望できる点で、世界的に高い学術的価値を持っています。石窟群の周辺は美しい自然景観にも恵まれており、伊河沿いの散策路から眺める石窟群の全景は壮観です。
| 登録区分 Type |
文化遺産 |
| 登録年 Designated |
2000年 |
| 登録基準 Criteria |
(1)、(2)、(3) |
| 住所 Address |
Yichuan, Luoyang, Henan, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
鄭州新鄭国際空港より自動車(約2時間) |
| URL URL |
殷墟 / Inkyo[Yin xu]
殷墟(いんきょ)は、河南省安陽市の北西部に位置する殷(商)王朝後期(紀元前約1300年~紀元前1046年)の首都遺跡です。殷の第20代王・盤庚(ばんこう)が都をこの地に移して以来、約270年にわたり殷王朝の政治・文化・宗教の中心地として繁栄しました。
殷墟は20世紀初頭の甲骨文字の発見により世界的に注目を集めました。甲骨文字は亀の甲羅や獣骨に刻まれた占卜の記録で、現在確認されている中国最古の体系的な文字です。この発見は中国の歴史記述の信頼性を飛躍的に高め、殷王朝の実在を考古学的に証明する決定的な証拠となりました。
遺跡からは宮殿の基壇跡、王族の大規模な墓地、青銅器の鋳造工房跡などが発掘されています。特に「婦好墓(ふこうぼ)」から出土した精緻な青銅器群や玉器は、殷代の高度な工芸技術と豊かな文化を物語っています。殷墟は中国古代文明の源流を知る上で欠かすことのできない考古学遺跡であり、東アジアにおける青銅器文明の到達点を示す場所です。
| 登録区分 Type |
文化遺産 |
| 登録年 Designated |
2006年 |
| 登録基準 Criteria |
(2)、(3)、(4)、(6) |
| 住所 Address |
Yindu, Anyang, Henan, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
鄭州新鄭国際空港より自動車(約2時間30分) |
| URL URL |
「天地の中央」にある登封の史跡群 / Tenchi No Chuhoh Ni Aru Touhou No Shiseki Gun[Historic Monuments of Dengfeng in "The Centre of Heaven and Earth"]
「天地の中央」にある登封の史跡群は、河南省鄭州市登封市の嵩山(すうざん)周辺に点在する歴史的建造物群の総称です。古代中国では嵩山一帯が「天と地の中心」と考えられており、この地は儒教・仏教・道教の三教が交わる宗教的・文化的要衝として、約2,000年にわたり信仰と学問の中心地であり続けました。
登録構成資産には、中国武術の聖地として世界的に知られる少林寺(しょうりんじ)をはじめ、中国最古の天文観測施設である周公測景台(しゅうこうそくけいだい)と登封観星台(とうほうかんせいだい)、道教の聖地・中岳廟(ちゅうがくびょう)、中国四大書院の一つに数えられる嵩陽書院(すうようしょいん)、現存する中国最古のレンガ造り仏塔である嵩岳寺塔(すうがくじとう)など、合計8件11か所の建造物群が含まれます。
これらの史跡群は、古代中国における天文学・建築技術・教育制度・宗教の発展史を多角的に物語るものであり、「天地之中(てんちのちゅう)」という中国独自の宇宙観・世界観を理解する上で不可欠な遺産群です。特に周公測景台は紀元前8世紀に遡る天文観測の記録を持ち、中国天文学の起源を示す貴重な史跡とされています。
| 登録区分 Type |
文化遺産 |
| 登録年 Designated |
2010年 |
| 登録基準 Criteria |
(3)、(6) |
| 住所 Address |
Dengfeng, Zhengzhou, Henan, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
鄭州新鄭国際空港より自動車(約1時間20分) |
| URL URL |
シルクロード:長安-天山回廊の交易路網 / Silk Road: Chang’an-Tenzan Kairou No Kouekiro Mou[Silk Roads: the Routes Network of Chang’an-Tianshan Corridor]
シルクロード:長安-天山回廊の交易路網は、中国・カザフスタン・キルギスの3か国にまたがるトランスナショナル(国境を越えた)世界遺産です。紀元前2世紀から紀元後16世紀にかけて、東西の文明を結ぶ主要な交易路として機能し、絹・香辛料・貴金属などの物資だけでなく、宗教・思想・科学技術・芸術様式など多様な文化的要素が行き交いました。
河南省における構成資産は、洛陽市の漢魏洛陽城遺跡(かんぎらくようじょういせき)です。漢魏洛陽城は後漢・曹魏・西晋・北魏の四つの王朝が都を置いた古都遺跡であり、シルクロード東端の重要な起点の一つでした。東西約6km、南北約9kmに及ぶ広大な城址からは、宮殿跡・城門跡・寺院跡など多数の遺構が確認されています。
