長野県の日本ジオパーク・ユネスコ世界ジオパーク 一覧・まとめ / Japanese Geoparks and UNESCO Global Geoparks in Nagano 〜保護と教育やツーリズムへの活用で持続可能な社会や地球のあり方を考え、地域経済を活性化する大地の遺産〜
ジオパークとは ― 大地の遺産を守り、学び、活かす地域プログラム
ジオパーク(Geopark)とは、「地球(Geo)」と「公園(Park)」を組み合わせた言葉で、地球科学的に重要な地質遺産を含む自然公園の一種です。単なる地質学的名所の集まりではなく、「保護(Protection)」「教育(Education)」「持続可能な開発(Sustainable Development)」の3つの柱を基盤に、地域全体で取り組む総合的なプログラムとして運営されています。
ジオパークでは、火山活動・断層運動・侵食作用・堆積作用など数億年から数万年にわたる地球のダイナミックな営みが刻まれた大地の遺産を保護しながら、その地質・地形が育んだ生態系や人々の暮らし・文化との関わりを学びます。さらに、地球科学的な視点から地域の魅力を再発見する観光(ジオツーリズム)を推進し、地域経済の持続的な活性化を実現することを目的としています。
日本ジオパークとユネスコ世界ジオパークの認定制度
ジオパークの認定には、日本ジオパーク委員会(JGC:Japanese Geoparks Committee)が審査・認定する「日本ジオパーク」と、2015年にUNESCO(国際連合教育科学文化機関)の正式事業として承認された「ユネスコ世界ジオパーク(UNESCO Global Geoparks)」の2種類があります。
日本ジオパークの名称は、日本ジオパーク委員会による加盟審査と認定を受けた地域のみが使用できます。認定後も4年に一度の再審査によって活動の適正性と品質が定期的にチェックされ、常に高い水準の維持・向上が求められます。
ユネスコ世界ジオパークの認定を目指す場合は、まず日本ジオパークとしての認定を受けた上で、日本ジオパーク委員会から推薦を受け、世界ジオパークネットワークへの加盟申請を行い、国際基準に基づく厳格な審査に合格する必要があります。世界ジオパークにおいても4年ごとの再審査が実施されます。
ジオパーク認定制度の歴史と国際的な発展
ジオパーク認定組織の歴史は、2000年にヨーロッパの4カ国(フランス、スペイン、ドイツ、ギリシャ)の有志によって設立されたヨーロッパジオパークネットワーク(EGN:European Geoparks Network)に始まります。2004年にはUNESCOの支援のもと世界ジオパークネットワーク(GGN:Global Geoparks Network)が設立され、地質遺産の保全と活用に関する国際的な枠組みが整備されました。
日本では2008年に日本ジオパーク委員会が発足し、同年に洞爺湖有珠山・糸魚川・島原半島の3地域が日本初の世界ジオパークに認定されました。2009年には日本ジオパークネットワーク(JGN)が設立され、国内のジオパーク間の連携と情報共有が進められています。2015年11月のUNESCO総会では「国際地質科学ジオパーク計画(IGGP:International Geoscience and Geoparks Programme)」が正式承認され、世界ジオパークはUNESCOの正式プログラムとして国際的な位置付けを確立しました。
長野県の地質学的特徴 ― 日本列島の構造を読み解く鍵となる大地
長野県は、日本列島の地質構造を理解する上で極めて重要な位置にあります。日本列島を東西に分断する大地溝帯「フォッサマグナ」の西縁にあたる糸魚川−静岡構造線と、西南日本の地質を南北に二分する日本最大級の断層系「中央構造線」が長野県内で交差しており、日本でも類を見ない地質学的要衝となっています。
県内には、3,000m級の山々が連なる日本アルプス(飛騨山脈・木曽山脈・赤石山脈)、活火山である浅間山や御嶽山、千曲川や天竜川が長い歳月をかけて刻んだ深い渓谷、氷河期の痕跡を残す圏谷(カール)地形、広大な河岸段丘など、多様な地質・地形遺産が分布しています。こうした地質学的多様性を背景に、長野県には複数のジオパーク認定地域が存在し、それぞれの地域で大地の成り立ちを通じた学びと、ジオツーリズムによる地域活性化の取り組みが進められています。
