中華人民共和国・安徽省の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Anhui China ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~
安徽省(あんきしょう / Anhui)は中華人民共和国の東部内陸に位置し、北に淮河、南に長江という二大河川が流れる自然豊かな省です。省都は合肥市(ごうひし)で、面積は約14万平方キロメートル、人口は約6,100万人を擁します。安徽省南部はかつて「徽州(きしゅう)」と呼ばれ、徽商(きしょう)と呼ばれる有力商人を数多く輩出し、独自の建築様式や文化を発展させてきた地域です。
安徽省には現在3件のユネスコ世界遺産が登録されています。中国を代表する名山として知られる黄山(複合遺産・1990年登録)、明清時代の伝統建築が残る安徽南部の古村落—西逓と宏村(文化遺産・2000年登録)、そして複数の省にまたがる壮大な大運河(文化遺産・2014年登録)です。これらの世界遺産は、中国の雄大な自然景観と、何世紀にもわたって育まれてきた徽州文化が調和した独特の魅力を持っており、国内外から多くの観光客が訪れています。
世界遺産とはユネスコ総会で採択された世界遺産条約「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づいて登録された遺跡、景観、自然などの人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持ち、移動が不可能な物件を指します。世界遺産の登録の本来の目的は、自然や文化的に価値のあるものを保護・保全し、過去から未来へと伝えていくことにあります。
一方で、世界遺産に登録されることにより知名度が向上し、観光地としてのブランド力が高まるという側面も注目されています。安徽省の世界遺産もまた、貴重な自然環境や歴史的建造物の保全と観光振興の両立を図りながら、その価値を世界に発信し続けています。
以下では、安徽省に登録されている3件の世界遺産について、登録基準や所在地、アクセス情報とともに、各遺産の歴史的背景や見どころを詳しく紹介します。まず、世界遺産が登録される基準を下記に記載します。
- (1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
- (2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
- (3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
- (4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
- (5) ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。
- (6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの(この基準は他の基準と組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている)。
- (7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
- (8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。
- (9) 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
- (10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。
(1)~(6)を満たすものが文化遺産、(7)~(10)を満たすものが自然遺産、文化遺産と自然遺産の条件をそれぞれ1つ以上を満たすものが複合遺産としての登録基準となります。
以下で紹介する世界遺産の「登録基準」項目の記載番号は上記の世界遺産登録基準の番号に対応しています。
中華人民共和国・安徽省の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Anhui China ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~
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黄山 / Kouzan[Mount Huangshan]
黄山(こうざん / Mount Huangshan)は安徽省南部の黄山市に位置する花崗岩の山岳景勝地で、標高1,864メートルの蓮花峰(れんかほう)を最高峰として72の峰々が連なっています。1990年にユネスコの複合遺産として登録されました。文化遺産と自然遺産の両方の基準を満たす複合遺産としての登録は、黄山が持つ自然景観の美しさと文化的価値の高さを示しています。
黄山は「黄山四絶(こうざんしぜつ)」と称される4つの絶景で広く知られています。険しい岩肌に根を張り独特の樹形を見せる「奇松(きしょう)」、自然の浸食作用が造り出した不思議な形の「怪石(かいせき)」、山頂から見下ろす幻想的な「雲海(うんかい)」、そして山中から湧き出る「温泉(おんせん)」です。中でも「迎客松(げいきゃくしょう)」と呼ばれる樹齢約1,000年の松は、両手を広げて客を迎えるかのような枝ぶりで黄山のシンボルとなっています。
