中華人民共和国・四川省の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Sichuan China ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~
世界遺産とはユネスコ総会で採択された世界遺産条約「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づいて登録された遺跡、景観、自然などの人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持ち、移動が不可能な物件を指します。世界遺産の登録の本来の目的は、自然や文化的に価値のあるものを保護・保全し、過去から未来へと伝えていくことにあります。
中華人民共和国・四川省(しせんしょう / Sichuan Province)は、中国西南部に位置する内陸の省で、省都は成都(せいと / Chengdu)です。面積は約48.6万平方キロメートルで、日本の国土の約1.3倍に相当します。四川盆地を中心に、西部にはチベット高原へとつながる標高3,000mを超える山岳地帯が広がり、多様な地形と豊かな生態系を有しています。
四川省は古くから「天府之国(天府の国)」と称され、肥沃な土地と温暖な気候に恵まれた豊かな地域として知られてきました。紀元前3世紀に築かれた都江堰(とこうえん)の灌漑システムは、現在も現役で機能しており、四川盆地の農業を支え続けています。また、道教の聖地である青城山、仏教の聖地である峨眉山、世界最大の石刻仏像である楽山大仏など、宗教・文化的に重要な遺産が数多く残されています。
自然遺産としては、九寨溝(きゅうさいこう)や黄龍(こうりゅう)といった、エメラルドグリーンやコバルトブルーに輝く幻想的な湖沼群で知られる景勝地があり、世界中から訪れる観光客を魅了しています。さらに、四川省はジャイアントパンダの最大の生息地であり、世界の野生パンダの約80%がこの地域に暮らしています。
このように四川省には、文化遺産・自然遺産・複合遺産を含む合計5件の世界遺産が登録されているほか、省をまたぐ世界遺産として万里の長城の一部区間も含まれています。本記事では、四川省に関連するこれら6件の世界遺産を、登録基準や所在地の情報とともに詳しく紹介します。
まず、世界遺産が登録される基準を下記に記載します。
- (1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
- (2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
- (3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
- (4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
- (5) ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。
- (6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの(この基準は他の基準と組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている)。
- (7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
- (8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。
- (9) 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
- (10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。
(1)~(6)を満たすものが文化遺産、(7)~(10)を満たすものが自然遺産、文化遺産と自然遺産の条件をそれぞれ1つ以上を満たすものが複合遺産としての登録基準となります。
以下で紹介する世界遺産の「登録基準」項目の記載番号は上記の世界遺産登録基準の番号に対応しています。
中華人民共和国・四川省の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Sichuan China ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~
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万里の長城 / Banri No Choujou[The Great Wall]
万里の長城(ばんりのちょうじょう / The Great Wall)は、中国北部を東西に横断する世界最大の建造物であり、1987年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。総延長は約2万1,196kmに及び、紀元前7世紀頃から明代(14~17世紀)にかけて、北方遊牧民族の侵入を防ぐ目的で断続的に建設されました。
万里の長城は複数の省・自治区にまたがる広域の世界遺産であり、四川省にも関連する区間が含まれています。四川省成都市龍泉驿区(りゅうせんえきく)周辺には、古代の防衛施設の遺構が残されており、長城の歴史的な広がりを示す重要な証拠となっています。
万里の長城は、人類の創造的才能を示す傑作であると同時に、東アジアの歴史における文化交流と軍事技術の発展を物語る記念碑的建造物です。登録基準(1)(2)(3)(4)(6)の5項目を満たしており、文化遺産としての評価が極めて高い遺産です。
| 登録区分 Type |
文化遺産 |
| 登録年 Designated |
1987年 |
| 登録基準 Criteria |
(1)、(2)、(3)、(4)、(6) |
| 住所 Address |
Yinghua, Longquanyi, Chengdu, Sichuan, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
