中華人民共和国・貴州省の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Guizhou China ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~
世界遺産とはユネスコ総会で採択された世界遺産条約「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づいて登録された遺跡、景観、自然などの人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持ち、移動が不可能な物件を指します。
つまり世界遺産の登録の本来の目的は自然や文化的に価値のあるものを保護・保全し、過去から未来へと伝えていくことです。
ただ、一方でよくテレビやインターネットで目にする世界遺産に関するニュースで聞かれるように、世界遺産に登録されることで知名度があがり、観光名所としてのブランド力を持つことも近年では期待されています。
今回はそんな保護・保全をしながらも観光資源としても注目を浴びている中華人民共和国・貴州省の世界遺産を紹介します。
貴州省は中国西南部に位置し、省都は貴陽市です。面積は約17.6万平方キロメートルで、省全体の約92.5%が山地と丘陵で占められている山岳地帯です。石灰岩が広がるカルスト地形が特に発達しており、世界でも有数のカルスト景観が見られる地域として知られています。また、ミャオ族・トン族・プイ族・トゥチャ族など多くの少数民族が暮らす多民族共生の地域でもあり、独自の文化と歴史を持っています。
貴州省には現在4件のユネスコ世界遺産が登録されています。自然遺産が3件(中国南方カルスト、中国丹霞、梵浄山)、文化遺産が1件(土司遺跡群)です。壮大なカルスト地形や丹霞地形といった地球の歴史を物語る自然景観から、少数民族統治の歴史を伝える文化遺産まで、多様な世界遺産を有しています。
まず、世界遺産が登録される基準を下記に記載します。
- (1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
- (2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
- (3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
- (4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
- (5) ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。
- (6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの(この基準は他の基準と組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている)。
- (7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
- (8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。
- (9) 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
- (10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。
(1)~(6)を満たすものが文化遺産、(7)~(10)を満たすものが自然遺産、文化遺産と自然遺産の条件をそれぞれ1つ以上を満たすものが複合遺産としての登録基準となります。
以下で紹介する世界遺産の「登録基準」項目の記載番号は上記の世界遺産登録基準の番号に対応しています。
中華人民共和国・貴州省の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Guizhou China ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~
観光に便利な宿泊施設:貴州(貴陽)のホテル一覧
中国南方カルスト / Chuhgoku Nanpou Karst[South China Karst]
中国南方カルストは、中国南部に広がる世界最大級のカルスト地形群を対象とした世界自然遺産です。2007年に雲南省の石林、貴州省の荔波(リーボー)、重慶市の武隆が最初に登録され、2014年の拡張登録で貴州省の施秉(シービン)、重慶市の金佛山、広西チワン族自治区の桂林、環江が追加されました。
貴州省の構成資産のうち、荔波カルストは円錐形カルスト(コーンカルスト)と塔状カルスト(タワーカルスト)の見事な景観で知られ、亜熱帯の原生林が石灰岩の山々を覆う独特の生態系が広がっています。荔波の茂蘭(マオラン)自然保護区には、カルスト地形上に発達した世界的にも貴重な原生林が残されており、希少な動植物が多数生息しています。
2014年に追加された施秉カルストは、白雲岩(ドロマイト)で構成された珍しいカルスト地形が特徴です。杉木河や雲台山などの景勝地があり、鋭い峰々が連なる壮大な地形は、地球の地質学的な歴史を理解するうえで重要な学術的価値を持っています。
| 登録区分 Type |
自然遺産 |
| 登録年 Designated |
2007年(拡張年:2014年) |
| 登録基準 Criteria |
(7)、(8) |
| 住所 Address |
施秉:Shibing, Qiandongnan, Guizhou, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
上海浦東国際空港より中国国内線(約3時間)「貴陽龍洞堡空港」到着後、自動車(約4時間) |
| URL URL |
中国丹霞 / Chuhgoku Tanka[China Danxia]
