[1942年開催(1941年映画作品対象)]第14回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
アカデミー賞(Academy Awards)とは、映画芸術科学アカデミー(AMPAS: Academy of Motion Picture Arts and Sciences)が主催し、アメリカ合衆国における映画の健全な発展と芸術・科学の品質向上などを目的に、キャストやスタッフなどの関係者を毎年部門別に表彰し、その成果を讃える映画賞です。
受賞作品・受賞者には賞金は出ませんが、金色のオスカー像(Oscar statuette)が授与されるため、オスカー賞(The Oscars)とも呼ばれます。
その歴史は世界三大映画祭(カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭)よりも古く、第1回のアカデミー賞授賞式は1929年に開催されました。以来、世界中が注目する映画界最大の祭典として、映画産業に計り知れない影響を与え続けています。
特にアカデミー賞へのノミネートおよび受賞結果は世界中のメディアで大きく報道されるため、各国における対象映画の興行成績や配信実績に対する強い影響力を持っています。
アカデミー賞ノミネート作品・受賞作品は、映画界で著名なプロデューサー、監督、脚本家、俳優、批評家などにより構成される選考委員によって選ばれます。その高い評価から世間でも話題の中心となるため、映画ファンなら一度は観ておくべき作品と言えるでしょう。
第14回アカデミー賞(1942年開催)の概要と歴史的背景
第14回アカデミー賞授賞式は、1942年2月26日にロサンゼルスのビルトモア・ホテル(Biltmore Hotel)で開催されました。対象作品は1941年に公開された映画です。この年は第二次世界大戦の影響が色濃く反映された授賞式となりました。1941年12月7日の真珠湾攻撃によりアメリカが参戦し、授賞式が行われた1942年2月には戦時体制が本格化していた時期でした。
この回の最大の注目は、オーソン・ウェルズ(Orson Welles)の革新的な映画デビュー作『市民ケーン(Citizen Kane)』と、ジョン・フォード(John Ford)監督の『わが谷は緑なりき(How Green Was My Valley)』の対決でした。映画史上最高傑作の一つとも評される『市民ケーン』は脚本賞(原案)のみの受賞にとどまり、『わが谷は緑なりき』が作品賞・監督賞を含む5部門を制覇する結果となりました。ジョン・フォード監督はこれが3年連続の監督賞受賞という快挙でした。
また、主演女優賞ではジョーン・フォンテイン(Joan Fontaine)がアルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)監督の『断崖(Suspicion)』で受賞しました。前年の『レベッカ』に続く2年連続のノミネートで悲願のオスカーを手にし、姉のオリヴィア・デ・ハヴィランド(Olivia de Havilland)もノミネートされていたことから、史上初の「姉妹同時ノミネート」として話題になりました。
さらに、この年は短編ドキュメンタリー映画賞が初めて設置された年でもあり、第二次世界大戦下のドキュメンタリー映画制作の重要性が認識されるようになった時代背景を反映しています。
以下では、第14回アカデミー賞(1942年開催、1941年映画作品対象)の全部門における受賞作品およびノミネート作品を一覧で紹介します。
[1942年開催(1941年映画作品対象)]第14回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
作品賞 / Sakuhin Shou[Best Picture]
第14回アカデミー賞の作品賞(Best Picture)は、ジョン・フォード監督の『わが谷は緑なりき(How Green Was My Valley)』が受賞しました。ウェールズの炭鉱町を舞台に家族の絆と時代の変化を描いたこの作品は、プロデューサーのダリル・F・ザナック(Darryl F. Zanuck)が20世紀フォックスで製作しました。ノミネート作品にはオーソン・ウェルズの『市民ケーン』、ハワード・ホークス監督の『ヨーク軍曹』、アルフレッド・ヒッチコック監督の『断崖』、ジョン・ヒューストン監督の『マルタの鷹』など、映画史に残る名作が並びました。全10作品がノミネートされ、1940年代のハリウッド黄金期を象徴するラインナップとなっています。
| 受賞 Winner |
わが谷は緑なりき[How Green Was My Valley] |
| ノミネート Nominees |
塵に咲く花[Blossoms in the Dust] |
監督賞 / Kantoku Shou[Best Director]