この記事では、長野県に所在するジオパークを紹介します。大地の歴史と向き合い、自然の雄大さと繊細さを体感できる長野県のジオパークは、観光としてだけでなく、防災教育や環境学習の場としても大きな価値を持っています。
長野県の日本ジオパーク・ユネスコ世界ジオパーク 一覧・まとめ / Japanese Geoparks and UNESCO Global Geoparks in Nagano 〜保護と教育やツーリズムへの活用で持続可能な社会や地球のあり方を考え、地域経済を活性化する大地の遺産〜
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南アルプス(中央構造線エリア)ジオパーク / Minami-Alps (Chuou Kouzousen Area) Geopark[Minami-Alps (MTL Area) Geopark]
南アルプス(中央構造線エリア)ジオパークは、2008年12月に日本ジオパーク委員会の最初の認定を受けた日本ジオパークのひとつです。長野県南部の飯田市・伊那市・富士見町・大鹿村にまたがり、日本列島の地質構造を理解する上で最も重要な断層のひとつである中央構造線(MTL:Median Tectonic Line)が地表に露出するエリアを中心に構成されています。
中央構造線は、関東から九州まで約1,000kmにわたって延びる日本最大級の断層帯であり、その内帯(北側)と外帯(南側)では全く異なる地質が隣接しています。このジオパークでは、大鹿村の北川露頭や安康露頭をはじめ、中央構造線の断層面が直接観察できる学術的に貴重なジオサイト(見学地点)が複数存在します。内帯の領家変成帯の花崗岩と、外帯の三波川変成帯の結晶片岩が断層を挟んで接する様子は、日本列島の形成史を物語る第一級の地質学的証拠です。
また、赤石山脈(南アルプス)は、フィリピン海プレートの沈み込みによって隆起し続けている世界的にも隆起速度の速い山脈であり、3,000m級の仙丈ヶ岳や塩見岳をはじめとする山々がそびえています。急峻な山岳地形、深いV字谷、大規模な崩壊地形など、現在進行形の地殻変動を体感できる貴重なフィールドです。
南アルプス(中央構造線エリア)ジオパークの主な見どころとジオツーリズム
- 中央構造線の露頭群:大鹿村の北川露頭・安康露頭では、日本最大の断層帯の断面を間近に観察可能
- 分杭峠:中央構造線が通過する標高1,424mの峠で、内帯と外帯の境界に立つことができる
- 南アルプスの山岳景観:仙丈ヶ岳、甲斐駒ヶ岳、塩見岳など3,000m級の山々と氷河地形
- 大鹿村中央構造線博物館:中央構造線の成り立ちや地質学を学べる専門的な展示施設
- 天竜川・小渋川の渓谷:河川浸食によって形成された渓谷美と河岸段丘の地形
南アルプス(中央構造線エリア)ジオパーク 基本情報
| 加盟組織 Geoparks Network |
日本ジオパーク |
| 加盟年 Year Included |
日本:2008年12月、世界:− |
| 住所 Address |
長野県飯田市、伊那市、富士見町、大鹿村 |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
JR飯田線伊那大島駅より自動車(約50分) |
| URL URL |
https://minamialps-geopark.jp/ |
苗場山麓ジオパーク / Naeba-Sanroku Geopark[Naeba-Sanroku Geopark]
苗場山麓ジオパークは、2014年12月に日本ジオパークに認定された、新潟県津南町と長野県栄村にまたがるジオパークです。標高2,145mの苗場山の南麓から信濃川(千曲川)の河岸段丘地帯にかけての広大なエリアを対象としており、火山活動・河川地形・豪雪という3つの自然の力が織りなす独自の地質景観と、そこに根付いた人々の暮らしが特徴です。
