中華人民共和国・江西省の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Jiangxi China ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~
世界遺産とはユネスコ総会で採択された世界遺産条約「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づいて登録された遺跡、景観、自然などの人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持ち、移動が不可能な物件を指します。
つまり世界遺産の登録の本来の目的は自然や文化的に価値のあるものを保護・保全し、過去から未来へと伝えていくことです。
ただ、一方でよくテレビやインターネットで目にする世界遺産に関するニュースで聞かれるように、世界遺産に登録されることで知名度があがり、観光名所としてのブランド力を持つことも近年では期待されています。
中華人民共和国の江西省(こうせいしょう)は、中国南東部に位置し、長江中下流域の南岸に広がる内陸省です。省都は南昌(なんしょう)で、北には中国最大の淡水湖である鄱陽湖(はようこ)が広がり、東・南・西の三方を山地に囲まれた盆地状の地形が特徴です。古来より豊かな自然と独自の文化が育まれてきたこの地域には、文化遺産、自然遺産、複合遺産と多様な種類の世界遺産が登録されています。
江西省の世界遺産は、古代中国の文人たちに愛された名山・廬山をはじめ、福建省にまたがる複合遺産の武夷山、花崗岩の奇峰が林立する三清山国立公園、そして赤い砂岩が織りなす独特の地形・中国丹霞の竜虎山など、自然の造形美と人間の精神文化が深く結びついた遺産が揃っています。
この記事では、江西省に関連する4つの世界遺産について、登録基準や歴史的背景、見どころを詳しく紹介します。
まず、世界遺産が登録される基準を下記に記載します。
- (1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
- (2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
- (3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
- (4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
- (5) ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。
- (6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの(この基準は他の基準と組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている)。
- (7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
- (8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。
- (9) 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
- (10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。
(1)~(6)を満たすものが文化遺産、(7)~(10)を満たすものが自然遺産、文化遺産と自然遺産の条件をそれぞれ1つ以上を満たすものが複合遺産としての登録基準となります。
以下で紹介する世界遺産の「登録基準」項目の記載番号は上記の世界遺産登録基準の番号に対応しています。
中華人民共和国・江西省の世界遺産 一覧・まとめ / UNESCO World Heritage Sites in Jiangxi China ~文化遺産(負の世界遺産、文化的景観、産業遺産、近代化遺産、稼働遺産)、自然遺産、複合遺産、危機遺産~
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江西省には文化遺産1件、自然遺産2件、複合遺産1件(福建省との共有)の計4件の世界遺産があります。いずれも中国南東部の豊かな自然環境と、数千年にわたる歴史・文化が生み出した価値ある遺産です。
廬山 / Rozan[Lushan National Park]
廬山(ろざん)は江西省北部の九江市に位置する標高1,474メートルの名山で、1996年に文化遺産として世界遺産に登録されました。「匡廬奇秀甲天下(廬山の美しさは天下に冠たり)」と古来より称えられ、中国を代表する名勝の一つです。
廬山の歴史は紀元前から始まり、漢代以降は道教・仏教の修行地として栄えました。東晋の高僧・慧遠が建立した東林寺は浄土教の発祥地とされ、仏教史においても重要な位置を占めています。また、唐代の詩人・李白は「望廬山瀑布(廬山の瀑布を望む)」を詠み、宋代の朱熹は白鹿洞書院を復興させて中国四大書院の一つに数えられる学問の拠点を築きました。このように廬山は宗教、文学、教育など中国の精神文化と深く結びついた山であり、登録基準(2)(3)(4)(6)を満たす文化的景観として評価されています。
山上には200棟以上の歴史的建造物が残されており、19世紀末から20世紀初頭にかけて外国人が建設した避暑地の別荘群(牯嶺)も独特の景観を形成しています。自然面では、雲海、滝、奇岩、渓谷などの変化に富んだ風景が四季を通じて楽しめ、特に秋の紅葉と冬の霧氷は多くの観光客を魅了します。
| 登録区分 Type |
文化遺産 |
| 登録年 Designated |
1996年 |
| 登録基準 Criteria |
(2)、(3)、(4)、(6) |
| 住所 Address |
Jiujiang, Jiangxi, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
上海浦東国際空港より中国国内線(約2時間)「南昌昌北国際空港」下車後、自動車(約1時間10分) |