成都双流国際空港より自動車(約1時間) |
| URL URL |
九寨溝の渓谷の景観と歴史地域 / Kyuhsaikou No Keikoku No Keikan To Rekishi Chiiki[Jiuzhaigou Valley Scenic and Historical Interest Area]
九寨溝(きゅうさいこう / Jiuzhaigou)は、四川省北部のアバ・チベット族チャン族自治州(阿壩藏族羌族自治州)に位置する自然保護区で、1992年にユネスコ世界自然遺産に登録されました。「九寨溝」の名称は、この渓谷に点在する9つのチベット族の村落(寨)に由来しています。
九寨溝の最大の魅力は、標高2,000mから3,100mの間に連なる大小100以上の湖沼群です。石灰華(トラバーチン)の堆積によって形成されたこれらの湖は、コバルトブルー、エメラルドグリーン、ターコイズなど、季節や天候によって刻々と色彩を変化させます。代表的な湖として、五花海(ごかかい)、五彩池(ごさいち)、鏡海(きょうかい)、長海(ちょうかい)などがあり、水の透明度が極めて高く、湖底に沈んだ倒木や藻類が鮮やかな色彩を生み出しています。
また、九寨溝は落差の大きい滝でも知られており、特に諾日朗瀑布(ノリランの滝 / Nuorilang Waterfall)は幅約270m、落差約25mの壮大な滝で、中国有数の幅広の滝として有名です。渓谷内にはジャイアントパンダやキンシコウ(金絲猴)などの希少動物も生息しており、生態学的にも重要な地域です。登録基準(7)を満たし、ひときわすぐれた自然美を持つ景勝地として評価されています。
| 登録区分 Type |
自然遺産 |
| 登録年 Designated |
1992年 |
| 登録基準 Criteria |
(7) |
| 住所 Address |
|
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
成都双流国際空港より自動車(約9時間) |
| URL URL |
黄龍の景観と歴史地域 / Kouryuh No Keikan To Rekishi Chiku[Huanglong Scenic and Historic Interest Area]
黄龍(こうりゅう / Huanglong)は、四川省アバ・チベット族チャン族自治州の松潘県(しょうはんけん / Songpan)に位置する景勝地で、1992年にユネスコ世界自然遺産に登録されました。九寨溝から南西約150kmの距離にあり、岷山山脈(みんざんさんみゃく)の雪宝鼎(せっぽうちょう / Xuebaoding、標高5,588m)の麓に広がっています。
黄龍の最大の特徴は、全長約3.6kmにわたる石灰華段丘(せっかいかだんきゅう / travertine terraces)です。山の斜面に沿って階段状に連なる約3,400もの彩池(さいち)と呼ばれる天然のプールが、黄金色の石灰岩の上にエメラルドグリーンやターコイズブルーの水をたたえています。この光景が黄色い龍が山を登っていくように見えることから「黄龍」の名が付けられました。
黄龍風景区の最奥部にある「五彩池(ごさいち / Five-Color Pools)」は、標高約3,500mに位置する約700の彩池群で、黄龍観光のハイライトとして知られています。また、黄龍周辺はジャイアントパンダやキンシコウ、四川キンバイカなどの希少な動植物の生息地でもあります。毎年6月には、チベット族やチャン族による伝統的な祭り「黄龍廟会(こうりゅうびょうえ)」が開催され、文化的にも重要な地域です。登録基準(7)を満たし、世界でも類を見ない壮大な石灰華地形として高く評価されています。
| 登録区分 Type |
自然遺産 |
| 登録年 Designated |
1992年 |
| 登録基準 Criteria |
(7) |
| 住所 Address |
Songpan, Aba, Sichuan, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
成都双流国際空港より自動車(約6時間30分) |
| URL URL |
峨眉山と楽山大仏 / Gabisan To Rakusan Daibutsu[Mount Emei Scenic Area, including Leshan Giant Buddha Scenic Area]
峨眉山(がびさん / Mount Emei)と楽山大仏(らくさんだいぶつ / Leshan Giant Buddha)は、四川省南部の楽山市(らくさんし / Leshan)周辺に位置し、1996年にユネスコ世界複合遺産(文化遺産と自然遺産の両方の基準を満たす遺産)に登録されました。四川省唯一の複合遺産です。
峨眉山は標高3,099mの金頂(きんちょう / Golden Summit)を最高峰とする名山で、中国仏教の四大聖地(四大名山)の一つに数えられています。紀元1世紀頃に中国で初めて仏教寺院が建立された地とされ、山中には報国寺(ほうこくじ)、万年寺(まんねんじ)、華蔵寺(かぞうじ)など30以上の寺院が点在しています。また、峨眉山は亜熱帯から亜高山帯まで多様な植生を有し、約3,200種の植物と約2,300種の動物が確認されている生物多様性の宝庫でもあります。
楽山大仏は、岷江(みんこう)・大渡河(だいとが)・青衣江(せいいこう)の三河が合流する地点の崖面に刻まれた、高さ約71mの世界最大の石刻仏像です。唐代の713年から約90年の歳月をかけて完成しました。この大仏は弥勒仏(みろくぶつ / Maitreya)を象ったもので、川の氾濫から人々を守るために建立されたと伝えられています。登録基準(4)(6)(10)を満たし、文化と自然の両面で顕著な価値を持つ遺産として評価されています。
| 登録区分 Type |
複合遺産 |
| 登録年 Designated |
1996年 |
| 登録基準 Criteria |
(4)、(6)、(10) |
| 住所 Address |
Shizhong, Leshan, Sichuan, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