黄山は古来より中国の文人墨客を魅了してきた山であり、中国の山水画や水墨画に大きな影響を与えてきました。明代の旅行家・徐霞客(じょかきゃく)は「五岳から帰ったら他の山を見る気がしないが、黄山から帰ったら五岳すら見る気がしない(五嶽帰来不看山、黄山帰来不看嶽)」と記し、黄山を中国随一の名山と讃えました。
黄山の植生は亜熱帯常緑広葉樹林から山頂部の高山植物まで垂直分布が見られ、黄山松(学名:Pinus hwangshanensis)をはじめとする固有種や絶滅危惧種を含む1,500種以上の植物が確認されています。また、雲豹(うんぴょう)や椰子猫(やしねこ)など希少な動物も生息しており、自然遺産としての価値も極めて高い地域です。
| 登録区分 Type |
複合遺産 |
| 登録年 Designated |
1990年 |
| 登録基準 Criteria |
(2)、(7)、(10) |
| 住所 Address |
Huangshan, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
上海浦東国際空港より自動車(約5時間40分) |
| URL URL |
安徽南部の古村落—西逓と宏村 / Anki Nanbu No Kosonraku – Seitei Son To Kou Son[Ancient Villages in Southern Anhui – Xidi and Hongcun]
安徽南部の古村落—西逓(せいてい / Xidi)と宏村(こうそん / Hongcun)は、安徽省南部の黟県(いけん / Yi County)に位置する明代(14世紀)から清代(20世紀初頭)にかけて繁栄した歴史的村落です。2000年にユネスコの文化遺産として登録されました。両村落は「徽派建築(きはけんちく)」と呼ばれる安徽南部独自の伝統的建築様式を今に伝える貴重な集落です。
西逓村は北宋時代(11世紀)に創建され、約960年以上の歴史を持ちます。村内には明清時代に建てられた124棟の歴史的民家が保存されており、白壁に黒い瓦屋根(粉牆黛瓦)という徽派建築の特徴が美しい街並みを形成しています。村の入口にある胡文光刺史坊(こぶんこうししぼう)は、明の万暦年間(1578年)に建てられた精緻な石造牌坊(せきぞうはいぼう)で、西逓村のシンボルとして知られています。繊細な木彫り・石彫り・磚彫り(せんぼり)の「徽州三彫(きしゅうさんちょう)」が施された建築装飾は、当時の高い工芸技術を物語っています。
宏村は「中国画の中の村」とも称される水郷集落で、南宋時代(12世紀)に創建されました。村全体が牛の形をモチーフに設計されたという伝承があり、村の中心にある月沼(げっしょう)と南湖(なんこ)の二つの池を中心に、水路が張り巡らされた独特の集落構造を持っています。村内を流れる水路は生活用水・防火用水・灌漑用水として多目的に活用され、古代中国における高度な水利技術を示す貴重な事例です。宏村で最も有名な建築物である承志堂(しょうしどう)は清代に建てられた豪商の邸宅で、「民間の故宮」とも称されるほど精巧な彫刻装飾が施されています。
西逓と宏村は、明清時代に塩業や茶業で財を成した徽商たちが故郷に築いた文化的遺産であり、中国の伝統的な農村集落の景観・建築・社会構造を理解するうえで極めて重要な遺産です。
| 登録区分 Type |
文化遺産 |
| 登録年 Designated |
2000年 |
| 登録基準 Criteria |
(3)、(4)、(5) |
| 住所 Address |
Anhui, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
上海浦東国際空港より自動車(約6時間) |
| URL URL |
大運河 / Dai Unga[The Grand Canal]
大運河(だいうんが / The Grand Canal)は、中国の北京から浙江省杭州までを結ぶ全長約1,794キロメートルに及ぶ世界最長の人工運河です。2014年にユネスコの文化遺産として登録されました。大運河は北京市、天津市、河北省、山東省、江蘇省、浙江省、河南省、安徽省の2市6省にまたがる広域遺産であり、中国文明の発展に不可欠な役割を果たしてきました。
大運河の起源は紀元前5世紀の春秋時代にまで遡り、呉王夫差(ごおうふさ)が軍事目的で開削した邗溝(かんこう)が始まりとされています。その後、隋の煬帝(ようだい)の時代(7世紀)に大規模な拡張工事が行われ、南北の穀倉地帯と政治の中心地を結ぶ物流の大動脈として完成しました。元代以降は現在のルートに近い形に整備され、穀物・塩・絹などの物資輸送や人の移動において中国経済を支える重要なインフラとなりました。
安徽省を通過する区間は、主に淮北市(わいほくし)周辺の通済渠(つうさいきょ)の遺構として残されています。通済渠は隋代に開削された運河の一部で、黄河と淮河を結ぶ重要な水路でした。安徽省内の遺構には、柳孜運河遺跡(りゅうしうんがいせき)が含まれており、発掘調査では唐代から宋代にかけての沈没船や大量の陶磁器が出土し、当時の繁栄ぶりを伝えています。
大運河は単なる交通インフラにとどまらず、運河沿いに独自の文化・経済圏を形成し、南北の文化交流を促進してきた文明の道でもあります。現在も江蘇省や浙江省の区間では実際に水運が行われており、「生きた遺産」として歴史的価値と実用的価値を兼ね備えている点が特徴です。
| 登録区分 Type |
文化遺産 |
| 登録年 Designated |
2014年 |
| 登録基準 Criteria |
(1)、(3)、(4)、(6) |
| 住所 Address |
Huaibei, Anhui, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
上海浦東国際空港より自動車(約7時間) |
| URL URL |