| URL URL |
武夷山 / Buisan[Mount Wuyi]
武夷山(ぶいさん)は福建省と江西省にまたがる山岳地帯で、1999年に文化遺産と自然遺産の両方の基準を満たす複合遺産として世界遺産に登録されました。中国南東部で最大規模の亜熱帯林が広がり、文化と自然の双方で傑出した価値を持つ稀有な遺産です。
自然遺産としての武夷山は、九曲渓(きゅうきょくけい)と呼ばれる渓流が丹霞地形の赤い岩壁の間を蛇行する壮大な景観で知られています。竹筏(いかだ)で九曲渓を下る川下りは武夷山観光のハイライトであり、両岸にそびえる36の奇峰と99の岩壁が織りなす風景は「奇秀甲東南(東南一の奇秀)」と讃えられています。また、生物多様性の面でも極めて豊かで、中国南東部における動植物の進化と発達を示す重要な生態系を有しており、絶滅危惧種を含む多くの固有種が生息しています。
文化遺産としては、武夷山は朱子学(新儒学)の創始者・朱熹が長年にわたり講学した地として儒教史に名を刻んでいます。武夷精舎をはじめとする書院の遺跡が残されており、東アジアの思想・哲学に多大な影響を与えた学問の聖地です。さらに、山中の崖に残された「架壑船棺(かがくせんかん)」と呼ばれる3,000年以上前の懸棺葬の遺跡は、古代閩越文化の貴重な証拠として考古学的にも高く評価されています。加えて、武夷山は中国茶の名産地としても名高く、武夷岩茶(大紅袍など)は世界的に知られたブランド茶です。
| 登録区分 Type |
複合遺産 |
| 登録年 Designated |
1999年 |
| 登録基準 Criteria |
(3)、(6)、(7)、(10) |
| 住所 Address |
Wuyishan, Nanping, Fujian, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
上海浦東国際空港より中国国内線(約2時間)「南昌昌北国際空港」下車後、自動車(約4時間30分) |
| URL URL |
三清山国立公園 / Sanseizan Kokuritsu Kouen[Mount Sanqingshan National Park]
三清山(さんせいざん)は江西省東部の上饒市玉山県に位置する花崗岩の山岳で、2008年に自然遺産として世界遺産に登録されました。主峰の玉京峰は標高1,819.9メートルに達し、道教の三清(玉清・上清・太清)にちなんでその名が付けられました。
三清山最大の特徴は、数億年にわたる地質変動と風化・浸食によって形成された花崗岩の奇峰群です。48の花崗岩の峰々、89の花崗岩の柱、そして数えきれない奇岩が雲海の中に林立する光景は、「西太平洋地域で最も美しい花崗岩の景観」と評されています。特に「巨蟒出山(大蛇が山を出る)」と呼ばれる高さ約128メートルの石柱や、「司春女神」と称される女性の立ち姿に見える岩峰は、三清山を象徴する名勝として広く知られています。
また三清山は生態系の面でも豊かで、亜熱帯から温帯にかけての多様な植生帯が垂直方向に分布しています。山腹には約2,500種の高等植物が確認されており、その中には中国固有の希少種も含まれています。1,600年以上の歴史を持つ道教の聖地でもあり、山中には三清宮をはじめとする230以上の道教遺跡が点在しています。自然の絶景と道教文化が融合した独特の景観が、登録基準(7)の「ひときわすぐれた自然美」として認められました。
| 登録区分 Type |
自然遺産 |
| 登録年 Designated |
2008年 |
| 登録基準 Criteria |
(7) |
| 住所 Address |
Yushan, Shangrao, Jiangxi, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
福州長楽国際空港より自動車(約6時間50分) |
| URL URL |
中国丹霞 / Chuhgoku Tanka[China Danxia]
中国丹霞(ちゅうごくたんか)は、中国各地に分布する赤色砂岩の地形群を対象とした世界遺産で、2010年に自然遺産として登録されました。江西省からは鷹潭市の竜虎山(りゅうこざん)が構成資産の一つとして含まれており、他に貴州省の赤水、福建省の泰寧、湖南省の崀山、広東省の丹霞山、浙江省の江郎山の計6か所で構成されています。
丹霞地形とは、約6,500万年から数億年前に堆積した赤色の砂岩・礫岩層が、その後の地殻変動による隆起と長年の風化・浸食を経て形成された特異な地形のことです。鮮やかな赤褐色の断崖、塔状の岩峰、天然の橋、洞窟などが特徴的で、地球の地質史における重要な段階を示す顕著な見本として登録基準(7)(8)を満たしています。
江西省の竜虎山は、丹霞地形の代表的な景観に加えて、中国道教の発祥地の一つとしても知られています。後漢時代(紀元1世紀頃)に張道陵がこの地で丹を煉り道を修めたと伝えられ、正一派道教の本山として1,900年以上の歴史を持ちます。瀘渓河に沿って赤い岩壁がそびえ、崖面には春秋戦国時代(約2,600年前)に遡る崖墓群が残されています。これらの懸棺は古代越人の独特な葬送文化を物語る貴重な遺跡であり、丹霞地形の自然美と相まって他に類を見ない景観を生み出しています。
| 登録区分 Type |
自然遺産 |
| 登録年 Designated |
2010年 |
| 登録基準 Criteria |
(7)、(8) |
| 住所 Address |
Guixi, Yingtan, Jiangxi, China |
| 地図 Map |
地図(Map) |
| アクセス・最寄り駅 Access, Nearest station |
竜虎山:福州長楽国際空港より自動車(約6時間30分) |
| URL URL |
まとめ
江西省の世界遺産4件は、文人墨客に愛された廬山の文化的景観、儒学と生物多様性の宝庫である武夷山の複合的価値、花崗岩の造形美と道教が融合した三清山、そして赤い大地が語る地球史と古代信仰の竜虎山と、それぞれ異なる魅力を持っています。自然の壮大さと中国数千年の文化が重層的に織り込まれた江西省は、世界遺産を通じて中国文明の深さと多様性を体感できる地域です。

