山口県の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Yamaguchi ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~

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親記事:日本全国・都道府県の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Japan ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~

山口県は本州の最西端に位置し、古くから大陸文化の玄関口として、また幕末維新の原動力となった長州藩の本拠地として、日本の歴史に重要な足跡を残してきた地域です。特に城下町・萩は、江戸時代を通じて毛利氏が治めた長州藩の政治・文化の中心地であり、吉田松陰をはじめとする幕末の志士たちを数多く輩出しました。

山口県には、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の世界遺産として1件の文化遺産が登録されています。2015年に登録された「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」は、8県11市にまたがる全23の構成資産からなるシリアル・ノミネーション(連続性のある資産)であり、山口県からは萩市に所在する5つの構成資産が含まれています。これらの資産は、西洋技術の導入以前に日本が独自の試行錯誤によって近代化を模索した「産業化の初期段階(プロト・インダストリアライゼーション)」を物語る貴重な遺産群です。

世界遺産とは

世界遺産とは、1972年にユネスコ総会で採択された世界遺産条約(正式名称:「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」)に基づいて、世界遺産リストに登録された遺跡、景観、自然などの不動産を指します。人類が共有すべき「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value, OUV)」を持つと認められたものだけが登録され、その保護・保全を通じて過去から未来へと価値を継承していくことが本来の目的です。

一方で、世界遺産への登録は国際的な知名度の向上や観光地としてのブランド力強化にもつながるため、文化的価値の保全と観光振興の両立が課題となっています。山口県の世界遺産もまた、日本の近代化の歩みを伝える歴史的証拠として保護される一方で、国内外から多くの観光客が訪れる萩の観光資源としても注目されています。

世界遺産の登録基準(全10項目)

世界遺産の登録にあたっては、以下の10項目の登録基準のうち1つ以上を満たす必要があります。基準(1)~(6)を満たすものは「文化遺産」、基準(7)~(10)を満たすものは「自然遺産」、両方の基準をそれぞれ1つ以上満たすものは「複合遺産」として分類されます。

  • (1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
  • (2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
  • (3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
  • (4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
  • (5) ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。
  • (6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの(この基準は他の基準と組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている)。
  • (7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
  • (8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。
  • (9) 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
  • (10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。

以下で紹介する山口県の世界遺産の「登録基準」項目に記載されている番号は、上記の世界遺産登録基準の番号に対応しています。

山口県の世界遺産一覧 / List of UNESCO World Heritage Sites in Yamaguchi

山口県には1件の世界遺産(文化遺産)が登録されており、萩市に所在する5つの構成資産で構成されています。以下にそれぞれの詳細情報を紹介します。


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明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業 / Sites of Japan's Meiji Industrial Revolution: Iron and Steel, Shipbuilding and Coal Mining

「明治日本の産業革命遺産」は、19世紀半ばから20世紀初頭にかけて、日本が西洋の科学技術を受容し、わずか半世紀余りで非西洋地域として初の産業国家へと変貌を遂げた過程を証言する産業遺産群です。2015年にユネスコ世界遺産に登録され、九州・山口を中心とする8県11市に点在する全23の構成資産からなります。

山口県からは、萩市に所在する5つの構成資産が「萩の産業化初期の遺産群」として登録されています。これらの資産は、幕末期の長州藩(萩藩)が、ペリー来航をはじめとする西洋列強の脅威に対抗するため、軍事力の近代化を独自に模索した過程を物語っています。西洋の技術書を頼りに反射炉の建設や洋式船の建造を試みた先駆的な取り組みは、その後の日本全体の産業革命への道筋をつける重要な第一歩となりました。

登録区分
Type
文化遺産
登録年
Designated
2015年
登録基準
Criteria
(2)、(4)

登録基準について

明治日本の産業革命遺産は、2つの登録基準を満たしています。19世紀後半から20世紀初頭にかけての日本の産業化が、西洋から非西洋世界への技術移転と、それを受容・応用した日本独自の発展という人類の価値の重要な交流を示すもの(基準2)であり、また、製鉄・製鋼、造船、石炭産業という重工業分野における急速な産業化の過程を例証する技術の集積と景観の優れた例(基準4)として評価されています。

萩反射炉 / Hagi Reverberatory Furnace

萩反射炉は、安政3年(1856年)頃に長州藩が建造を試みた金属溶解炉です。反射炉とは、炉内の天井で熱を反射させることで金属を溶解する構造の炉であり、大砲の鋳造に必要な施設でした。萩反射炉は、佐賀藩の反射炉についての情報をもとに建設が試みられましたが、完全な技術情報を得ることができなかったため、試験的な操業にとどまったと考えられています。現存する遺構は煙突部分の安山岩と煉瓦で築かれた高さ約10.5mの構造物で、日本国内に現存する近世の反射炉としては、静岡県の韮山反射炉とともに極めて貴重な遺構です。

住所
Address
山口県萩市 椿東4897-7
地図
Map
地図(Map)
アクセス・最寄り駅
Access, Nearest station
JR東萩駅(徒歩約25分)、JR東萩駅より萩循環まぁーるバス東回りコース(約10分)「萩しーまーと」下車(徒歩約10分)
URL
URL
https://www.city.hagi.lg.jp/site/sekaiisan/h6077.html

