神奈川県の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Kanagawa ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~

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親記事:日本全国・都道府県の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Japan ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~

世界遺産とは、1972年のユネスコ総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)」に基づき、人類が共有すべき「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value, OUV)」を持つと認められた遺跡・景観・自然などの不動産を指します。2024年時点で世界遺産条約の締約国は195か国にのぼり、世界遺産リストには1,000件以上の物件が登録されています。

世界遺産登録の本来の目的は、自然や文化的に価値のある遺産を保護・保全し、過去から未来へと確実に伝えていくことにあります。一方で、世界遺産に登録されることで国際的な知名度が向上し、観光地としてのブランド力が高まることも、近年では大きな効果として注目されています。

本記事では、神奈川県における世界遺産の登録状況と、かつて世界遺産登録を目指した「武家の古都・鎌倉」の推薦経緯、そして神奈川県が誇る世界遺産級の文化的・歴史的資産を詳しく紹介します。

まず、世界遺産が登録される基準を下記に記載します。

  • (1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
  • (2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
  • (3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
  • (4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
  • (5) ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。
  • (6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの(この基準は他の基準と組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている)。
  • (7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
  • (8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。
  • (9) 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
  • (10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。

(1)~(6)を満たすものが文化遺産、(7)~(10)を満たすものが自然遺産、文化遺産と自然遺産の条件をそれぞれ1つ以上を満たすものが複合遺産としての登録基準となります。

以下で紹介する世界遺産の「登録基準」項目の記載番号は上記の世界遺産登録基準の番号に対応しています。

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神奈川県の世界遺産登録状況

神奈川県には、現時点でユネスコ世界遺産に正式登録された物件はありません。しかし、神奈川県は日本の歴史・文化において極めて重要な役割を果たしてきた地域であり、世界遺産登録を目指した取り組みが過去に行われています。

「武家の古都・鎌倉」の世界遺産推薦と取り下げの経緯

神奈川県鎌倉市を中心とする「武家の古都・鎌倉(Kamakura, Home of the Samurai)」は、1992年(平成4年)に日本政府の世界遺産暫定リストに記載されました。鎌倉は、源頼朝が1185年に武家政権を開いた地として知られ、日本で初めての武士による本格的な統治体制が築かれた歴史的意義を持つ都市です。

推薦物件には、鶴岡八幡宮、建長寺、円覚寺、鎌倉大仏(高徳院)、瑞泉寺、荏柄天神社、永福寺跡、法華堂跡(源頼朝墓・北条義時墓)、和賀江嶋など、鎌倉時代の政治・宗教・文化を象徴する複数の構成資産が含まれていました。

2012年(平成24年)1月、日本政府はユネスコ世界遺産センターに対し「武家の古都・鎌倉」の正式な推薦書を提出しました。しかし、2013年(平成25年)4月、ユネスコの諮問機関であるICOMOS(国際記念物遺跡会議)は、「武家の古都・鎌倉」に対して「不記載(Not to inscribe)」の勧告を出しました。

ICOMOSの主な指摘事項は以下の通りです。

  • 武家文化の「顕著な普遍的価値(OUV)」の証明が不十分であること
  • 構成資産の多くが後世の再建であり、鎌倉時代の建造物としての真正性(オーセンティシティ)に課題があること
  • 都市開発により中世の都市景観が大きく変容しており、完全性(インテグリティ)の観点から疑問が残ること
  • 武家政権の拠点としての価値を示す物的証拠の裏付けが十分でないこと

この勧告を受け、日本政府は2013年6月にカンボジア・プノンペンで開催された第37回世界遺産委員会での審議を前に推薦を取り下げました。正式な「不記載」決議を受けると原則として再推薦が困難になるため、将来的な再挑戦の可能性を残すための判断でした。

その後、鎌倉市・神奈川県・文化庁を中心に推薦内容の見直しが継続的に検討されていますが、暫定リストへの再記載や再推薦には至っていません。

神奈川県が誇る世界遺産級の文化的・歴史的資産

世界遺産に登録されていないものの、神奈川県には国際的にも高い評価を受ける文化遺産・歴史遺産が数多く存在します。以下はその代表的な例です。

鎌倉の歴史的建造物群

鎌倉には、鎌倉五山(建長寺・円覚寺・寿福寺・浄智寺・浄妙寺)をはじめとする禅宗寺院群、鎌倉幕府の守護神として栄えた鶴岡八幡宮、そして「鎌倉大仏」の名で世界的に知られる高徳院の阿弥陀如来坐像(国宝、像高約11.3m、13世紀鋳造)があります。鎌倉時代(1185年~1333年)に花開いた武家文化は、質実剛健な禅宗文化や独自の彫刻様式を生み出し、その後の日本文化に多大な影響を与えました。

箱根と小田原の歴史・自然資源

箱根は、江戸時代の東海道の要所として設置された「箱根関所」が有名で、復元された関所跡は当時の交通制度と社会統制を伝える貴重な史跡です。また、箱根は富士箱根伊豆国立公園の一部を構成し、芦ノ湖や大涌谷などの火山性地形と温泉資源を擁する自然景勝地としても知られています。小田原城は、戦国時代の北条氏の本拠地として知られ、日本最大級の中世城郭として歴史的価値を持っています。

横浜の近代化遺産

横浜は1859年の開港以来、日本の近代化の最前線として発展しました。横浜赤レンガ倉庫(1911年・1913年竣工)、旧横浜正金銀行本店(現・神奈川県立歴史博物館、1904年竣工、国の重要文化財)、横浜市開港記念会館(1917年竣工)などの近代建築群は、日本における西洋文化の受容と近代産業の発展を物語る産業遺産・近代化遺産です。三溪園は、実業家・原三溪によって整備された日本庭園で、京都や鎌倉から移築された歴史的建造物10棟が重要文化財に指定されています。

大山と丹沢山地の自然・信仰遺産

伊勢原市の大山(標高1,252m)は、江戸時代に「大山詣り」として庶民の信仰登山の対象となり、年間20万人以上の参詣者を集めたとされています。大山阿夫利神社と大山寺を中心とする信仰文化は、2016年に日本遺産「大山詣り」として認定されました。丹沢山地は、関東山地の東端に位置する広大な山塊で、ブナの原生林やニホンカモシカの生息地として自然環境の保全上も重要な地域です。

神奈川県の世界遺産登録に向けた今後の展望

「武家の古都・鎌倉」の世界遺産登録に向けた取り組みは一度頓挫しましたが、鎌倉の歴史的価値そのものが否定されたわけではありません。ICOMOSの指摘を踏まえ、推薦コンセプトの見直しや考古学的調査の進展によって、将来的に再挑戦する可能性は残されています。また、日本全体で進む「世界遺産の拡張登録」や「シリアル・ノミネーション(連続性のある遺産としての複数地域の一括推薦)」の動きの中で、神奈川県内の文化遺産が他地域の構成資産と組み合わせて推薦される可能性も考えられます。

神奈川県は首都圏に位置しながらも、鎌倉時代の武家文化から幕末・明治の近代化まで、日本史の重要な転換点を幾度も経験してきた地域です。世界遺産登録の有無にかかわらず、その歴史的・文化的価値は国際的に高く評価されており、多くの観光客が訪れています。