監督賞(Best Director)は、ジョン・フォード(John Ford)が『わが谷は緑なりき』で受賞しました。フォード監督は前々年の『怒りの葡萄(The Grapes of Wrath)』に続く受賞で、アカデミー賞の歴史においても屈指の受賞回数を誇る名匠です。対抗馬であったオーソン・ウェルズは『市民ケーン』で革新的な映像技法を駆使しましたが、受賞には至りませんでした。ハワード・ホークス(Howard Hawks)も『ヨーク軍曹』でノミネートされ、ハリウッドの巨匠たちが競い合う激戦の年となりました。
| 受賞 Winner |
わが谷は緑なりき[How Green Was My Valley] |
| ノミネート Nominees |
市民ケーン[Citizen Kane] |
主演男優賞 / Shuen Danyuh Shou[Best Actor]
主演男優賞(Best Actor)は、ゲイリー・クーパー(Gary Cooper)が『ヨーク軍曹(Sergeant York)』で受賞しました。第一次世界大戦の英雄アルヴィン・ヨークを演じたクーパーの演技は高く評価され、これが彼にとって初のオスカー受賞となりました。ノミネートにはケーリー・グラント(Cary Grant)やオーソン・ウェルズ(Orson Welles)といった大スターも名を連ねており、1941年のハリウッド男優陣の層の厚さがうかがえます。
| 受賞 Winner |
ヨーク軍曹[Sergeant York] |
| ノミネート Nominees |
愛のアルバム[Penny Serenade] |
主演女優賞 / Shuen Danyuh Shou[Best Actress]
主演女優賞(Best Actress)は、ジョーン・フォンテイン(Joan Fontaine)がアルフレッド・ヒッチコック監督のサスペンス映画『断崖(Suspicion)』で受賞しました。夫の殺意に怯える若妻を繊細に演じたフォンテインは、前年の『レベッカ』でのノミネートに続く2年連続の候補入りで念願のオスカーを獲得しました。同じくノミネートされた姉のオリヴィア・デ・ハヴィランド(Olivia de Havilland)との「姉妹対決」も注目を集め、映画史に残るエピソードとなっています。ベティ・デイヴィス(Bette Davis)やバーバラ・スタンウィック(Barbara Stanwyck)など実力派女優もノミネートされた激戦の年でした。
| 受賞 Winner |
断崖[Suspicion] |
| ノミネート Nominees |
偽りの花園[The Little Foxes] |
助演男優賞 / Joen Danyuh Shou[Best Supporting Actor]
助演男優賞(Best Supporting Actor)は、ドナルド・クリスプ(Donald Crisp)が『わが谷は緑なりき』の厳格な父親役で受賞しました。ウォルター・ブレナン(Walter Brennan)やシドニー・グリーンストリート(Sydney Greenstreet)といった名脇役たちもノミネートされ、助演陣の演技力が際立った年でした。
| 受賞 Winner |
わが谷は緑なりき[How Green Was My Valley] |
| ノミネート Nominees |
ヨーク軍曹[Sergeant York] |
助演女優賞 / Joen Joyuh Shou[Best Supporting Actress]
助演女優賞(Best Supporting Actress)は、メアリー・アスター(Mary Astor)が『偉大な嘘(The Great Lie)』で受賞しました。気性の激しいピアニスト役を見事に演じたアスターの受賞は、彼女の長いキャリアにおけるハイライトとなりました。テレサ・ライト(Teresa Wright)やパトリシア・コリンジ(Patricia Collinge)など、『偽りの花園』からは2人がノミネートされています。
| 受賞 Winner |
偉大な嘘[The Great Lie] |
| ノミネート Nominees |
わが谷は緑なりき[How Green Was My Valley] |
脚本賞 / Kyakuhon Shou[Best Original Screenplay]
脚本賞(Best Original Screenplay)は、ハーマン・J・マンキウィッツ(Herman J. Mankiewicz)とオーソン・ウェルズ(Orson Welles)が『市民ケーン(Citizen Kane)』で受賞しました。新聞王の生涯を非時系列で描いたこの脚本は、映画史における脚本技法の革命と評され、『市民ケーン』が唯一受賞したオスカーとなりました。この脚本の執筆経緯をめぐる議論は、後に映画『Mank/マンク』(2020年、デヴィッド・フィンチャー監督)の題材にもなっています。
| 受賞 Winner |
市民ケーン[Citizen Kane] |
| ノミネート Nominees |
The Devil and Miss Jones |