恵美須ヶ鼻造船所跡 / Ebisugahana Shipyard

恵美須ヶ鼻造船所跡は、安政3年(1856年)に長州藩が設置した洋式造船所の遺構です。長州藩はペリー来航後の海防強化を目的として、幕府から大船建造の許可を得て、この地で西洋式の軍艦を建造しました。ロシア人の指導のもとでスクーナー船「丙辰丸(へいしんまる)」を、またオランダの造船技術を参考にしてバーク船「庚申丸(こうしんまる)」を建造しています。同一の造船所でロシア式とオランダ式という異なる系統の造船技術が用いられた点は、当時の日本が西洋技術を貪欲に吸収しようとした姿勢を示しています。現在も防波堤(石造)の遺構が残されています。

住所
Address
山口県萩市椿東5166
地図
Map
地図(Map)
アクセス・最寄り駅
Access, Nearest station
JR東萩駅(徒歩約25分)、JR東萩駅より萩循環まぁーるバス東回りコース(約10分)「萩しーまーと」下車(徒歩約15分)
URL
URL
https://www.city.hagi.lg.jp/site/sekaiisan/h6078.html

大板山たたら製鉄遺跡 / Ohitayama Tatara Iron Works

大板山たたら製鉄遺跡は、萩市の山間部に位置するたたら製鉄(日本古来の砂鉄製鉄法)の遺構です。たたら製鉄とは、砂鉄と木炭を原料とし、足踏み式のふいご(踏鞴=たたら)で風を送りながら鉄を精錬する伝統的な製鉄技術です。大板山たたら製鉄遺跡は、江戸時代中期から幕末にかけて断続的に操業し、特に幕末期には恵美須ヶ鼻造船所で建造された洋式軍艦「丙辰丸」の船体に使用する鉄の供給源として重要な役割を果たしました。日本の伝統的な製鉄技術が、西洋式の軍艦建造という近代化の取り組みに直結した点を示す遺跡として高く評価されています。元小屋(管理棟)、高殿(たかどの・製鉄炉を収める建物)、砂鉄洗い場などの遺構が良好な状態で残存しています。

住所
Address
山口県萩市 紫福大板257-1
地図
Map
地図(Map)
アクセス・最寄り駅
Access, Nearest station
JR東萩駅より自動車(約45分)
URL
URL
https://www.city.hagi.lg.jp/site/sekaiisan/h6079.html

萩城下町 / Hagi Castle Town

萩城下町は、慶長9年(1604年)に毛利輝元が萩城を築城して以来、約260年にわたって長州藩の政治・経済・文化の中心として栄えた城下町です。武家屋敷が立ち並ぶ「堀内地区」と商人・職人が居住した「城下町地区」で構成されており、江戸時代の城下町の区画がほぼそのまま現代に残されている点が大きな特徴です。碁盤目状の町割り、白壁となまこ壁の街並み、かつての武家屋敷の土塀や長屋門が今も残り、江戸時代の城下町の景観を色濃く伝えています。幕末期には、この城下町から高杉晋作、木戸孝允(桂小五郎)、伊藤博文など、明治維新の原動力となった多くの志士たちが輩出されました。城下町の社会構造と教育環境が、日本の産業化を推進する人材の育成に大きく寄与したことを示す遺産として評価されています。

住所
Address
山口県萩市堀内
地図
Map
地図(Map)
アクセス・最寄り駅
Access, Nearest station
JR東萩駅より自動車(約10分)、JR玉江駅より自動車(約5分)、JR玉江駅(徒歩約20分)
URL
URL
https://www.city.hagi.lg.jp/site/sekaiisan/h6080.html

松下村塾 / Shokasonjuku Academy

松下村塾(しょうかそんじゅく)は、幕末の思想家・教育者である吉田松陰が安政4年(1857年)から安政5年(1858年)にかけて主宰した私塾です。松陰神社の境内に現存する塾舎は、木造瓦葺き平屋建ての質素な建物で、わずか8畳一室の講義室と、後に増築された10畳半の部屋から構成されています。吉田松陰はこの小さな塾で、身分の上下を問わず幅広い門下生を受け入れ、西洋の知識と日本の伝統的な学問を融合させた独自の教育を実践しました。塾生には、初代内閣総理大臣の伊藤博文、明治維新の立役者である高杉晋作、木戸孝允(桂小五郎)、山縣有朋など、近代日本の礎を築いた人物が名を連ねています。松下村塾で培われた人材と思想が、日本の産業革命と近代国家建設の推進力となったことを示す遺産として、世界的にも高い価値が認められています。

住所
Address
山口県萩市椿東1537
地図
Map
地図(Map)
アクセス・最寄り駅
Access, Nearest station
JR東萩駅(徒歩約20分)、JR東萩駅より自動車(約10分)、JR東萩駅より萩循環まぁーるバス東回りコース(約15)「松陰神社前」下車(徒歩約1分)
URL
URL
https://www.city.hagi.lg.jp/site/sekaiisan/h6081.html

山口県の世界遺産を訪れる際のポイント

山口県の世界遺産構成資産は全て萩市に集中しているため、効率的に巡ることが可能です。萩市中心部にある萩反射炉・恵美須ヶ鼻造船所跡・萩城下町・松下村塾の4つの資産は、萩循環まぁーるバスや自転車を利用して巡ることができます。一方、大板山たたら製鉄遺跡は萩市中心部から車で約45分の山間部に位置するため、レンタカーなどの車両手配が必要です。

萩市は世界遺産だけでなく、萩焼の窯元巡り、明治維新ゆかりの史跡散策、日本海の新鮮な海産物など、見どころが豊富な城下町です。世界遺産の訪問と合わせて、歴史と文化が息づく萩の魅力を存分にお楽しみください。