中国丹霞は、中国各地に点在する丹霞地形(赤色の堆積岩が浸食されて形成された独特の地形)の代表的な6か所を対象とした世界自然遺産です。2010年に登録され、貴州省の赤水(チーシュイ)はその構成資産の一つです。「丹霞」とは「赤い霞」を意味し、赤色の砂岩や礫岩が切り立った崖や奇岩、渓谷を形成する中国特有の地形を指します。
貴州省・赤水の丹霞地形は、赤い断崖と緑豊かな亜熱帯植生が織りなす景観が特徴的です。赤水大瀑布(十丈洞瀑布)は高さ約76メートル、幅約80メートルの巨大な滝で、中国でも屈指の大瀑布として知られています。また、赤水地域にはジュラ紀から生き続ける古代のヘゴ科シダ植物「桫椤(サラ、木生シダ)」が大規模に群生しており、桫椤国家級自然保護区として保全されています。この「生きた化石」とも呼ばれる植物群は、約1億8千万年前から姿をほとんど変えておらず、古代の地球環境を知る手がかりとして学術的にも貴重です。
赤水はまた、1935年の中国工農紅軍(共産党軍)の長征において、毛沢東が指揮した「四渡赤水」の戦いの舞台としても歴史的に知られています。自然遺産としての価値に加え、中国近現代史においても重要な地域です。
| 登録区分 Type |
自然遺産 |
| 登録年 Designated |
2010年 |
| 登録基準 Criteria |
(7)、(8) |
| 住所 Address |
Chishui, Zunyi, Guizhou, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
上海浦東国際空港より中国国内線(約3時間)「貴陽龍洞堡空港」到着後、自動車(約4時間20分) |
| URL URL |
土司遺跡群 / Doshi Iseki Gun[Tusi Sites]
土司遺跡群は、中国の元・明・清時代(13世紀~20世紀初頭)に施行された「土司制度」に関連する遺跡を対象とした世界文化遺産です。2015年に登録され、貴州省の播州海龍屯(はしゅうかいりゅうとん)、湖南省の永順老司城、湖北省の唐崖土司城址の3か所で構成されています。
土司制度とは、中国の歴代王朝が南西部の少数民族地域を統治するために設けた制度で、現地の有力者を世襲の長官(土司)に任命し、一定の自治権を与える代わりに中央政府への忠誠と納税を義務付けるものでした。この「以夷治夷」(夷をもって夷を治める)と呼ばれる間接統治の仕組みは、中国の多民族国家としての統治構造を理解するうえで重要な歴史的証拠です。
貴州省の播州海龍屯は、遵義市汇川区の龍岩山の山頂(標高約1,354メートル)に築かれた大規模な山城で、播州楊氏土司が約700年にわたって拠点とした城塞です。楊氏は唐代末期の876年から明代末期の1600年まで、29代にわたって播州地域を統治しました。1600年、明朝の万暦帝が24万の大軍を派遣して楊応龍の反乱を鎮圧した「播州の役(万暦の三征の一つ)」の舞台としても知られています。城壁や城門、関所などの遺構が山上に残されており、中国南西部の軍事防衛建築の傑作とされています。
| 登録区分 Type |
文化遺産 |
| 登録年 Designated |
2015年 |
| 登録基準 Criteria |
(2)、(3) |
| 住所 Address |
播州海竜屯:Huichuan, Zunyi, Guizhou, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
播州海竜屯:上海浦東国際空港より中国国内線(約3時間)「貴陽龍洞堡空港」到着後、自動車(約2時間50分) |
| URL URL |
梵浄山 / Bonjousan[Fanjingshan]
梵浄山(ファンジンシャン)は、貴州省北東部の銅仁市に位置する標高2,572メートルの山岳で、2018年にユネスコ世界自然遺産に登録されました。「梵浄」とは「梵天の浄土」を意味し、古くから仏教の霊山として信仰を集めてきました。明代には「弥勒菩薩の道場」として四大仏教名山に次ぐ地位を与えられ、多くの寺院が建立されました。
梵浄山は武陵山脈の最高峰であり、その孤立した山岳環境は生物多様性のホットスポットとなっています。特に貴州キンシコウ(黔金絲猴、学名:Rhinopithecus brelichi)は梵浄山のみに生息する固有種で、世界で最も希少な霊長類の一つとされています。現在の生息数は約700頭と推定され、中国国家一級保護動物に指定されています。また、梵浄山には約4,000種以上の植物と約2,700種以上の動物が生息しており、中国における亜熱帯地域の生態系を理解するうえで極めて重要な場所です。
梵浄山のシンボルである蘑菇石(きのこ岩)は、高さ約10メートルの奇岩で、風雨の浸食によって上部が大きく下部が細い独特のきのこ型に形成されたものです。また、紅雲金頂(こううんきんちょう)は高さ約100メートルの柱状の岩峰で、頂上部が二つに分かれた狭い岩の上に釈迦殿と弥勒殿の二つの寺院が建てられています。雲海に浮かぶ金頂の姿は梵浄山を代表する絶景として広く知られています。
| 登録区分 Type |
自然遺産 |
| 登録年 Designated |
2018年 |
| 登録基準 Criteria |
(10) |
| 住所 Address |
Jiangkou, Tongren, Guizhou, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
貴陽龍洞堡空港から高速鉄道で銅仁南駅(約1時間30分)、銅仁南駅から自動車(約1時間30分) |
| URL URL |
貴州省の世界遺産は、中国南方カルストや中国丹霞、梵浄山といった地球規模の地質学的・生態学的価値を持つ自然遺産と、土司制度という中国独自の統治システムの歴史を伝える文化遺産で構成されています。カルスト地形が織りなす壮大な景観、丹霞地形の赤い断崖、梵浄山の生物多様性、そして少数民族統治の歴史遺産という多彩な世界遺産群は、中国西南部の自然と文化の豊かさを伝える貴重な資産です。貴州省を訪れることで、地球の地質学的歴史と中国の多民族共生の歴史を同時に体験することができます。