脚色賞 / Kyakushoku Shou[Best Screenplay]
脚色賞(Best Screenplay)は、シドニー・バックマン(Sidney Buchman)とシートン・I・ミラー(Seton I. Miller)が『幽霊紐育を歩く(Here Comes Mr. Jordan)』で受賞しました。天国と地上を行き来するファンタジックなストーリーは、後のリメイク作品『天国から来たチャンピオン(Heaven Can Wait)』(1978年)の原作としても知られています。ノミネートにはビリー・ワイルダー(Billy Wilder)やリリアン・ヘルマン(Lillian Hellman)など、後に映画史に名を刻む脚本家たちが並びました。
| 受賞 Winner |
幽霊紐育を歩く[Here Comes Mr. Jordan] |
| ノミネート Nominees |
Hold Back the Dawn |
原案賞 / Genan Shou[Best Story]
| 受賞 Winner |
幽霊紐育を歩く[Here Comes Mr. Jordan] |
| ノミネート Nominees |
教授と美女[Ball of Fire] |
短編ドキュメンタリー映画賞 / Tanpen Documentary Eiga Shou[Best Documentary Feature]
短編ドキュメンタリー映画賞(Best Documentary Short Subject)は、この第14回で初めて設置された部門です。受賞した『Churchill's Island』は、カナダ国立映画委員会(NFB)が制作した作品で、第二次世界大戦下のイギリスの戦時体制を記録したドキュメンタリーです。戦時中のプロパガンダ映画としての性格も持ちながら、ドキュメンタリー映画の芸術的価値がアカデミー賞で初めて公式に認められた歴史的な瞬間でした。
| 受賞 Winner |
Churchill’s Island |
| ノミネート Nominees |
Adventure in the Bronx |
短編映画賞(一巻) / Tanpen Eiga Shou(Hito Maki)[Best Live Action Short Film One-Reel]
| 受賞 Winner |
Of Pups and Puzzles |
| ノミネート Nominees |
Army Champions |
短編映画賞(二巻) / Tanpen Eiga Shou(Futa Maki)[Best Live Action Short Film Two-Reel]
| 受賞 Winner |
Main Street on the March! |
| ノミネート Nominees |
Alive in the Deep |
短編アニメ賞 / Tanpen Anime Shou[Best Animated Short Film]
短編アニメ賞(Best Animated Short Film)は、ウォルト・ディズニー・カンパニーの『プルートの悩み(Lend a Paw)』が受賞しました。ミッキーマウスの愛犬プルートが子猫を助ける心温まるストーリーです。ノミネートにはフライシャー兄弟の『スーパーマン』やワーナー・ブラザースのルーニー・テューンズ作品なども含まれ、アメリカンアニメーション黄金時代の名作が揃いました。
| 受賞 Winner |
プルートの悩み[Lend a Paw] |
| ノミネート Nominees |
Boogie Woogie Bugle Boy of Company B |
劇・喜劇映画音楽賞 / Geki Kigeki Eiga Ongaku Shou[Best Scoring of a Dramatic or Comedy Picture]
劇・喜劇映画音楽賞(Best Scoring of a Dramatic or Comedy Picture)は、バーナード・ハーマン(Bernard Herrmann)が『愛のアルバム(Penny Serenade)』で受賞しました。後にヒッチコック作品の音楽で不朽の名声を得るハーマンにとって、初のオスカー受賞となりました。『市民ケーン』の音楽も担当していたハーマンは、この年2作品でノミネートされています。
| 受賞 Winner |
愛のアルバム[Penny Serenade] |
| ノミネート Nominees |
裏街[Back Street] |
ミュージカル映画音楽賞 / Musical Eiga Ongaku Shou[Best Scoring of a Musical Picture]
ミュージカル映画音楽賞(Best Scoring of a Musical Picture)は、フランク・チャーチル(Frank Churchill)とオリバー・ウォレス(Oliver Wallace)がディズニーの名作『ダンボ(Dumbo)』で受賞しました。「Baby Mine」などの楽曲で知られる『ダンボ』の音楽は、アニメーション映画の音楽表現に新たな基準を打ち立てました。