このジオパークの地質学的な最大の特徴は、日本最大級の河岸段丘群です。津南町から栄村にかけて、信濃川(千曲川)とその支流によって形成された9段もの河岸段丘が美しい階段状の地形を描いています。各段丘面は約数万年〜数十万年の間隔で形成されたもので、段丘の断面には火山灰層が挟まれており、過去の火山噴火の記録が地層に刻まれています。
また、苗場山周辺では約100万年前から続く火山活動の痕跡が随所に見られます。苗場山の山頂部に広がる高層湿原は、火山性の平坦な地形と豪雪による豊富な水分によって維持されており、「天上の楽園」とも称される独特の景観を生み出しています。冬季には日本有数の豪雪地帯となり、積雪は4mを超えることもあります。この雪が春から夏にかけて徐々に融け、豊かな水資源となって段丘上の農業や生活を支えてきました。
苗場山麓ジオパークの主な見どころとジオツーリズム
- 河岸段丘群:信濃川沿いに広がる日本最大級の9段の河岸段丘は、数十万年の地形発達史を一望できる壮大な地質遺産
- 苗場山山頂湿原:火山地形と豪雪が育んだ標高2,000m超の高層湿原で、池塘(ちとう)が点在する「天上の楽園」
- 見玉不動尊と石落し:柱状節理の岩壁と滝が織りなす迫力ある渓谷景観
- 秋山郷:急峻な地形に囲まれた山間集落で、平家の落人伝説が残る歴史的な秘境
- 中津川渓谷:河川浸食によって刻まれた深い渓谷と、柱状節理や甌穴(おうけつ)などの地質学的見どころ
- マウンテンパーク津南:段丘地形を活かした自然体験施設で、ジオパークのビジターセンターとしての機能も担う
苗場山麓ジオパーク 基本情報
| 加盟組織 Geoparks Network |
日本ジオパーク |
| 加盟年 Year Included |
日本:2014年12月、世界:− |
| 住所 Address |
新潟県:津南町 長野県:栄村 |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
JR森宮野原駅より自動車(約50分) |
| URL URL |
https://naeba-geo.jpn.org/ |
長野県のジオパークを訪れる際のポイント
長野県のジオパークを訪問する際は、以下のポイントを押さえておくとより充実したジオツーリズムを体験できます。
訪問前の準備
- ジオガイドの活用:各ジオパークでは認定ジオガイドによるガイドツアーが実施されています。専門的な解説を受けることで、地形や岩石の意味をより深く理解できます。事前に各ジオパークの公式サイトから予約することをおすすめします。
- ビジターセンター・博物館の訪問:現地のビジターセンターや博物館(南アルプスジオパークの場合は大鹿村中央構造線博物館など)で予備知識を得てからジオサイトを巡ると、地質学的な見どころをより効果的に理解できます。
- 季節と気象条件の確認:山岳地帯や豪雪地帯を含むため、訪問時期や天候によってアクセスできるジオサイトが異なります。冬季は道路閉鎖となる区間もあるため、事前の情報確認が重要です。
ジオパーク訪問のマナーと保全への協力
- ジオサイトの岩石や化石を持ち帰らない(地質遺産の保全に協力する)
- 指定されたトレイルやルートを歩き、植生や地形を傷つけない
- ジオパーク内の施設や地元の飲食店・宿泊施設を利用し、地域経済に貢献する
まとめ ― 大地の歴史を通じて地球と向き合う長野県のジオパーク
長野県に所在する南アルプス(中央構造線エリア)ジオパークと苗場山麓ジオパークは、それぞれ異なる地質学的テーマを持ちながらも、大地の歴史を保護・教育・観光の視点から活用するという共通の理念のもとに活動しています。
南アルプスでは日本列島の骨格をなす中央構造線とプレート運動による山脈隆起を、苗場山麓では火山活動と河川浸食が生み出した大規模な河岸段丘を、それぞれ体感することができます。いずれのジオパークも、数億年から数万年にわたる地球の営みが凝縮された場所であり、地球科学への理解を深めるとともに、自然災害のメカニズムや防災意識を高める教育的価値も兼ね備えています。
長野県のジオパークを訪れることで、普段は意識することの少ない足元の大地が語る壮大な物語に触れ、持続可能な社会や地球環境のあり方について考えるきっかけを得ることができるでしょう。