成都双流国際空港より自動車(約2時間) |
| URL URL |
青城山と都江堰 / Seijousan To Tokouen[Mount Qingcheng and the Dujiangyan Irrigation System]
青城山(せいじょうさん / Mount Qingcheng)と都江堰(とこうえん / Dujiangyan Irrigation System)は、四川省成都市の西北約60kmに位置し、2000年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。成都市内からのアクセスが良好で、四川省を訪れる観光客に人気の高い世界遺産です。
青城山は道教(どうきょう / Taoism)発祥の地の一つとして知られ、中国道教の四大名山に数えられています。標高1,260mの山中には、建福宮(けんぷくきゅう)、天師洞(てんしどう)、上清宮(じょうせいきゅう)など、道教の歴史を物語る多くの道観(道教寺院)が残されています。36の山峰が環状に連なり、年間を通じて青々とした樹木に覆われていることから「青城」の名が付けられました。静寂な山中の雰囲気は「青城天下幽(青城は天下に幽なり)」と称され、古来より文人墨客に愛されてきました。
都江堰は、紀元前256年に秦の蜀郡太守・李冰(りひょう / Li Bing)とその息子によって築かれた世界最古の無壩取水式(むばしゅすいしき / damless irrigation)の大規模灌漑施設です。岷江の水流を「魚嘴(ぎょし / Fish Mouth)」で分流し、「飛沙堰(ひさえん / Flying Sand Weir)」で洪水を制御し、「宝瓶口(ほうへいこう / Bottle-Neck Channel)」で取水量を調節するという三段階の仕組みにより、ダムを用いることなく洪水防止と農地灌漑を同時に実現しています。この灌漑システムは2,200年以上経った現在も稼働しており、成都平原約67万ヘクタールの農地を潤し続けています。登録基準(2)(4)(6)を満たし、人類の水利技術の傑作として評価されています。
| 登録区分 Type |
文化遺産 |
| 登録年 Designated |
2000年 |
| 登録基準 Criteria |
(2)、(4)、(6) |
| 住所 Address |
Dujiangyan, Chengdu, Sichuan, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
成都双流国際空港より自動車(約1時間30分) |
| URL URL |
四川省のジャイアントパンダ保護区 – 臥竜、四姑娘山、夾金山脈 / Sisen Shou No Giant Panda Hogo Ku[Sichuan Giant Panda Sanctuaries – Wolong, Mt Siguniang and Jiajin Mountains]
四川省のジャイアントパンダ保護区(Sichuan Giant Panda Sanctuaries)は、四川省の邛崍山脈(きょうらいさんみゃく / Qionglai Mountains)と夾金山脈(きょうきんさんみゃく / Jiajin Mountains)にまたがる自然保護区群で、2006年にユネスコ世界自然遺産に登録されました。総面積は約9,245平方キロメートルに及びます。
この保護区は、世界に現存する野生のジャイアントパンダ(大熊猫 / Ailuropoda melanoleuca)の約30%以上が生息する、地球上で最も重要なパンダの生息域です。保護区は7つの自然保護区と9つの風景名勝区で構成されており、中でも臥竜自然保護区(がりゅうしぜんほごく / Wolong Nature Reserve)は、中国最大のパンダ研究・繁殖施設「中国ジャイアントパンダ保護研究センター」を擁し、パンダの保護活動と研究の中心地となっています。
四姑娘山(しこじょうさん / Mount Siguniang、標高6,250m)は「東洋のアルプス」とも称される秀峰で、高山草原や氷河地形が広がる壮大な景観が魅力です。保護区全体では、ジャイアントパンダのほか、レッサーパンダ、ユキヒョウ(雪豹)、ウンピョウ(雲豹)、キンシコウなどの絶滅危惧種を含む約500種以上の動物と、約4,000種の植物が確認されています。特に、この地域は氷河期以降の古代植物の避難所(レフュジア)としても重要であり、世界的に見ても植物相の多様性が極めて高い地域です。登録基準(10)を満たし、生物多様性の保全にとって最も重要な自然生息地として評価されています。
| 登録区分 Type |
自然遺産 |
| 登録年 Designated |
2006年 |
| 登録基準 Criteria |
(10) |
| 住所 Address |
Wenchuan, Aba, Sichuan, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
成都双流国際空港より自動車(約2時間50分) |
| URL URL |
四川省の世界遺産 まとめ
四川省には、文化遺産、自然遺産、複合遺産と、世界遺産の3つのカテゴリすべてにわたる多彩な遺産が集中しています。2,200年以上にわたり稼働し続ける都江堰の灌漑システムは人類の英知の結晶であり、道教の聖地・青城山や仏教の名山・峨眉山と楽山大仏は、中国の宗教・文化の奥深さを今に伝えています。
一方、九寨溝と黄龍の幻想的な湖沼群は、地球が生み出した自然美の極致ともいえる景観であり、ジャイアントパンダ保護区は生物多様性の保全において世界的に重要な役割を果たしています。これらの世界遺産は、四川省が自然と人類の営みが深く交差する、中国でも有数の文化・自然的価値を持つ地域であることを示しています。
四川省の世界遺産を訪れる際は、成都を拠点にすると効率的です。成都双流国際空港(成都天府国際空港)から各世界遺産へのアクセスが整備されており、青城山と都江堰は日帰りで訪問可能です。九寨溝や黄龍は成都から距離がありますが、九寨黄龍空港を利用すれば比較的短時間でアクセスできます。四川省の豊かな食文化(四川料理)とともに、世界遺産巡りをお楽しみください。