| 受賞 Winner |
ダンボ[Dumbo] |
| ノミネート Nominees |
All-American Co-Ed |
歌曲賞 / Kashou Shou[Best Original Song]
歌曲賞(Best Original Song)は、ジェローム・カーン(Jerome Kern)作曲、オスカー・ハマースタイン2世(Oscar Hammerstein II)作詞の「The Last Time I Saw Paris」が『Lady Be Good』で受賞しました。ナチス占領下のパリへの哀愁を込めたこの曲は、もともと映画のために書かれた楽曲ではなかったため、受賞後に歌曲賞の規定が「映画のために書き下ろされた楽曲」に限定されるきっかけとなりました。ノミネートには「Chattanooga Choo Choo」や「Blues in the Night」など、今もスタンダードナンバーとして親しまれる名曲が含まれています。
| 受賞 Winner |
“The Last Time I Saw Paris" – Lady Be Good |
| ノミネート Nominees |
“Baby Mine" – ダンボ[Dumbo] |
録音賞 / Rokuon Shou[Best Sound Recording]
| 受賞 Winner |
美女ありき[That Hamilton Woman] |
| ノミネート Nominees |
新婚第一歩[Appointment for Love] |
美術賞(白黒) / Bijutsu Shou(Shiro Kuro)[Best Art Direction Set Decoration Black and White]
| 受賞 Winner |
わが谷は緑なりき[How Green Was My Valley] |
| ノミネート Nominees |
市民ケーン[Citizen Kane] |
美術賞(カラー) / Bijutsu Shou(Color)[Best Art Direction Set Decoration Color]
| 受賞 Winner |
塵に咲く花[Blossoms in the Dust] |
| ノミネート Nominees |
血と砂[Blood and Sand] |
撮影賞(白黒) / Satsuei Shou(Shiro Kuro)[Best Cinematography Black and White]
| 受賞 Winner |
わが谷は緑なりき[How Green Was My Valley] |
| ノミネート Nominees |
The Chocolate Soldier |
撮影賞(カラー) / Satsuei Shou(Color)[Best Cinematography Color]
| 受賞 Winner |
血と砂[Blood and Sand] |
| ノミネート Nominees |
Aloma of the South Seas |
編集賞 / Henshuh Shou[Best Film Editing]
| 受賞 Winner |
ヨーク軍曹[Sergeant York] |
| ノミネート Nominees |
市民ケーン[Citizen Kane] |
視覚効果賞 / Shikaku Kouka Shou[Best Visual Effects]
| 受賞 Winner |
空の要塞[I Wanted Wings] |
| ノミネート Nominees |
Aloma of the South Seas |
第14回アカデミー賞(1942年開催)のまとめ
第14回アカデミー賞(1942年2月26日開催、1941年映画作品対象)は、第二次世界大戦の渦中に行われた歴史的な授賞式でした。最多受賞作品は『わが谷は緑なりき(How Green Was My Valley)』の5部門(作品賞、監督賞、助演男優賞、撮影賞(白黒)、美術賞(白黒))で、ジョン・フォード監督の卓越した演出力が高く評価されました。
一方で、映画史上最も重要な作品の一つとされる『市民ケーン(Citizen Kane)』は9部門にノミネートされながら脚本賞1部門のみの受賞にとどまりました。この結果は後世において「アカデミー賞史上最大の番狂わせ」とも語られ、アカデミー賞の評価と映画史的評価が必ずしも一致しないことを示す象徴的な事例となっています。
この年の授賞式では、真珠湾攻撃直後という時代背景から、戦争映画やドキュメンタリー作品への注目が高まりました。短編ドキュメンタリー映画賞の新設はその象徴であり、映画が娯楽だけでなく社会的・歴史的記録としての役割を担うことが明確に認識された年でもありました。第14回アカデミー賞は、ハリウッド黄金期の最盛期と戦時下の社会変動が交差する、映画史において極めて重要な回として記憶されています。