この遺産は、陸路シルクロードが単なる交易路にとどまらず、ユーラシア大陸全体の文明交流と発展に果たした役割の大きさを示すものです。洛陽が東アジア随一の国際都市として繁栄し、西域諸国との外交・通商の拠点となっていた歴史的事実を今日に伝えています。
| 登録区分 Type |
文化遺産 |
| 登録年 Designated |
2014年 |
| 登録基準 Criteria |
(2)、(3)、(5)、(6) |
| 住所 Address |
漢魏洛陽城遺跡:Mengjin, Luoyang, Henan, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
漢魏洛陽城遺跡:鄭州新鄭国際空港より自動車(約1時間50分) |
| URL URL |
大運河 / Dai Unga[The Grand Canal]
大運河(だいうんが)は、中国の北京から浙江省杭州までを結ぶ全長約1,794kmの世界最長かつ最古の人工運河です。その起源は紀元前5世紀の春秋時代に遡り、隋の煬帝(ようだい)の時代(7世紀初頭)に大規模な拡張工事が行われて南北を縦断する大水路として完成しました。以後、歴代の王朝によって改修・拡張が繰り返され、中国の経済・文化の大動脈として約2,500年にわたり使用されてきました。
河南省における構成資産は、洛陽市に所在する含嘉倉遺跡(がんかそういせき)と回洛倉遺跡(かいらくそういせき)です。含嘉倉は唐代に建設された国家規模の穀物貯蔵施設で、400基以上の大型地下貯蔵穴が確認されており、大運河を通じて各地から集められた穀物を貯蔵していました。回洛倉は隋代に建設された大規模な官営穀倉で、大運河の物流拠点としての洛陽の重要性を示しています。
大運河は物資の輸送だけでなく、南北の文化交流や都市の発展にも大きく寄与しました。農業・商業・産業の発展を支えるインフラとして、また南北中国の政治的統合を維持するための戦略的水路として、中国の歴史において極めて重要な役割を果たした土木遺産です。
| 登録区分 Type |
文化遺産 |
| 登録年 Designated |
2014年 |
| 登録基準 Criteria |
(1)、(3)、(4)、(6) |
| 住所 Address |
含嘉倉遺跡・回洛倉遺跡:Luoyang, Henan, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
含嘉倉遺跡・回洛倉遺跡:鄭州新鄭国際空港より自動車(約2時間10分) |
| URL URL |
万里の長城 / Banri No Choujou[The Great Wall]
万里の長城(ばんりのちょうじょう)は、中国北部に東西約2万km以上にわたって延びる世界最大の軍事防御建造物です。その建設は紀元前7世紀の春秋戦国時代に始まり、秦の始皇帝による統一的な長城の築造、漢代の西方延伸、そして明代(14~17世紀)の大規模な改修を経て現在の姿になりました。1987年にユネスコ世界遺産に登録され、人類の建築史における最も壮大な事業の一つとして広く知られています。
河南省における長城遺跡は、主に省南部の南陽市一帯に分布する楚の長城(そのちょうじょう)の遺構です。楚の長城は紀元前7世紀頃に楚国が北方の脅威に備えて築いた防御施設で、中国最古の長城の一つとされています。北方の秦や韓などの諸国からの侵攻を防ぐ目的で、山地の稜線に沿って石垣や土塁が築かれました。
河南省の長城遺跡は、北京郊外の八達嶺(はったつれい)のような観光地化された区間とは異なり、古代の築城技術や軍事戦略をより原初的な形で留めている点に学術的価値があります。山間部の自然と一体化した遺構は、古代中国の防衛思想と大地との関わりを今に伝える貴重な歴史遺産です。
| 登録区分 Type |
文化遺産 |
| 登録年 Designated |
1987年 |
| 登録基準 Criteria |
(1)、(2)、(3)、(4)、(6) |
| 住所 Address |
Nanyang, Henan, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
鄭州新鄭国際空港より自動車(約3時間10分) |
| URL URL |
河南省の世界遺産を訪れる際のポイント
河南省の世界遺産はいずれも中華文明の根幹に関わる文化遺産であり、紀元前の殷王朝から唐・宋代に至るまでの約3,000年以上の歴史の厚みを体感できます。洛陽と鄭州を拠点に、龍門石窟・登封の史跡群・シルクロード関連遺産・大運河関連遺産を効率的に巡ることが可能です。安陽の殷墟や南陽の万里の長城(楚の長城)はやや離れた場所にあるため、余裕をもった旅程を組むことをお勧めします。
河南省は中国の交通の要衝でもあり、鄭州新鄭国際空港は国内外の主要都市と結ばれています。また、中国高速鉄道の主要路線が交差する鄭州駅・鄭州東駅を利用すれば、北京・上海・西安などの主要都市からのアクセスも便利です。各世界遺産の見学には半日から1日程度を見込み、歴史的背景を事前に学んでおくことで、より深く遺産の価値を理解することができるでしょう。

